ネジネジ編

42

 「しかしヘルモ、教えてくれませんかね。」アラスタは言った。「初めから後でレーテのところに向かうのなら、なぜこんな回りくどい方法を選んだのでしょう・・・初めから、オルガノ隊長を殺してレーテと同行する、でいいじゃないですか。」

 「レーテは一人でも大丈夫だ。」ヘルモはマルカレンの胎児を持って言った。「それと、オルガノは非常に強い。だから倒すのに、僕にとって大切な魂が眠るこの胎児が必要だった。でもレーテは、僕が、こいつを殺しちゃうんじゃないかと警戒していたから、なかなか奪うのが難しかったのだ。」

 アラスタは驚いた。そんな事もわかっていたのか。ここ数日で、アラスタは堕魔人への認識を改めざるを得なかった。堕魔人は分別がある。しかし、どうしようもなく思考が壊れた所もある。魔術のない時代なら、それは微々たる問題だったとしても、魔術によって肉体が変化してしまった時にあまりに危険な存在になり果ててしまう。そこで人々は彼を避けた上で侮蔑の眼差しを向ける。それがますます、彼の数少ない分別をも壊してしまう。結果、手に負えない殺戮者へと変貌してしまう。

 「ああ、もう、この角も鬱陶しい。」そう言って、ヘルモは額に生えた角を握る。

 「ちょっと、何を・・・」アラスタは言う。

 「僕は新しく成長し直すんだ。この頭を圧迫する角とはオサラバだ。ひっこぬいてやる。」

 そう言って角を握る。

 「やめなさい!」アラスタは叫んだのでヘルモはその手を止めた。「その角は君の脳に埋まっています。無理に引っこ抜くと死にます。さもなきゃさらに思考が壊れます。」

 「・・・・。」ヘルモは手を離した。

 「いいですか、ここだけの話、レーテも実は堕魔人になりかけてるんですよ。」

 「・・・!」ヘルモは息を飲んだ。「そうなのですか。」

 「でもレーテは上手に自分の悪を躾けている。だから君も新しく生まれ直すようにすることができた。その経験があったから。」

 「・・・。」

 「だから、無理に剥がすんじゃなくて、うまく付き合う方法を探すのです。」

 自分でもよくわかってないのに、なぜこうも伝えたくなるのだろうとアラスタは疑問に思いながらも喋っている。これもまた魔術感度の高さ故だろうか。

 「・・・・わかった。」ヘルモは言った。「とりあえず僕がこれからやろうとしているのは、魔城に入って陽動をしようと思っていた。」

 「陽動?」

 「おそらくレーテは牢屋にいれられるだろう。レーテの最大の目的はカラ王を倒すことだ。それを楽にするために魔城で暴れるのだ。」

 「そのついでにネジネジを見つけて殺す、と。」

 「そういうことだ。」

 「ちょっとまって。」アラスタは言った。「何か予感がします。」

 ヘルモもアラスタも立ち止まった。トラックがこっちに向かって走ってくる。よくみるとその運転手の顔は渦を巻いていた。

 「ネジネジ!」

 ヘルモは身構える。トラックは止まり、ネジネジの一人がこちらに向かって歩いてくる。

 「邪魔をするなら容赦をしない。」ヘルモは禍々しい瘴気を身にまとうが、アラスタが彼の方に手を置く。「やめときましょう。静かに様子をみてください。」

 「え?」ヘルモは驚いた。ネジネジの運転手は二人にお辞儀をし、トラックの荷台を指差す。さああの荷台に乗ってください、と指示しているかのようだ。

 「カラ王万歳。だがお前の指図は受けないぞ。」そうヘルモは何やら矛盾したような事をネジネジに言った。さっさとカラの事は忘れろよ、とアラスタは思いつつ、「いや、それとはなんか違うようです。」とヘルモに言った。

 「アラスタさん、どういうことですか?」

 「とりあえず黙ってついていきましょう。」

 アラスタに誘われるがままに、ヘルモはトラックのコンテナの扉の中に向かう。入り口を見る限り暗そうだが、アラスタは先先入るのでヘルモもついていかざるを得ない。「ああ、やっぱり。」アラスタが声をあげたので、ヘルモも何事かと思ってアラスタの先を行った。驚いた。レーテが中にいたのだ。ネジネジの堕魔人と向かい側で一緒に座って。レーテの左肩から無数の触手が伸びて左の顔を仮面の代わりに覆っていた。レーテは微笑んだ。

 「どういう事でしょう。」アラスタはレーテに問いかけた。

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