第5話 サボリの城



 まずいなと思った直後、医務室に美玲が現れた。ナイスタイミングだ。

 僕は彼女に連れられてとりあえず、私室へと案内してもらう事にした。

 本当はそれすらも聞かない方がいいのだろうが、彼女以外だと会話にならなさそうなので仕方がない。


「自分の部屋すら忘れるとは……」


 やはり不思議がられてる。

 先程の女性のような怪しむ態度ではないのがまだ救いだが。

 そういえば、名前聞いてなかったな。


 そんな事を考えていると、じっとこちらを見つめる視線に気づいた。


「あの、何か?」

「本当に記憶を失くしたのだな、と思ってな」

「それ、皆さんにも散々言われましたよ」


 最初に医務室に連れてきてくれた女性はともかく、他の連中には、遠回りにひそひそ声で、だが。


 こうして歩いていると、通りすがりの人からよく注目される。


「変わったものだな」

「そんなに、ですか?」

「ああ、かなり、な。あいつは本当に悪い意味で突き抜けた奴だったからな」

「ご迷惑おかけしました」


 佐座目としては当人ではないがそう謝っておく他ない。

 しかし、まずいことだらけだ。

 ディエスとやらがもう少し協調性を持った善人だったなら、佐座目はこんな緊張を強いられずにすんだというのに。


 だが、今更態度を変えるわけにもいかない。

 もう、十分に彼女らとは言葉を交わして関係を作ってしまったのだから。


 できるだけ、目立たないようするしかないと考えた時、


「この部屋は?」

「見ても何も面白いものなどないぞ」


 話しながら通り過ぎようとした部屋を指して言ってみれば、そんな答えが返ってくる。表情が面倒くさそうだ。


 目の前の扉は、他の部屋の扉とは少し違う。

 建物内で、傷んだり、焼け焦げたりひびが入ったりしてる場所は、珍しくない。

 だが、その扉はあえて、汚されたり、傷つけられたりしているようだった。


「あいつ……この部屋の主は、前のお前と同じく変わり者だ。攻撃的なあいつとは違って掴みづらいところがある奴だ。協調性がかけるところは一緒だな」


 美玲はそんな風に説明してくれる。


「前は別の用途で使われていたが今はサボリ魔の城になっている。少し離れてろ」

「あ、はい」


 美玲が一歩前に出て扉へ近づく。

 よく分からないが、佐座目は言うとおりに後ろへ下がった。


 彼女は息を吸って吐く、一泊おいてドアを開け放った。


 ガンガン、ゴーン、キィィィィィィー


 中からすさまじい音と閃光が発生した。


 なんだ、この部屋。


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