第21話 作戦当日



 リンカ・コア攻略作戦の当日


 組織建物の前で、佐座目は情報を整理していた。


 侵入する建物は、都市の真ん中にある。

 周囲を背の高い建築物に囲まれたビル街の真っただ中。

 ナイトメアのせいで壊滅的な被害をうけた世界ではあるが、場所によって建物への損害はまちまちだ。

 まったく跡が残ってないところもあれば、そっくりそのまま人間だけが消えてしまったような場所と、かなり差がある。


 それで、肝心の施設周辺はそのマシな方の部類に入る。

 表向きは一般の会社を装いつつも、中身はエージェント達のいる組織だ。

 ウイルス発症時に、ナイトメアへの対処は比較的早く、無事な人間を逃がしたことで被害があまり広がらなかったのだろう。


「一番近い建物との距離は……。ざっと、五、六十メートル程、高低差を考えればたぶんいけるはず。燃料は大丈夫だったかな? 何も言ってこないところをみると稲穂さんが何とかしてくれたようですけど」


 ガソリンスタンドもまともに機能してない世界だが、計画中止の声がないということは何とかなったのだろう。


 整備班の彼らは離れた所で倉庫から機材を引っ張ってきたりチェックしていたりしている。


 そんな風に考え事をしていると、声がかかった。割と歳が近い男のエージェントだ。

 女性との交流は何故かあるのに、男はあまりなかったな。

 稲穂や五十嵐は例外だろう


「よう、サザメ、今回の作戦頑張ろうな」

「はあ」

「理沙が戻って来たのって、お前の影響だろ」

「まあ」

「女性が少なくなってきたから、目の保養に良いんだよな。ほらあいつ見た目はかわいいじゃん」

「性格も可愛いですよ」

「お前も災難だな、ディエスなんかに乗り移ちまって」

「まあ、それは本当ですね」


 文字におこしても見栄えもしないだろう、あたりさわりのない会話をしてその男は去っていく。


「すっかりなじんでるようじゃないか」


 一体何だったのだろうと思っているとアルシェに声を掛けられた。


「そう見えましたか」

「うん? 君はさっきの会話で嫌われてるように感じたのかい?」

「いえ、むしろ逆ですけど」


 好意を持って接してくれている事は分かった。それぐらいは。

 アルシェは美玲の方へ視線をやって、話す。

 離れた所にいる美玲と視線があって、慌ててそらされた。


「彼女も胸をなでおろしているみたいだ」

「ご心配おかけしているみたいですね」


 ところでアルシェは何か用があったから佐座目に話しかけてきたのではないのだろうか。


「用がなければ話しかけてはだめなのかい? まあ、用がなかったら近づかないのは本当だけれど」


 否定する気はないようだった。


「今から向かう目的地、リンカ・コアの事だけど。あの施設にはリンカーネーション実験といって、魂の輪廻、死者蘇生にまつわる研究もされていたようだよ」


 そんな話は調べてもどの本にも載っていなかった。


「極秘中の極秘の情報だよ。後は魂無き骸に別の魂を収納する研究とかもされていたようだね」


 そう言ってアルシェは意味深な笑みをこぼす。

 稲穂に続いて、彼にも気づかれているかもしれない。


 しかしそれは本来の用事ではなかったらしい。

 アルシェはポケットに忍ばせて置いたそれを渡す。


「これを、君に渡してほしいと言われてね、整備班からのプレゼントだよ」

「これは、ミスティックセブン……? それに、カトレアファイブ? どうしてこれが?」


 改造が施されているが、それらは佐座目が元の世界に使っていた二丁の銃だった。


「さあ? 僕は頼まれただけだから分からないよ。ただ、こんな状態の良い銃は中々見かけられない。大事に保管されていたんだろうね」


 確かに、多少の傷はあるものの手入れがしっかりされていて、表面は新品もかくやという艶を放っている。


 何にせよ。


「ありがとうございます、助かりました」

「それは整備班の人たちに後で言っておくのが良いね」


 手になじんだ愛武器があるのは心強いことだった。


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