11月 ニート、ごめんねが言えない

 寒さに耐えきれなくなった俺は晶子ちゃんの部屋の前にいた。とはいえ、まだ十一月。寒いのは夜くらいなもので、日中はまだましな方なのだ。もっと我慢しようと思えばできた。でも、俺は去年の悪夢を思い出す。あの寒さに凍えた冬を。そうするとなるべく早めに晶子ちゃんと寄りを戻して、あの温かい部屋に戻った方がいいと考えるのが妥当だ。

 しかし、どんな顔してまた部屋に上げてくださいと言えばいいのだろう。自分勝手に部屋を出た癖に、どの面下げて戻ってきたんだと言われてもおかしくない。いや、そんなに晶子ちゃんは酷い人じゃない。優しく俺を招き入れてくれるかもしれない。でも、俺はそれじゃ晶子ちゃんの善意に漬け込んでるみたいじゃないか。さらに俺のクズ度が上がるだけじゃないのか。いやいや、俺のクズ度なんか今更どうでもいい。まずはこの冬を乗り切るために晶子ちゃんと仲直りをしないといけない。

 日が落ちると急激に寒くなる。コンクリートの床は俺の体温で少し温いが風が冷たい。晶子ちゃんが帰ってくる時間が刻一刻と近づいてくる。心臓がバクバクし始める。どうしよう。俺はどうやって晶子ちゃんと接したらいいんだ。一発殴ってもらうか? 女の子に殴ってくれって言うとか、ドMかよ。変な勘違いをされても困る。考えすぎか? ああ、もうどうしたらいいんだよ!

「統一くん……!?」

「はっ、うあ、あ、あの……その……」

 俺は突然かけられた声に反応してその場でうずくまった。塹壕があったら迷わず飛び込んでいただろう。

「何してるの!?」

 晶子ちゃんは俺の正面に座って俺の顔をよく見ようと、俺の腕をぐいと掴んだ。

「大丈夫? 心配したんだよ。ちょっと顔見せて。ご飯食べてる?」

 俺は晶子ちゃんと目が合わせられなくて、腕を掴まれてからも目線を泳がせて無駄な抵抗をした。

「早く部屋入って。寒かったでしょ? もう、どうしたら一カ月も連絡しないなんてことになるのよ」

 部屋の中は以前と何も変わらなかった。全てが理路整然としていて、俺がいない間のブランクなどなく、俺を迎えてくれた。でも、俺はその部屋に入ることができないでいた。玄関で靴を履いたまま立ち尽くした。

「どうしたの? 早く入りなよ」

 何て言えばいいのだろう。こんな俺に優しくしてくれる人にどんな事を言っていいのだろう。俺に晶子ちゃんと一緒にいる資格なんかないじゃないか。

「……ごめんなさい」

 俺は最も単純な言葉しか言えなかった。

「ん? 何?」

「ごめんなさい。一カ月も家出して、心配かけてごめんなさい」

 俺は恐る恐る晶子ちゃんの目を見た。晶子ちゃんは何とも思ってなさそうだった。

「何謝ってるの。どうせ他に行くところなんかないんでしょ? 私しか頼れる人がいないなら、私はいくらでも力になってあげるよ!」

 晶子ちゃんは俺に靴を脱いで部屋に入るように言った。俺は風呂はいいから先にシャワーを浴びると言った。風呂場で俺はお湯に紛れて泣いた。

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