金と薬と女と ~後編~



ユージは昭和製薬にいた。



依頼人の一文字を無視して社長室を隅々まで調べている。



そんな光景に一文字もただ目を丸くするばかり。ユージが一文字と目が合うと



「片付けはオヤジがしてくれっから」



笑いながら言った。



「何を、、、」



一文字が話だすと、ユージは指を口にあて、シーッと睨んできた。



「ん、、、」



ユージが机の引き出しを引いて裏から覗くと仕掛けられていた盗聴機を見つけた。



にやけたユージは盗聴機を一文字に見せつけて握りつぶした。



「これで安心だ。やっと喋れる。」



タバコに火を付け、ソファーに腰掛けるユージは話し始めた。



「まずは田辺。こいつは無事だから安心しな。ただ期限は来週までってとこだなぁ、、、うん。」



「どういう事だ?ナイトメア。」



「こいつを見てくれ。」



オヤジにも見せたファイルを一文字に差し出す。



「これは、、、?」



「来週御宅の株主総会であんたの椅子を剥奪しようとするやつがいるって話だよ。」



「、、、」



一文字は顔をしかめる。



「しかも新薬作成失敗の責任と資金の損失の責任を押し付けて。だから田辺を襲い監視下に置く。」



「そして事実上の新薬の失敗、及び私を失脚させる為に、、、」



「そういう事。まぁ安心しな。黒幕も解ってきたし、なんせ相手はヤーサンだし」



「ヤクザが相手なのか!?」



驚く一文字を余所に、ユージは溜め息を吐きながら



「大丈夫だよ。まだまだやることは多いけど、株主総会には間に合わせてやっから!」



最後に力強く言ってユージは昭和製薬を後にした。








「えっ?杏ちゃんいなくなったの?」



電話でチョコが驚いていた。



「あぁ。客のジジィが連れ去ったらしい。」



電話越しでの野太い声が静かにチョコに届く。



「あの地味な女がねぇ。まぁでも大丈夫だよ。。あっオーナーか」



笑いながらチョコはトレードマークのツインテールの片方を指で巻く。



「あっ。が渡してくれた凄いね。みんな色んな事を話してくれる様になったし。しかも今日は冴えないけど雑誌の記者さんが予約入れてくれたし。また情報が手に入るよ。」



チョコは笑いながら



「じゃまた後でね。」



時は夕方。電話を切ったチョコは待ち合わせの相手を見つけたのか手を振った。



「もぉ遅いよー。」



「ごめん、ごめん。」



謝りながらやって来たのはカジュアルな格好のユージだった。



「お待たせチョコちゃん。行こうか。」



ユージは満面の笑みを浮かべた。



「こないだよりだいぶ緊張がほぐれたみたいね。記者さん。」



チョコは含み笑いをしながらユージの腕を組んで歩き始めた。



「あっ!そうだ。今日はチョコちゃん誕生日だったよね?」



ユージが突然聞いた。



「えっ?私この前誕生日言ったっけ?」



「うん。自分から言ってたよ。」



ユージはとぼけながら言った。心の中では「実は言ってないんだよなぁこれが。まぁ見たとも言えないし」

と。



「だから今日お祝いでレストラン予約入れたんだけど行こうか。」



「記者さん、、、ありがとう!!チョコ嬉しい!!」



チョコはなんの疑いもなく満面の笑みをユージに見せる。



「じゃ行こうか。18才のお祝いだ。」



ユージは不気味に口角を上げた。







時同じくしてオヤジはあおいを乗っけてバイクを走らせていた。



周りを見渡すとコンテナが沢山積まれている。ここはどうやら貿易貨物の倉庫らしい。



バイクから降りて、辺りを見渡すとスーツ姿でサングラスをかけた男たちが散らばって、ショットガンを装備している。



「どうやらビンゴだぜ若。それにしても物騒過ぎるぜぇ」



オヤジは独り言をつぶやきながら足音を発てずに歩いていく。



「あの、、、ゲンちゃん?」



あおいがオヤジを呼ぶ。



「あぁ?」



「なんで私たちはここに?」



「その事かぁ、、、実はさっき若から貰ったファイルあるだろ?。それの一番最後に書いてあったんだ。」



「なんて?」



「嬢ちゃんを連れて港の5番倉庫に行けって。」



「ええっ?!」



あおいはビックリしながらも口に手を当て小声でオヤジに聞いた。



「あの若って人は今何を?」



「別件の仕事だそうだ。しかも嬢ちゃんを守ってくれとも言われてるし」



オヤジは辺りを警戒しながら目的地に向かって行く。



「なんでまた、、、私を、、、?」



「俺は頼まれただけだから知らねぇよ。若に直接聞くんだな。聞きたいなら俺の言う通り動くんだぞ?」



「うん。解った。ゲンちゃん。」



あおいは力強く頷き、オヤジと共に歩き始めた。



幾多の目をくぐり抜け目的地の5番倉庫に差し掛かろうとしたとき、オヤジが手を伸ばしあおいの動きを止めた。その場にしゃがんでオヤジは親指で差しながら



「覗いてごらん。」



あおいは言われた通りに覗いてみるとそこには、5番倉庫の入口の前で仁王立ちをしてショットガンを装備した、

カラオケでオヤジに銃を突きつけた男がいた。



「、、、!?」



あおいは静かに驚いた。



「ありゃぁマトモにやりあっても無理だから」



オヤジはニヤリと笑いながらなんかのスイッチを取り出して、ポチッと押した。



すると5番倉庫から離れた場所から爆発音がした。警備をしている男たちは驚きながらも音の方へと動き始めた。もちろん、5番倉庫の入口を守ってたユージにゴリラと呼ばれた男も一緒に。



オヤジ達は鉢合わせしないように慎重に素早く入口に向かう。



「爆弾仕掛けたの!?」



あおいは目を大きく見開かせてビックリしながらも小声で聞いた。



「ハッハッハ音だけな」



笑いながら説明してると、入口に着いたオヤジ達は扉を開けようとするが開かない。



「んだぁ!!」



「ゲンちゃん、、、あれ」



あおいが指を差した先にはパネルがあり、配線が扉まで伸びていた。



「電子ロックか、、、」



頭を掻きながらオヤジは適当にタッチパネルを押すが当然扉が開かない。



何度も何度も操作をするが開かない。4桁の番号をいれるシステムだが正解しない。



辺りを見渡すと爆発音の様子を見に行った男達が徐々に戻ってきた。



「おい!!不審なバイクがあるぞ!!」



声が響き渡る。



戻ってきた男の1人がオヤジのバイクを見つけてしまった。



「どうやらネズミが入ってきたようだ!!」



声がまた響き渡る。



「ったく誰がネズミだよ。」



オヤジがつぶやきながらあおいの手を掴んで走り始めた。



コンテナに隠れながら辺りを見渡すと通りに出る道が黒いスーツの男達によって塞がれていた。



「これが本当の袋のネズミってか、、、」








「わぁ!!チョコこんなオシャレなお店に来るの初めてぇ。」



チョコが声を踊らせる。



「だってチョコちゃんが大人に近付いたんだからちょっと奮発したぜ。」



ユージは気前の良いこと言って、高級レストランに入っていった。



ミシュランガイドに載りそうな高級感漂う雰囲気にチョコは目を輝かし、運ばれてくる料理を食べていく。



料理に1つ1つ写メを撮っていき、残すはデザートだけに。



「チョコちゃん。気に入って貰えたかな?」



「うん。記者さんありがと!」



満面の笑みで返事をしてきたチョコに対しユージは鼻で笑って首で返事をした。



「ちょっとゴメンよ。」



ユージはスマホを取り出しながら席を外した。



ユージがチョコから見えなくなった途端にチョコは辺りを伺いはじめた。



鞄に手を伸ばし三角折りされてる紙を取り出してテーブルの上で広げる。



中には薬が入っていた。チョコは恐る恐るユージのシャンパングラスに薬を入れた。



チョコは素早く紙くずを鞄に隠そうとしたら



「お待たせぇ」



ユージが戻ってきた。目を大きく見開かせて。



チョコは紙くずを落としてしまった。



ユージが席を座るとシャンパングラスに手を伸ばす。チョコも息を飲む。



「あれ?グラス汚れてんじゃん。マジかよ。」



ユージは手を挙げウェイターを呼んだ。



「どうされました?」



「すいませんグラス変えてもらっていいですか?」



チョコは驚く。自分のしたことがバレたのか不安に駆られた。



そんな中、食事を終わらせて2人はレストランを後にした。



端からみたらカップルの様に腕を組んで歩いてる2人。



「チョコちゃんこれから世界が待ってるよ。」



笑顔を振りまき突然ユージはチョコのみぞおちにパンチを入れ気絶させた。



「さぁて悪夢の始まりだ。」



チョコを背負いバイクに乗ったユージは走り始めた。







チョコは目を覚ました。



辺りを見渡すと何も無いけど何処かのホテルの一室なのはすぐに解った。しかし手足が動かない。ベットの上で手と足が縛られていた。



「何よ、、、何よこれ!」



チョコが叫ぶと静かな声が近づく。



「おっ!主役のお目覚めだ。」



一歩ずつチョコの方に近づく足音。チョコが恐る恐る目線を下にすると、



紫のつなぎを着たユージがチョコの目の前にいた。



「記者さ、、、ん?なに、これ?」



チョコが震わせながら声を絞り出す。



「さてチョコちゃん。いやって言った方がいいかな?」



「なんで私の本名を、、、」



「デートクラブを利用した会社の重役さんばかりを狙い、自白剤を飲ませ会社の秘密を聞き出す。その情報を親父に教えては強請って金を得る。やっぱりヤクザってのはマトモに金を稼ぐ人の方が少ないんだなぁ。」



ユージは目を見開きながら顔色を1つ変えず千代子を睨み続ける。



「私、なにも知らないよ。本当だよ。」



涙目でユージに訴える。



「証拠ならあるんだぜ?」



ユージはつなぎのポケットからスマホを取り出して千代子に見せた。



「!?」



そこには千代子が先程のレストランでユージのグラスに薬を入れてる所が映し出されてた。



「俺が雑誌の記者って事で何かを聞きたかったんだろ?」



「記者さんに薬はいれたのは謝るよ。でも他は知らないもん!!」



力強く反論する。



「君のお店の事務所から見つけたよ。重役名簿。担当は全部チョコちゃんじゃん」



ユージは半笑いしながら書類を取り出してチョコに突きつける。



「下心丸出しのオヤジ達を利用してなにが悪いのよ。金はありながらも女にモテない。家庭では相手にされない。だからと言って飲み屋の女だと気がひける。こっちだって時間使ってあげてるの!!」



チョコが開き直る。



「おいおい。まだ場末のキャバクラ嬢の方が良いことを言うよ。」



ユージは溜め息を吐きながら手を叩く。



「な、なによ、、、」



チョコは恐る恐る目線を下にさげた。するとそこにはカメラを持ったパンツ一丁の男達がぞろぞろとチョコを縛ってるベットの周りに現れた。



「現役若頭の娘って事で高値で売れたんだよねぇ。」



ユージがにやけながら声を弾ませる。



「何をするの、、、やめて、、、やめてよ。」



チョコが涙目ながらユージに訴える。



「お前さんは男の欲望を弄んだんだ。だったら今度は欲望に応えてやんないとなぁ。不公平だろ?それじゃ後は皆さんよろしくお願いしまーす。」



ユージは部屋を後にしてパンツ一丁の男達はチョコに対して男の欲望を、、、










「かぁ~!あっちこっちと追われちゃシャレになんねぇよ!!」



オヤジはあおいと共に追われていた。



「構わず撃て!」



スーツ姿の男達はオヤジ達に向かって銃を撃ち続ける。



「キャッ!?」



あおいが躓いて転んでしまう。オヤジがすかさず立たそうとするが気付けば囲まれた。



「ったくジジィ手こずらせやがって。」



銃を構えた男達は引き金に指をかけようとした瞬間。



エンジン音が近づいてくる。



「ん?なんだ?」



男達は辺りを見渡すと



「オヤジぃ!!目を瞑れぇ!」



辺りが目映い光で包まれた。



男達の悲鳴やうずくまる声が聞こえてきた。オヤジとあおいが目を開くとさっきまで自分達を囲ってた男達が倒れてた。



「えっ?なに、、、」



あおいがつぶやくと



「お待たせ。遅くなってすまないな。」



ユージが後ろから現れた。



「若!遅ぇぞ!!」



あおいの肩に手を置いてユージはオヤジに缶コーヒーを投げる。



「これ、詫び賃な」



「もっと高くてもいいんじゃね?」



笑いながら談笑してるユージ達の元に5番倉庫の入口を番してたいかつい男が現れた。



ユージが真面目な顔をして振り返る。



「決着着けなきゃなぁゴリラ。」



「貴様らをここで抹殺する。」



オヤジがあおいをかかえてその場を後にしようとした。



「行くな!!」



ユージが叫んだ。



「あおい、、、今だけは絶対目を背くな。そして自分で見つけるんだ。これからを。」



あおいは怯えた目を変えて何かを決めた目付きに変わった。



「遺言か?ネズミ?」



「馬鹿野郎。勝利を確定したヒーローインタビューだぜ。ゴリラ。」



二人は走り出した。いかつい男が繰り出したパンチを腕で受けとめる。しかしパワーがあるせいでユージの体制は崩れ、すかさず蹴りがボディーを直撃する。



「うッ!!」



ユージは吹っ飛ばされ地面に倒れ込む。



「終わりか?ネズミ?」



いかつい男が倒れてるユージに近づく。



「カラオケの時から吹っ飛ばされてばっかりだなぁ俺。」



咳き込みながら立ち上がるユージはすぐに右足を出していくがかわされる。



「!?」



蹴りを見切ってすぐに後ろに下がった男はすぐさま拳を繰り出す。



ユージはすぐに腕を出して繰り出される拳を1つ1つを当て身でかわしていく。



「相変わらずすげぇな若は。」



オヤジが缶コーヒーを握りしめて呟いた。



「ハァ、、、ハァ、、。」



ユージにパンチを当て身で全てかわされた男は肩で息をするようになった。



「接近戦には向いてないね。」



ユージが男のボディにパンチを連打。そして回し蹴りを喰らわした。



男は後ろに図去りながら倒れこむ。



ユージはすかさずマウントポジションをとり男を殴り続ける。



何回も何回もこれでもかと言うぐらい殴り続ける。



オヤジがユージの元に駆け寄って肩を掴んだ。



「もう、辞めろ!」



しかしユージは無視して手を払い殴り続けながら、



「あおい。よく見とけ。お前を捨てた、親父がカッコ悪く殴られ続けるのを。」



「!?」



あおいはユージの言葉で目を丸くさせた。



それでも殴り続けるユージを余所にあおいはその光景を眺め続ける。



しかしあおいの目から雫がこぼれおちていく。何度も。何度も。



「自分の都合で娘と離れておいて、時間が経ってやっぱり会いたい?守りたい?都合良すぎるんだよ!!」



ユージは殴り続けながら声を震わせて言った。



「そのせいで娘はどうなった?あぁ?お袋さんも他で男を作って娘1人置いて出ていって、餓死になりそうなところを助けられ、施設で暮らし、馴染めず街に出てはデートクラブってとこにたどり着いたんだろ?」



気付けばユージも目から雫がこぼれ落ちていた。



それでも殴り続ける。男の顔がだいぶ脹れてしまいオヤジもタバコを吸いながらただ見守るだけ。



あおいは膝を着いて泣き崩れていた。



「お願い、、、」



泣きじゃくる声であおいが言う。



「も、、、う。やめ、、、て。やめてよ!」



あおいがユージの元に走り体当たりをした。



ユージはその場を微動だにしなかったが殴るのを止めた。



まるであおいが止めるのを待ってるかの様に。



「若さん、、、」



「いや別に俺、若って名前じゃないし」



ユージが少し笑いながら言った。



「従業員名簿を見てたらあおいとこのゴリラの目元が似てると思ってなぁ、調べてたら見事にビンゴで血縁関係があることが判ったんだけど、、、そっから先が中々難航してなぁ。」



「若。初めから知っていたのか?」



「いや、全て偶然だよ。オヤジがあおいと出会ったのも含めて。今回は偶然が重なり過ぎたよ。」



「お父さん、、、?」



「あお、、、い。すまなかった。俺にはこれまで、、、」



あおいは涙ぐみながら父親のそばにいた。



男は咳き込みながらも話続けた。



15年以上の空白を埋めるかの様に二人は話ながら、時には笑顔し涙し



「あおいが、、、この店に入ってきたときは、、、驚いた。なんせ15年以上、、、離れてる娘に似てる気がして仕方なかった。」



すると男もまた調べたら自分の娘と分かり仕事の名目上娘を守るって大義名分が出来上がった。



「さて、ゴリラ。いや、あおいの親父。最後の仕事だ。」



男は少し鼻で笑いながら、ユージにカードキーを渡した。



「5番倉庫の、、、鍵だ。」



咳き込みながら男はユージに言った。



「これで、、、倉庫は開く、、、田辺もいる。」



「俺達が田辺を探してるのを知っていたのか?」



「いや、、、俺の任務はこの鍵のかかった倉庫の番をする事。田辺がここに入った時から、、、!?」



男はユージの後方からレーザーポインターが目に入った。



「伏せろ!!」



男が叫んだのと同時に銃声が響いた。



思わずユージたちが伏せた後、男の方を覗くと、



「お父さん!!」



銃弾は男の心臓を貫き、男は仰向けに倒れていた。



「あおい、、、すまなかっ、、、た。」



最後の力で男はあおいに耳打ちをして息を引き取った。



「えっ、、、!?やだよ。お父さん。嫌だよー!!」



あおいは泣き叫ぶ。



ユージは辺りを見渡して走り出す。



「オヤジ!!あおいを頼んだ。」



ユージは直ぐ様5番倉庫に向かい鍵を解錠する。



扉を明けると誰もいなかった。



「くっ、、、やられた!」



ユージの頭に後ろから銃口が突きつけられた。


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