第8話 成長したけど過信はしない

アランによる特訓を始めて、はや1年が過ぎようとしていた。


アズベルの剣技には磨きがかかり、まだ子供ならではの弱みがあるが、それでも良くできたものになっていた。

体術も積極的に取り入れ、その成長にはアランも驚いていた。


しかし、いくら褒められようともアズベルは、決して過信しなかった。自慢もしなかった。よほど、前の手合わせの件が身にしみたようだった。




       ◆◆◆




「はぁぁぁ!」

声をあげながら、アズベルは刺突を放つ。


「ほれっ」


みぞおちを狙ったその剣を、アランは身の捻りだけで避けた。そしてそのままヌラリと剣を首筋へと向かわせる。


「くそっ!」

アズベルは腕の返しを使い、剣先で受け止めた。


ガキィィィン!

鈍い音が響き、アズベルは後方へ押し返される。すぐさまアランが追い打ちをかけてくる。


「はっ!」

振り下ろされる剣を、身をひるがえす事により避けた。その際に、そのままの勢いで剣を切り上げる。


不味いと思ったのか、一旦距離をとるアラン。アズベルもバック宙をして、後方へと下がっ…「ほいっ」

休む暇もなく、アランが迫ってくる。


(集中!)

アズベルはそれを避けることなく、受け止めようとする。

(あの技で決めてやる!)

アズベルはアランの剣だけでなく、身体全体にも意識を向け、タイミングを計る。


(何?!)

アランは直前に、剣筋を刺突に切り替えた。不意を突かれた攻撃に、アズベルは避けることもできない。

為す術もなく剣は迫り、アズベルはとっさに目をつぶり構える。

(くそっ!…)


ドンッ!

衝撃波がアズベルを襲った。


「…あ、れ…?」

いつまでたっても訪れない痛みを、不思議に思ったアズベルはゆっくりと目を開いた。


「なっ?!」

そこにあるのは、剣の先。

アランはギリギリで止めていた。


(手加減された…)

その事実を悔しく思うとともに、自分もまだまだだ、と改めて実感する。


「ほっほっほっ…途中までは良かったが、最後のは分かりやす過ぎじゃ。避けもせずに立ち止まるだけでは、暗に次に何をするか相手に伝えておるようなもの。」

「やはりそうだよな…」


まさしくそうだ。避けることなく立っているだけだと、誰でも不信感を覚える。何か罠がある、と理解する事となる。


「次からは、他の技と組み合わせて使うと効果的じゃぞ。アズベルくんも早く、どんな状態でもあの技…衝撃反射インパクトリフレクションを使えるようにならねばのう。」


僕はまだ、衝撃反射を立ち止まった状態からしか使えない。そのため、今回の様にどうしても相手に察知されてしまう。


「早く、使えるようになりたいなぁ…」

「ほっほっ…練習あるのみじゃな。」


アランは可愛らしい子供を見る様な目で、アズベルを見ていた。


「まあ、今日の訓練はこれで終了とするかの。お疲れさまじゃ。」


そう言い、アランはアズベルに柔らかなタオルを渡してきた。


この世界の生活様式は、アズベルの元いた世界とさほど変わらない。

アズベルがそのように作ったからだ。

無論、ファンタジー感をぶち壊すモノ、服装で例えるなら、ジャージやジーパン等は作らなかったが。

そのため、タオルも普通に存在していた。


「ありがとう、アラン。」

「なあに、構わんよ。」


にこやかに笑うアラン。


「そういえば、アズベルくん。」

「どうしたの?」

「もうすぐ、君の4歳の誕生日があるそうじゃないか。」


そういえばそうだな。このところ、アランと訓練しかしていないから、思いっきり忘れていたよ。


「あー、確かにあるなぁ。」

「わしも出席しても構わんかの?」

「え?!」


何を言い出すんだ、この人は…

そんなこと無理だ、と断わろうとする。


「あの…」

「あ!お二人ともお疲れさまです!」


マリーが話をさえぎった。


「マリー!」


マリーは冷えたお茶を持ってきてくれていた。


「これは、これは。マリーさん。」


アランは話の経緯を話す。


「素晴らしいじゃないですか!アズベルさん!是非とも来て頂きましょうよ!」


マリーは即賛成の意を示した。


「えっ…いや、しかしなぁ。」

「何を躊躇してるんです!剣王ですよ、剣王!そんな方が出席する誕生会なんて超プレミアものです!」


マリーは目を輝かせながら、アズベルを説得する。


(アズベルの誕生日に剣王が来るなんて…アズベルの評価が上がるわね)

アズベルを実の息子の様に思うマリー。考え方が完全に親のそれであった。


「それでもなぁ。剣王が来ることによる問題はどうするんだ?」


マリーは満面の笑みで自信満々に答える。


「なんだ、そんなことでしたか!大丈夫です!私にお任せ下さい、アズベルさん!問題は全て解決しておきますから!」

「ほっほっほっ…決まりじゃな。楽しみにしておくぞ。次に会うのは、誕生会じゃの。」


アランはさっそうと、荷物を片づけて帰っていった。


「あ!アラン!待ってよ!」

「やりましたね!アズベルさん!自分の誕生会に剣王が出席するなんて、とても名誉なことです!」


そう言い、マリーはぎゅっと抱き締めてきた。


「ぼふっ?!んんぅ~!!」


反抗しようにも、柔らかな物体に包まれて身動きが取れない。

諦めたアズベルは、マリーの気持ち良い体を全身で感じる。


スリスリスリ…

(マリー、柔らかいよぉ。気持ちいいよぉ…)


「んっ…」

声を漏らしたマリーは、優しく撫でるように手を動かす。


「ふふっ…アズベルさんは甘えんぼですね。」

「マリー…」


甘えんぼと言われても、怒りもせずにさらに抱きつくアズベル。


親が親なら子も子であった。

穏やかな時間が流れていた。

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