5月 ニート、相手にされない

 俺が珍しくグチをこぼしたら、晶子ちゃんが言った。

「それならさ、原稿の持ち込みとか行ってみればいいんじゃないの?」

 単純な話だった。何故俺はそんなことにすら気付かなかったのだろう。持ち込みとか、めちゃくちゃ普通のことじゃん。

「そうだよね! 何で俺気付かなかったんだろう!」

 というわけで、俺は翌日、ある出版社に電話をかけた。晶子ちゃんがアポはちゃんと取ってから行くのが社会のマナーだと教えてくれたからだ。

「はい、○○出版です」

「あ、あの、原稿の持ち込みをしたいのですが……」

「どういったものになりますか?」

「ライトノベルで、十万字くらいのものなんですけど――」

「申し訳ございませんが、弊社では小説の持ち込みはご遠慮いただいております」

「え、そうなんですか?」

「はい」

「わかりました……」

 俺は電話を切った。

 え? 持ち込みって、受け付けてないの? 知らなかった。ていうか、それでいいの?

 俺は他にもいくつか出版社に電話をかけたが、交換手のお姉さんに丁重に断られ続けた。

「晶子ちゃん! 聞いてよ!」

 晶子ちゃんが帰ってきて部屋のドアを開けた瞬間、俺は晶子ちゃんに泣きついた。

「何、どうしたの?」

「ラノベの持ち込みってダメなんだって!」

「え? そうなんだ」

「どうしよう!」

「どうしようって言われても、しょうがないね。それじゃ、また新人賞に向けて書けば?」

「うん……そうする……」

「夕飯作るからちょっと待っててね」

「はーい!」

 俺は元気な声で返事をしたが、持ち込みという手段すら断たれた俺にチャンスはあるのかと内心、不安だった。一年間、新人賞に応募し続け、一度も一次審査すら通過しなかった俺は、俺の作品は、ちゃんと読まれているのか? 今まで何も考えなかったが、急にそんなことを思ってしまった。俺の作品を読んでくれるのは、二ヶ月前の卒業式で再会した後輩の大学生や、時々飲みに誘ってくれる友達、そして晶子ちゃんくらいしかいない。読んでくれたって、感想をくれることは稀だし、俺に気を使っていいことしか言わないでいてくれている可能性だってある。

 持ち込みなら、必ず編集者の人が読んでくれると淡い期待を抱いてしまったのが原因だった。ああ、晶子ちゃん! 俺になんというアドバイスをくれちゃったんだ!

 でも、こればかりはどうにもならない。今後も俺は新人賞の締切を目指して書くしかないのだ。また新しい作品を一から練って、古いノートパソコンの具合を心配しながら……。

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