奇妙なほど身に覚えのある、取り返しのつかない何か

緻密な構造を持つ四つの短編からなる作品です。それぞれの短編は単独でも面白いですが、通して読み終わって全体像を眺めると、さらに深い奥行きがあることがわかります。
端的な言葉で綴られる情景はどこか歪で、共感と不理解の境界を行き来する物語構造の繊細さに、夢中になって読み進めてしまいました。
短編集のそれぞれの主役たちに、そのまま共感できるかと問われれば難しい。そのはずなのに、描き出された空白は、ひどく身に覚えのある形をしているのです。
あらすじで語られている通り、テーマは「喪失」。
読み終えて、その単語を見返して、もう一度頭から読み直したくなる物語です。

その他のおすすめレビュー

千鳥すいほさんの他のおすすめレビュー191