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 ゲゲレゲの正体は謎に包まれている。30〜40年前から人間に悪さをしている事が知られている堕魔人である。

 本体である親玉のゲゲレゲは身の丈30メートルほどあり、フードをかぶった人のような形の黒い山のような姿で、手が2本生えている。顔は白いマスクであり、口は異様に裂けてニヤついた歯が見える。目はカエルの目のように透明で額一体にびっしり乱雑に並んでいる。ゲゲレゲレゲレと鳴くからこの名前がついた。

 ゲゲレゲはひたすら人を食べる堕魔人である。消化仕切った頃に吐き出して、そのグロテスクな肉塊に「種」を植え付ける。「種」は失敗する事もあるが、成功すると、肉塊を養分として数匹の子分ゲゲレゲが生まれる。子分ゲゲレゲは5メートルほどの大きさで、目がない代わりに極めて嗅覚が鋭く、次々と人を見つけ出しては飲み込んで、吐き出し、「種」を植え付け、子分ゲゲレゲがまた増えて行く。

 したがってゲゲレゲが一度現れると、あっという間に彼の子孫たちが街や村じゅうに蔓延してほとんど壊滅すると恐れられている。

 それでも奇妙なのは、そんな恐るべき生殖能力の持ち主ならば、あっという間に地球全体を支配するだろう、という事だ。だが、多くの被害状況を鑑みるに、ゲゲレゲは突然消えてしまっている。子分のゲゲレゲが突然溶けてしまったという目撃情報もある。

 おそらく親玉のゲゲレゲは突然活動を停止する事があり、子分のゲゲレゲと意志を共有しているのか、親玉の活動停止と同時に子分も身体が崩壊するらしい。

 その期間はまちまちである。数時間の時もあれば、2〜3年の長い期間もある。8年も支配した例がある。著しいダメージを負うと消える事が知らされているが、それ以外でも原因不明の消失を遂げる。非常に気まぐれなのだ。

 



 「謎ばかりですね。」砂漠の中、ヘルモはゲゲレゲの資料の文章を読みながら言った。「これでは資料にもならない。」

 「いや、一つわかった事がある。」レーテは瓶を見つめながら言った。「ゲゲレゲの元の人間がもっていた魔が。」

 「どういう魔ですか?」

 「食べる。殖やす。これは動物の生理的な衝動と本能だ。生理的な欲求は場合によって長く続いたり、短く終わったりするが、いずれにしろ非常に強い衝動を持つ。いろいろと神出鬼没なゲゲレゲの生態に会うと思わないか?」

 「つまりゲゲレゲが食べたくなったり、殖やしたくなったりすると出没すると。」

 「・・・・かもしれぬな。奴は極めて巨大だから、その期間も基本的に長いのだろう。大きな生き物は、時間が遅いからな。」

 「そうなのですか。」

 「知らないか?動物は大きいほど寿命は長い。心拍数はどの動物も同じくらいの回数を打って死ぬと言われる。だから循環器の短い小さな動物は心拍数が早くて寿命が短いのだ。」

 「レーテさんって物知りですね。」

 「ファレンが物知りだったのだ。」レーテは瓶を再び見つめる。「お、光が強くなっている。」

 「近づいているんですね・・・。」

 「おそらくあの街にいる。」レーテは向こうの景色から僅かに見える建造物を指差した。「ゲゲレゲがいつ目覚めるかわからない。だからこの街に長居する事になるかもしれない。」

 「大丈夫です。」

 「よし、では行こう。」

 暑い砂漠の中、ヘルモは円い水筒を取り出して水を飲む。

 


 その街はまるで人気がなかった。


 「妙ですね。」ヘルモは言った。「もうゲゲレゲが現れてしまったんでしょうか。」

 「それか、警戒して隠れているのかもしれぬ。」

 だがしかし、この静けさには身に覚えがあった。

 「ヘルモ、気をつけろ。」

 「敵ですか?」

 「最悪、大勢いるかもしれぬ。」

 「え。」

 その時レーテは目を見開いた。そして叫んだ。「逃げろ!」

 「え、あ。」

 どどどどどと走る音が聞こえ、ヘルモの前方に群衆が大勢向かってくるのが見えた。

 「何をしている!ネジネジの軍勢だ!早く逃げろ!」

 「あ、はい!」

 ヘルモは振り返って走ったが、ちょうどその時レーテが立ち止まった。「レーテさん?」

 「八方塞がりだ・・・・」レーテがうめいた。後ろにもネジネジに感染された、顔を渦巻いた人たちがびっしりと立ちはだかっていたからだ。左右は建物で塞がれている。

 「来るな・・・・」ヘルモは叫んだ。前からも後ろからも彼らがゆっくり迫ってくる。

 「来るな・・・!」ヘルモは偶像(idol)の棒を取り出して威嚇したが、ネジネジは躊躇なく迫ってくる。レーテはファレンの傘を広げる。

 「来るなぁぁ!!!」

 ネジネジたちはレーテを無視して真っ先にヘルモのみに突進してきた。ヘルモの振るった棒はネジネジの一人に命中したがあっという間に彼はネジネジたちに覆われてしまう。

 「やめろぉぉぉぉ!!!」レーテは絶叫しファレンの傘を提げてネジネジの群衆に向かって走りだす。

 「止めろ。」静かな声が聞こえ、ネジネジが突然直立不動になった。レーテも思わず立ち止まる。「情けない声をだすじゃ無いか、レーテ。」

 レーテが振り返ると、あの背丈の異様に長いカラ魔王が立ってこちらを見つめていた。

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