2話 仲間を作ったからには 2

 異世界に来て3日目。

 昨日に引き続き、天気は快晴太陽は上昇気分はハレルーヤ! 昨日の打ち合わせどおり11時に集まって、一緒にご飯を食べて、クエストを選び、初心者にはこれが丁度良いという受付のお姉さんからのアドバイスのもと、『ジャイアントトード5体を3日以内に討伐』というクエストを受注した私は、心の帆を上げ、仲間きゅーちゃんと共に街の外に広がる草原と言う名の海を大航海し、


「いやあああああああああああああああああああああああ!!! きゅーちゃん助けてええええええええええええええええええええええええええ!!!」


 そのジャイアントトード討伐対象、3匹に囲まれていました。

 壮絶にやばい状態なので、この3匹とは違う別のジャイアントトードと対峙しているきゅーちゃんに助けを求めます。


「ちょ、なんで人が戦っている間にそんな状況になってるの!?」


 そんなこと言われたって困ります。

 最初、街の門を出て大体4~5キロくらいの距離を一回の休みを入れて歩いた頃、目的のジャイアントトードを見つけ、その座っている時の全高だけでも2メートルは軽く超える大きさに驚きましたが、でもきゅーちゃんもいるし頑張れる! やれる! と、怖じけずにナイフを鞘から抜きました。

 しかし、私がやる気満々にその巨大カエルに対峙した時、こんな声が聞こえたのです。


『あ~交尾して~』


 私は凍りました。

 その声は明らかにきゅーちゃんのものではなく、目の前のカエルのものだったのです。 

 あーそっかー、そういや繁殖期なんだもんねー、カエルだってそういう事考えるよねー。 あれーでもカエルって交尾するっけ? というかバイリンガルってこんな事まで聞こえちゃうんだー。 と、心の中で苦笑しました。

 でもその時まではまだ大丈夫だったのです。 カエルの欲望なんて知ったこっちゃありませんし、何せこのジャイアントトード、その繁殖期には町里に現れ、農家で飼っている山羊さんを食べてしまうんだとか。 しかもたまに人間も食べてしまうそうで、難易度は低いながらも、かなり危険なモンスターらしいのです。

 そんなモンスターを相手に、初心者とはいえ冒険者となった私は、正義感に背中を押され、勇敢にジャイアントトードに立ち向かいました。

 ですが、ここからが問題でした。

 その巨大カエルのバスケットボールくらいに大きな目がギョロリと私を見つめてきます。

 しかし私は怯まずに足に力を込め、腰を低くして構えます。 そして、


『このねえちゃんかわいいな~、この娘と交尾するか~』


 全力で逃げました。

 いや! 無理! 普通に襲ってくるとかならまだしもこれは無理って、うわああああああああああああ追っかけてくるうううううううううううう!!!?

 この巨大カエル、その巨体の割に一回のジャンプがそこそこ大きいです。 重さがあるのでこちらの世界の小さいカエル程ピョーンとは飛びませんが、それでも全力で逃げないと追いつかれてしまう程度には速いです。

 そして、そんな風に逃げているうちに、何時の間にやら2匹目、3匹目と現れ、最終的に今の様に囲まれる形となってしまい、今に至ります。


「きゅーちゃあああああああああああああん!! 早くうううううううううううううううううううううう!!!」

「あーもう、わかった! ちょっと待ってすぐ終わらせるから!!」

「待てないよううわああああああああ!!! なんか、カエルの下腹部からデロンとした物出てきた!!? グロイ!! 現実だとモザイクがない分グロイ!!! ていうかカエルって交尾して繁殖する訳じゃないのに何でそんなのがあるのよぉ!? いやあああああああああああああああ初めての相手がカエルなんていやあああああああああああああああああ!!! 初めては好きな相手にって決めてるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「生娘がはしたない事を大声で叫ぶな! …………あ~もうっ仕方がないッ!」


 きゅーちゃんはそう声を荒げながらも自分の目の前のジャイアントトードから目を離し、私の元へ向かってきてくれます。

 きゅーちゃんありがとうー! あぁっ! でもカエルが!?

 そう、目の前の獲物が逃げることを巨大カエルが見逃すわけがありません。 きゅーちゃんと対峙していたジャイアントトードはその最大の武器である舌を標的のガラ空きな背中に向かって伸ばし、捕まえ――


「ふんっ!」


 ようとしたところで、その標的は左手に持つ剣でそれを切り落としました。

 …………え?

 一瞬何が起こったのかが理解できませんでした。

 きゅーちゃんはそのまま切り落としたものには気を留めず、私を囲む3匹へ凄まじい速度で迫ります。 そして、きゅーちゃんから見て背を向けているカエルの後頭部に向かって跳躍し、一閃。 次に着地と同時に再び跳んで文字通り返す刀(正確にはファルシオンって言うんだっけ)で2匹目のカエルの頭をかち割り、最後に着地と同時に今度は横へ飛んで弾丸のような勢いで私にR-18Gな物を見せつけている3匹目に肉薄し、その、イチモツごとカエルのお腹を掻っ捌きました。


『ぐわ~』

『あば~』

『さよなら~』


 一瞬で切り捨てられた3匹のジャイアントトードは、そんなダルそうな断末魔をあげながら地に伏し、動かなくなりました。

 うぅ……こんな物まで聞こえちゃうなんて後味悪い……さっきの効きすぎる魅了といい、この能力選んだの失敗だったかも…………い、いやそれより!


「すごいよきゅーちゃん! 助けてくれてありがとう! びっくりしたよ、あんなに強かったんだね! 私目で追うので精一杯だっ、た…………よ?」


 きゅーちゃんの意外な強さを目の当たりにしてはしゃぎながら振り返ると、そこには何故かカエル達と同じように仰向けに地に伏した仮面の魔剣士がおりました。


「…………え、ちょ!? ど、どうしたのきゅーちゃん、大丈夫!?」


 私は慌ててきゅーちゃんに駆け寄って顔を覗き込みます。 一体何があったのか……まさか、実はカエルに一矢報いられていた!? ………と思っていたのですが、


「ぜぇ……ぜぇ…………はぇ? …………ぅあ、うん……だ、だいじょ…………ぶごふぉっ!? ごふ、ごほっ……!」


 まるで久々にちょっと激しく運動してみた引きこもりのデブの様に汗をかきながら息を荒げてついには咳き込むきゅーちゃん。

 これは、まさか………… 


「ねぇきゅーちゃん。 実は街から3キロも歩いてないのにいきなり一回休もうとか言ってた辺りからずっと思ってたんだけど…………………………もしかしてかなりのもやしっ子?」

「…………そ……そんなごどふっ! ……ないし……」


 寝転びながらぷいっとそっぽを向く仮面のお子様。

 …………なんだか、前途多難な予感がしてきました。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その後、きゅーちゃんが倒れたという事で、体調が心配になった私は今日は街に戻ろうかと聞きましたが、当人は「少し休めば大丈夫」と言い張りました。 倒れた人間が何を言っているんだと思いましたが、仕方ないのできゅーちゃんを近くの木陰に運んで休憩させ、その間に私はきゅーちゃんが舌を斬り落としたカエルを一人で討伐してみる事にします。 

 結果として討伐は成功! 『魅了』を駆使して隙を作り、うまい事討伐する事ができました。 流石は女神様から授かったチート能力(のオマケ)! さっきはちょっと恐ろしい事態を引き起こしてしまいましたが、使い方を考えれば討伐は上手くできます! ……まぁ、そのカエルに止めを刺した際、


『ぐえ~。 ね、姉ちゃん……ワイを騙したんやな……あないなせくしーぽーずで、舌を斬られて傷心なワイの心を誘惑してからに…………。 すまねぇ母ちゃん……孫の顔見せたるって約束、守れんみたいや。 ホンマ、堪忍な………………ガクッ』


 という、後味の悪すぎる遺言を聞いてしまい、初の魔物討伐の喜びが半減したのですが。 て言うか本来のチートの能力はこっちバイリンガルの方なのに、この能力は今のところ私にストレスしか与えていません。 

 この能力ON/OFFできないのかなぁ……。

 あ、残りの一匹は休んで回復したきゅーちゃんが一瞬で片付けてくれました。

 そんなわけで、記念すべき初のクエストを完了した私ときゅーちゃんは、報告をするためにアクセルの街に帰ろうとしたのですが、その途中、カエルを討伐していた場所と街との丁度真ん中くらいの位置に、身を隠せそうな木を見つけたので、ちょっと休憩する事にしました。 きゅーちゃんが心配と言うこともありましたが、私自身もちょっと一休みしたかったので。

 私は木を背もたれにしてどっこいしょと座り込みます。


「ふいー、疲れたー! もークタクタだよー!」

「だろうね……」

「でも私頑張った! 舌ちょん切られていたとは言え、カエルをちゃんと自分で倒したし!」

「そうだね……」

「私最強! やっぱりチートな存在だね!!」

「そっか……」

「………………」

「………………」


 会話終了。

 なんか暗いなあきゅーちゃん。 私がせっかく休憩時間に花を咲かそうとしてるのに!


「どしたのきゅーちゃん? なんか顔暗いよ?」

「仮面被ってるんだから顔なんて見えないでしょ……」


 私が心配して聞いてみたら、いらぬ正論で返してくるきゅーちゃん。

 全くこのお子様は……


「見えなくても雰囲気で解るよ。 此処までずっと俯いてたし。 どしたの? なにかあった?」

「なにかあったって…………そりゃ………………」


 言おうとして、きゅーちゃんは押し殺す様に口を紡ぎました。

 しかし、私はきゅーちゃんが何を言わんとしているのかはすぐに解りました。 と言うか1つしかありません。


「名前が変なのは地域の風習もあるからそんなに気にするこ」

「誰が名前に悩んでるなんていった! ……そんなんじゃなくて」

「カエルを倒した時に自分も倒れた事気にしてるんでしょ?」

「っ!? ……………………………」


 私が自分の中にあった答えを言うと、きゅーちゃんは図星を突かれたように息を呑み、私の顔を見上げます。 仮面のせいで顔は見えませんが、相当驚いているのが解ります。 しかし、またもう一度俯いてしまいます。

 ふむ…………。


「まぁ、驚いたよたしかに。 まさかダメージじゃなくて疲れて倒れちゃうなんてさ」

「………………」

「しかもきゅーちゃん、絶対行きの時の休憩って私を気遣ってじゃなくて自分が疲れたからだよねー。 感心した私の気持ちを返してよまったく!」

「…………っく」

「そのくせ「そんなんじゃないし」とかむせながら嘘つくしさー、かっこ悪いったらありゃしない!」

「……~~~~っ!」


 怒ったなのか恥ずかしかったからなのかわかりませんが、きゅーちゃんは勢いよく立ち上がりました。 多分両方なのかもしれません。 怒りで拳を握り締め、悔しそうに口を紡ぎ、仮面越しに此方を睨んでいるのが解ります。


「でもさ」


 そんなきゅーちゃんに対して、私はそう区切り、下からきゅーちゃんの素顔を覗き込みます。 構造的に下からなら素顔が見えるのです。

 そして、言いました。


「私を助けるために、自分のスタミナを顧みないで全力でカエルを倒してくれたきゅーちゃんは、すっごく格好良かったよ!」

「え…………」

「ありがとうきゅーちゃん。 これからもよろしくお願いします」


 ありったけの感謝と、初めての仲間としての歓迎の意を込めて。 はにかみながら手を差し伸べます。

 不意を突かれたきゅーちゃんは一度目を丸くし、段々とまるで熱した鉄の様に見る見る赤くなっていきます。


「……あ、うん…………こちらこそ、よろしく………………」


 照れたのを自覚したのか顔を見せないように仮面の先をつまんで下げて隠し、そうぼそぼそ言いながら、きゅーちゃんは私の手を握りました。


 仲間を作って、一緒にクエスト完了! とてもいい滑り出しとなった初の冒険でした!






 あ、きゅーちゃんの魔法見せてもらってない。

 また今度でいっか☆

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