トライアスロン軍事サミット

ジャック孟玩

第1話 海路(スイム)

「世界中の皆さんこんにちは。いよいよ待ちに待った日がやってまいりました。四年に一度の祭典『トライアスロン軍事サミット』の開始時刻が今か今かと迫っています。五輪やサッカーワールドカップよりも非常に重要な大会です。世界中の皆さん、初めから終わりまで何が起こるか分かりません。しっかり自国のチームをそれはもう死ぬ気で応援しましょう」


「さあ、開会式も終わり各国のチームがスタート位置に向かいます。では、この間に『トライアスロン軍事サミット』の歴史とルールについて説明します。あっ、興奮して自己紹介を忘れてました。今回の第二十回『トライアスロン軍事サミット』ジパング大会の実況努めます。Mr.スミスと申します。この大会の全てを余すところなく皆さんにお届けできるよう頑張りますので、どうかよろしくお願いします。大丈夫ですか? では改めて。皆さんはもう耳にタコができるくらい聞いていると思いますが第一回の生い立ちから説明します。まずこの大会が始まるきっかけとなったのは約百五十年前に起きた、そう、あの第三次世界大戦です。きっかけは何であれ、あの大戦によって世界中で大量破壊兵器が使われ多くの尊い命が失われてしまいました。それに戦争で生き残った人達も友達や家族、住む場所や働く場所、大事なもの全てが奪われてしまい、世界中が深い悲しみや絶望に包まれました。私の考えで恐縮ですが、あの時代に勝者はいないと思います。全ての国が、全ての人が敗者だと思います……失礼しました。その後二十年続いた戦争も終わり、生き残った人々は、先の時代よりもより良い時代にするべく、手を取り合い、助け合い、一生懸命に働き、今の時代の基礎を作りました。ありがたいことです。ただ、歴史は繰り返すといいますか、約半世紀かけて世界中が豊かになると、また争いの種がちらほらと芽生えてきました。このままじゃいかん。このままじゃまた戦争になりかねん。と考えた世界中の有力者や学者、時の政府が議論に議論を重ね、その結果生まれたのが、今から行われる『トライアスロン軍事サミット』の第一回大会であります。ではその『トライアスロン軍事サミット』とは一体どういったものなのか、それを説明しましょう。と言っても至極単純明快。スポーツのトライアスロンのように決められたコースを一番速くゴールしたチームが優勝という非常に分かりやすい大会になっています。ただ、普通のトライアスロンとは規模が違い、それぞれの国が威信をかけて造った最新鋭の機械、マシン、兵器がしのぎを削りぶつかり合います。そして、晴れて優勝した国が特権として、四年間、世界のルールを決める事が出来ます。各国の政治、経済、宗教、領土など、あらゆる争いに発展しそうな問題にも口を出すことができます。そりゃあ、最初の頃は不平不満も出たと思いますが、戦争で何十年も殺し合いを繰り返すよりはよっぽどまし、という結論になり今に至っています。現にこの大会が始まってから世界では一度も戦争は行われていません。世界中で浸透し受け入れられた証だと思います。それでは各チームスタート位置に出そろいましたので、第一コースから順番に紹介していきたいと思います。その前に一旦CMをどうぞ」


「はい、では今回も前回と同じく九チームがエントリーしています。それでは早速紹介していきましょう。第一コースに位置しますはラスィーヤ連邦チームであります。前回、前々回は不覚を取りましたが、三大会ぶりの優勝を狙います。祖国に優勝を持ち帰る事ができるか? 続いて第二コース。前回に引き続き連合を組みますは、ブリテンアウストラリス連合王国チーム。ブリテン王国は、第三回、第五回と優勝していましたが、それからは優勝から遠ざかっています。前回は初めてアウストラリス国と連合を組んで参戦。今回もまた連合を組みます。女王の威信のためにも優勝したいところ。さて続きまして第三コース。ラテンパタゴニアチーム。こちらはサッカーワールドカップでは三連覇していますが、この大会ではまだ優勝はできていません。悲願の初優勝をねらいたいところです。続いて第四コース。ムガール帝国チームです。こちらもまだ優勝はありませんが、徐々に力をつけてきています。各国のチームは侮れないところ。続いて第五コース。ムガール帝国のお隣の国、セリカ人民共和国チームです。第十回、十一回と連覇したこともあります。セリカ四千年の歴史を見せられるか注目したいと思います。続きまして第六コース。サブサハラチーム。かつては暗黒大陸とも呼ばれ参加もままならなかったですが、第十五回大会ではチームが一つになり、初優勝を果たし、地元開催に花を添えました。今回はどこまでやれるか。続きまして第七コース。ローラシア連合チームです。毎回安定感があり四回も優勝経験があります。四大会ぶりの優勝なるか。続いて第八コース。優勝候補大本命、優勝回数八回と他を圧倒、第十八回、第十九回チャンピオン。メリケン合衆国チームです。もう説明はいらないでしょう。あらゆる分野で世界を引っ張る世界のリーダーです。今回も優勝して三連覇といきたいところ、注目です。さて最後になりました。第九コース。初優勝となるか。開催国のジパングチームです。第一回から参加していますが。まだ優勝はありません。でも今回は、地元開催なので気合が違います。科学技術やものづくり、国民の勤勉性などは世界トップレベルだと思いますが他国に比べて闘争心がやや足りないのが弱点か。でも今回はやってくれるでしょう。以上第一コースから第九コースまで紹介しました。もういっちょCMです」


「はい、では今回のコースをざっと説明します。開催国ジパングの北に位置します、エゾのクシロ港を出発してパシフィックオーシャンを進みます。それから、リュウキュウを回りヒゼンのデジマ港に着きます。ここまでがトライアスロンのスイムにあたります海路です。それからデジマを出てスルガの樹海まで進みます。ここまでがトライアスロンのバイクにあたります陸路です。後はフジヤマの頂上のゴールテープを切るだけです。これが最後のランにあたります。分かりましたか? コースさえ守れば後は自由です。銃を撃とうが、ミサイルをぶっ放そうが。あっ、でもデジマから先は飛行するものを使うのは禁止です。空中戦は海路で十分見られると思います。それでは……やっぱり皆さん気づきましたか? そうです私が着ているコレ、先程のCMで見たと思います。パーフェクトバリアスーツ。頭文字をとってPBSです。これを着ていればどんな熱や衝撃にも耐えれますし酸素もついているので窒息することもありません。ですので、これを着ている各国の選手は安全にレースができます。ただ、PBSが一定以上の衝撃を受けた場合は電気信号で赤くなり、その情報が本部へと送られ、その選手はリタイア扱いになりますので、ご注意を。それではいよいよカウントダウンにまいります。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、今スタートの鐘が鳴らされました」


「やはり各国最新鋭の空母で海路を進んで行きますね。例年通り静かな立ち上がりです。それではバトルエリアに入るまではまだ時間がかかりそうなのでルールの補足説明に入ります。各チーム参加人数は無制限、海路に使える船は一隻、ヘリや戦闘機などの飛行機は八十機、ただし使用区間は海路だけ。武器は無制限、ただしバトルエリア限定です。バトルエリアの範囲は、港の近くじゃなければどこでも、と覚えておけばいいです。海路の説明はこんなものとして、あっ、忘れてました。海路の武器は全部模擬弾なので当たっても爆発しません。そのかわり、電気信号が発生しますので船や戦闘機は航行不能になったりします。まあPBSの応用版といったところでしょうか。陸路は飛行しなければ何を使用してもOKです。バイク、車、戦車、何でも。台数も無制限です。ただし、スタート位置から用意したものじゃないと使用できません。途中で現地調達したり、他国のものを奪ったりは禁止です。ですので、各国大きい空母に乗せられるだけ乗せていますね。ちなみに陸路からは、海路と違って武器は本物なので迫力のある戦闘が見られると思います。最後にランの部分ですが、ここは乗り物は一切不可です。己の足を使うだけです。ただし、武器は使用可能です。ライバルを後ろから撃つこともできます。ここは各国の選手が四年間鍛え上げられた腕を見せる場所です、大いに期待しましょう。さあ、もう間もなく各チーム、バトルエリアに突入します。今回はどういったレース展開になるのか非常に楽しみです」


「さあ、各チーム一斉にスクランブル。瞬く間に空に百機以上の戦闘機が飛び上がりました。空を制する者が海を征す、と昔の偉い人はよく言ったものです。どのチームが制空権を支配するでしょうか。さて、海上の方はまだ各チーム横一線。どのチームも周りをうかがっています。第五回大会ではスタートダッシュを決めようと飛び出したチームがその他全チームから一斉に攻撃を受けてしまい、そのままリタイアなんて事もありました。やはりここは慎重にいきたいところです。あーっと、ここで一チーム飛び出しました。ラスィーヤ連邦です。つづいてセリカ人民共和国も飛び出しました。二チームが飛び出した形になりました。さあ、ラスィーヤとセリカお互い攻撃が当たる距離まで近づきました。ようやく戦闘が始まるのか? ――まだです、まだ始まりせん。お互い攻撃する気はなさそうです。これは、始まる前から同盟を組んでた可能性もあります。さすが『トライアングル軍事サミット』どこと同盟を組もうが、裏切ろうが何でもありです。優勝しさえすればいいのです。それが正義なのです。さあ、二チームがどんどん各チームを離していきます。このまま進んでしまうのでしょうか? 動いた、動きました。ここで優勝候補筆頭のメリケン合衆国が二チームの後を追うようにスピードを上げました。ついに戦闘の火蓋が切られました。メリケンの戦闘機が前の二チームに襲い掛かります」


「激しい空中戦が繰り広げられています。やはり、メリケン強い。二チーム相手にも互角以上の戦いをしています。おーっとここでサブサハラとムガール帝国がメリケンの後ろにつけました。このまま前後からの挟み撃ちでメリケンを倒せるか? ――なかなか攻撃できません。それどころか防戦一方です。メリケンを囲んだと思いきや、逆に四チームに囲まれてしまいました。右翼にブリテンアウストラリス。後方にラテンパタゴニアとジパング。左翼にローラシア。四チームから集中砲火を受けています。サブサハラとムガールは耐えられるのか?」


「あーっと、やっぱり駄目か。ジパングの首都エドを横目に早くも二チームがリタイアです。均衡を何とか保っていましたが、ローラシアとジパングの攻撃にサブサハラが耐えきれずに航行不能でリタイア。その結果ムガールも、サブサハラが守っていた左翼から攻められ、三方から攻撃を受けてはどうする事も出来ずに航行不能でリタイア。残り七チームで海路の中盤戦へと進んでいきます」


「さあ、先程の勢いでといわんばかりに、メリケンの右翼にブリテンアウストラリス。左翼にローラシアが配置につきました。このままラテンパタゴニアとジパングが後方について、先程の再現になるかといったところ。あーっとジパングが不意をついてラテンパタゴニアに攻撃を仕掛けています。不意をつかれたラテンパタゴニア一気に浮足立っています。おーっとここでメリケンスピードを緩めました。ジパングと一緒にラテンパタゴニアを叩こうとしています。さすがメリケンあっという間にラテンパタゴニアを航行不能にしてしまいました。これで残り六チームとなりました」


「さあ、海路も終盤戦。各チームリュウキュウを周りました。あっ、そうそう、リュウキュウといえばジーマーミー豆腐が美味しいです。皆さんも食べる機会があれば是非食べてみて下さい。なんて、そんな事言ってる場合じゃなかった。いつの間にかメリケンがトップチームに並んでいます。三チームが横一線。その後ろに第二グループの三チームが並んでいるといった状況です。あれから空中戦も海上戦もつづいているのですが、どこもメリケンとはやり合いたくないらしく、決定的な戦いは起こっていません。さあ、もう間もなくバトルエリアを抜けます。デジマが見えてきました。勝負は陸路の戦いへと進みます。いったいどうなるのか一秒たりとも目が離せません。では、ここで一旦CMです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る