第8話 希望と絶望をかけた作戦
夢から覚めたら朝で、少しだけがっかりした。
もう少しあの世界にいたかったが、しょうがない。
佐座目はベッドから起き上がって、身だしなみを整えるために部屋の壁にある鏡をのぞき込む。
「この顔……」
どこかで見たような。
そんな事を考えていると扉の外から声がかかった。
「ディエス、まだ色々と混乱しているだろうが、念のためにミーティングには出てくれ」
美玲だ。佐座目には、どうやらやることがあるらしい。
支度をした後、彼女と共にミーティングルームへ向かう。
部屋の中には数十人の人間が集まっていた。
椅子に座っている彼らの視線の先にあるのは、大きなホワイトボード。
それぞれ手元には資料がある。
どうやら近いうちに何か大掛かりな作戦があるらしい。
その説明がここでなされるようだった。
美玲に付き添われるように部屋に入り彼女と並んで、置かれている椅子に腰かける。
何やら周囲からひそひそ声が聞こえたが、まったく気にならないと言えば嘘になるが、佐座目はいちいち気を回すことなく椅子の上に置かれていた資料に目を通す。
読んでいくうちに分かった事を大まかにまとめると、
この作戦は前に一度失敗したものだということ、
そして他の支部のエージェントとタイミングを合わせて行わなければならないということだ。
頭の中でまとめていると、前方に男性が立った。
この作戦を指揮する隊長か何かだろうか。
そう疑問に思えば美玲が、小さな声で教えてくれる。
名前は五十嵐、というらしい。やはり隊長だった
「我々は明日、リンカ・コアへの突入作戦を実施する」
男性は、厳しい表情をして話し始める。
周囲に集まったもの達は、深刻そうな顔をして「いよいよか」とか「大丈夫なのか」とか言いあっている。
どことなく不安そうな雰囲気だ。
「諸君も知ってのとおり、この作戦の成否はそのまま諸君らの未来に反映される。失敗など許されない。死ぬ気で成功させるつもりで挑みたまえ。失敗しようものなら、明日など永遠に来ないと思え」
そんなに大変な作戦なのか。
しかし、そんな風に頭ごなしに脅すなんて、逆に不安を招くことになるという事に気づかないのだろうか。
人の気持ちに鈍感な方であると言われる僕でさえ、そう思うのに。
それから一時間以上かけて、作戦の説明がされた。
内容はこうだ。
とある施設に侵入して、施設のガーディアン達と戦い奥まで向かう。
そしてそこにある装置を作動させるだけだ。
建物は二棟あるが、一号棟に目的の装置がある。
だが、一号棟の進入路が駄目になっているので、二号棟から入り連絡通路を使うらしい。
言葉にすればこんな感じだが、難易度が半端なかった。
どうシステムをとち狂わせたのか、侵入して三十分が経過すると建物が吹っ飛ぶという制約つきがあるというのだ。
入口から奥までの距離を公開された図面で計算するに、余計な時間を使っている暇はなさそうだっった。
これは不安にならずにはいられないだろう。
説明が進むにつれて周囲の顔色が曇っていく。
佐座目は資料に目を落とす。
建物の名前はリンカ・コア。
それは抗体組織の所持する建物の表向きではない方の名前だ。
仮初の姿としてテーマパークに関係する会社を名乗って、業務も実際に行われていたようだが実質は違う。
ナイトメアウィルスを駆逐するための抗体を散布薬として完全なものとする為の研究が行われていたのだ。
しかし、その場所は数年前に、抗体組織の反逆者によって乗っ取られ現在のような防衛装置が驚異的に狂った建物にされてしまっている。
建物の奥へ行き、システムを正常に起動させ研究成果を持ち帰ることができれば散布薬を完成させることができる可能性が上がり、この世界に希望をもたらすことができる。
しかし失敗すれば建物は散布役もろとも爆発してしまう、というわけだ。
一度目の時は上手く、時限装置の問題を回避できたようだが二度目の時はそうもいかないらしい。
何にせよ、佐座目が思うのは、
「これ、僕も参加しなくちゃいけないんでしょうか」
そんな自分の事だけだ。
ただでさえ、わけのわからない状況なのに、これ以上別の問題を増やしたくないというのが正直なところだ。
誰にも聞こえていないと思っている独り言を、美玲に聞かれていたとはこの時は知りもしなかった。
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