再会

指で地図をなぞりながら、風の家の周辺と、雲の病院の近くの地蔵堂、そして霧と訪れた場所は淡く金の尾を引き六亡星の形に線を結ぼうとしている。

しかし、なぞる指に少しだけ違和感があった。山の祠の、おそらく雨たちが向かっている所だ。

「お待たせ。さあ、戻ろう」

霧がエンジンをかける。

「まって、雨と住んでいた資材置き場の先の祠に行ってくれる?」

「いいけど?なんかあった?」

「うん、ちょっと。そこの角からホームセンターの道に出れば早いよ」

ウィンカーを点滅させながらいつぞやに唐揚げをひっくり返してしまった道に出る。あの時の血の匂いも闘争の興奮も随分と色あせてしまった。

三車線の大通りを、焦る気持ちとは裏腹に六十キロでのろのろ進む。別段混んではいないが、車の流れは緩慢だ。山道に入り、少しスピードが出る。すぐにでも現場に着きたかったが思うようには進まない。

苛立ちを見抜かれたように気分が悪いのか?と聞かれて、そうじゃないと素っ気なく答える。

資材置き場に着き、車から飛び出して山の斜面を一気に登る。朽ちた丸太の階段があらわれ、それを一段飛ばしで駆けると、滑ってしたたかに膝を打ちつけてしまった。

「大丈夫か?」

 背後から声をかけられるが、うん、とだけ呟いてまた登る。この階段を上りきったところで嫌なものを見てしまうかもしれなかった。それでも足は動くのを止めない。

階段を上り切って、棒立ちになっている二人が見えた。そして、よく似た姿の白い子が雨の方へ歩み寄っていた。

大声で雨を呼ぶ。驚いた虹が振り向いたが、雨はずっとその子を凝視している。すりむいたひざから血が滲んでいる。何度も雨、と叫びながら痛む足を引きずり傍へ寄る。

雨が白い子へ手を伸ばす。それが何でできているのか、なんなのか知っている。だから、雨をそれに接触させてはいけなかった。雨へ伸ばした手が腕をつかむ。腕が大きく跳ねた。

「おか、あ、さ、ん」

一糸まとわぬ白い子は、動きを止め雨を呼ぶ。

「駄目だ。雨、しっかりして。こっちへ、帰ろう」

ひやりとする風が吹いた後、山の手から驟雨が降ってきた。辺りに細かい霧雨が舞い散る。雨の白い腕は雨にぬれ、いっそう漂白されていく。

「おかあ、さん」

 異形の子供が雨を呼ぶ。見つめる金色の瞳は、忌まわしき封じられたモノの瞳の色。

「駄目だ」

 霧の声がした。雨はとても悲しそうな顔をしている。そんな表情の雨は見たことがなかった。何かをひどく思い詰めたような顔をして、真一文字に唇を結んでいた。

「雨、こっちへ。帰るぞ」

 彼女の頬に雨ではない温かいものが伝い、口の中でごめんなさいとひりだすように呟き白い子へ背を向けその場を離れた。

 雨はまだ降り止まず、暗澹たる空の色が街を覆っていた。

 帰りの車内でも、雨はずっと泣いていて、そんな彼女を虹は慰めていた。

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