第二十九章 激闘の始まり
物質の温度を自在に操る
「さて、誰から引ん剝いてやろうかな?」
カルロスは下卑た笑みを浮かべ、淫靡な音をさせて舌で唇を舐め回した。そういう事に人一倍嫌悪を示す手塚治子が反応した。治子は
「おっと!」
カルロスは素早く横移動し、治子の攻撃をかわした。そして、
「じゃあ、お前からだよ、俺好みの治子ちゃん!」
目をカッと見開き、治子の服を加熱した。
「キャッ!」
治子は一瞬にして燃え上がった服を慌てて脱ぎ捨て、下着姿になった。カルロスはそれを見て口笛を吹き、
「おうおう、自分からストリップしてくれるの、治子ちゃん? 嬉しいねえ。手間が省けるよ」
カルロスの挑発めいた言葉に、片橋留美子が激怒した。
「治子さんに何をした、ゲスヤロウ!」
留美子は髪を逆立てて、
「遅い遅い、留美子ちゃん」
カルロスはニヤリとした。机も椅子も、一瞬のうちに燃え上がり、金属部分は融解して床に落ちて固まり、樹脂部分は鼻につく独特の臭いを発して燃えかすになってしまった。カルロスは肩を竦めて、
「おいおい、こんな
そう言って、何も仕掛けようとしないかすみを見る。かすみはカルロスの視線を撃ち返すように睨みつけていた。
「やっぱり、女はおっぱいがでかい方がいいよなあ、かすみちゃん? その制服、以前、忠治に切り裂かれたらしいけど、今度は燃やしてあげようか?」
カルロスはヘラヘラ笑いながら言った。忠治というのは、以前かすみを襲撃した天翔学園高等部の体育教師である。
(こいつ、国定先生の事を知っているの?)
かすみは眉をひそめた。カルロスはかすみの表情の変化を見て取り、
「もしかして、制服はもうそれだけかな? それを燃やされたら、学校に着ていく服がなくなっちゃうのかな?」
再び下卑た笑みを浮かべた。留美子がもう一度サイコキネシスで部屋の隅に立てかけてあった会議テーブルを飛ばした。
「考えたねえ、留美子ちゃん。大きければ、燃やし尽くせないという事か?」
だが、カルロスは微塵も
「く……」
留美子は歯軋りしてカルロスを睨んだ。するとカルロスは、
「おイタが過ぎる子には、罰を与えないとね」
そう言って目を見開いた。留美子も服を燃やされるかと思ったが、
「があああ!」
雄叫びを上げて、膝をつき、涙を流して悶絶した。彼女の口から夥(おびただ)しい血が流れ出た。
「何をしたの!?」
治子はかすみに渡されたタオルで身体を覆いながら怒鳴った。カルロスはフッと笑って治子を見ると、
「留美子ちゃんは、以前、治子ちゃんに前歯を折られて、治療してもらってるよね。その時、差し歯を作っただろ? その差し歯に熱を加えたのさ」
カルロスのその言葉にかすみはハッとした。
(もしかして……)
彼女はカルロスの能力の弱点を見つけた気がした。
「留美子!」
治子が
「隙だらけだぜ、治子ちゃん!」
今度は彼女の下着に熱を加えようとした。その寸前、かすみがカルロスの真後ろに瞬間移動し、
「えい!」
カルロスの後頭部に手刀を叩き込んだ。
「ぐへ!」
完全に不意を突かれたカルロスは、前のめりに倒れてしまった。治子はそれを見て、留美子を抱きかかえると、カルロスから離れた。
「このアマ!」
カルロスは目を吊り上げて立ち上がり、振り返ってかすみを見た。
「かすみさん……」
治子と留美子はかすみの姿を見て唖然としてしまった。かすみは一糸まとわぬ全裸になっていたのだ。但し、胸と股は腕と
「く……」
それを見てカルロスは喜ぶかと思われたが、何故か歯軋りした。かすみはカルロスの様子を見て、
「やっぱりね。貴方は何でも加熱できる訳ではない。生物にはその力は使えないのね?」
今度は、カルロスははっきりそれとわかる程、狼狽えていた。
「どうしてわかった?」
カルロスは額から汗を垂らしてかすみを睨みつけた。かすみは胸を気にしながら、
「貴方が留美子さんの差し歯を熱したからよ。同じ熱するなら、口の中や皮膚を熱した方がいいのに、何故か差し歯を熱した。それで、ピンと来たの」
治子と留美子は顔を見合わせた。カルロスは肩を竦めて、
「参ったな、降参しないとならないかな?」
かすみはそれでも警戒心を解かなかった。
(この男、まだ何か隠している……。一体何?)
治子もかすみの意識を覗いて、カルロスがまだ仕掛けようとしているのを悟り、留美子に目で合図した。
「確かにかすみちゃんの言う通りだ。俺は生き物には直接攻撃はできない」
カルロスは両手を挙げて、降参のポーズをしてみせた。だが、かすみ達はそれが見せかけだと思っている。
「だけどな」
カルロスはニッと笑ってかすみをもう一度見ると、
「直接は攻撃できないけど、間接的にはできるんだぜ」
次の瞬間、かすみの周囲の空気がたちまち凍りついていった。
「え?」
予想外だったかすみは、何もできなかった。彼女は全裸のまま、身体の周りを氷で埋め尽くされ、身動きが取れなくなってしまった。治子と留美子は呆然としてしまった。その間隙を突き、カルロスは治子と留美子の周囲の空気も瞬間冷却し、その中に閉じ込めた。
「さてと。もうすぐ、お前らのボスが来るんだろ? 感動の再会をさせてやるよ」
カルロスは高笑いをして、残っていた椅子を引き寄せると、ドッカと腰を下ろし、かすみ達を見渡した。
「俺が温度を上げるだけの能力者だと思ったのが、運の尽きだったな、嬢ちゃん達。生き物に通じないってとこまでわかったのは、誉めてやるけどさ。詰めが甘いんだよな、ガキはさ」
カルロスはかすみを見て、
「惜しかったなあ。そのポーズじゃ、おっぱいが見えないし、肝心の部分も手で隠しちまってるしなあ。ポージングを変えてから、固めればよかったなあ」
品のない言葉を吐き、品のない笑い声を上げた。
「おい、何だ、ドアはどうした?」
そこへ、何も事情を知らない森石章太郎がジェームズ・オニールと入って来た。そして、かすみ達の状況を見て、目を見開いた。更に森石は椅子に
「あ、てめえ! てめえがやったのか!?」
思わず銃を取り出しかけ、以前溶かされたのを思い出したのか、手を戻した。
「嬢ちゃん達のボスがご帰還だぜ。よかったな、感動の再会ができてさ」
カルロスはかすみ達をもう一度見渡してから、森石を見た。森石は悔しそうに眉間に皺を寄せ、カルロスを睨んでいる。カルロスは椅子から立ち上がって、
「そして、もう一人、登場だ」
ジェームズを見やる。ジェームズは一歩前に出てカルロスを見た。森石はジェームズとカルロスの戦いが始まると思い、二人から離れ、治子達のそばに歩み寄った。
「この方こそ、全能なるガイアだよ、諸君」
カルロスの言葉にかすみ達は驚愕した。するとジェームズはフッと笑い、
「紹介してくれてありがとう、カルロス。そう、私が全能なるガイアです、皆さん」
その中の誰よりも、治子が打ちのめされていた。
(そんな……。ジェームズ……)
かすみも留美子も言葉を失っていた。
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