第2話 3度に渡る高校退学事件

喜び勇んで降り立ったアメリカの地は 初めての海外の地でもあった


15歳の少年から見たアメリカの最初の姿は

ダラス フォートワース空港の 広大な滑走路だった


空港の中に電車が走る程の広さと

地平線まで広がる滑走路に沈んでいく特大の太陽を見て


村人だった少年は自分で選択した 新しい道をどこまで切り開けるのか

未知なる挑戦が出来る喜びに体を震わせた



ダラス経由で降り立った目的地は オクラホマシティから車で数時間のノーマンという場所だった


空港に迎えに来てくれたおばさんが 新しいホームステイ先の家族に違いないと思ったが


簡単な会話も交わすことが出来ずに 到着までニコニコしている事しか出来なかった


もしこれが本当のホストマムでなかったらどうなるのだろうかという疑念も頭をよぎったが



良く思い返したらアメリカの地に足を踏み入れる事だけに注力してきた1年だっただけに


そんな事よりも この後具体的にどうしたらいいのだろうか がわからない事の方に恐怖に感じた


真夜中に住宅地で車が止まり 1件の家のドアの前に連れていかれた

ドアが開くと中から小奇麗な老婆が姿を見せた


迎えに来てくれていたのは近所のおばさんで 本当のホストマムはこの老婆だった


家の他の住民は エクアドルから来たイケメンでプレイボーイのマリシオ


そして真っ黒な猫 スモーキーだった



少年はこの町で まず語学学校に通う事になる


この町を選んだ理由は米国内の英語の教科書の多くは オクラホマ州で発行されている事から 語学学校で手っ取り早く英語を学べるだろうという理由からだった


語学学校では少年と同じように各国から夢を持って集まった留学生で犇き合っていた

最初に友達になったのは プロのバスケ選手になるという夢を持ってやってきた

仲西という同い年の少年だった

彼の夢は明確で 

家に遊びに行っても 早朝に一人で家を抜け出し 小一時間練習をしてから戻ってくるというレベルのストイックさを持っていた

部屋の中もバスケ選手のポスターに埋め尽くされていて 

夢を叶えるという本気さが手に取るように伝わってきた



自分はジャーナリストになる為に毎日をどう過ごせばよいのだろうか

少年の胸に一塊の不安が過るようになったが


仲西と男の約束をする事で 夢から視線を離す事が出来なくするという手段を取る事にした


男の約束とは


仲西のデビュー戦を必ず取材する というものだった


その約束は時を隔てて果たされることになるのだが



それまでの道のりは少年の想像を遥かに超えて 波乱に満ち溢れた事になるとは


予測できる余地は皆無だった



語学学校のプログラムを終え

とうとうNY州にある高校へと進学する事になった



その学校へ進学した理由は 日本で検索可能な学校の中で最も学費が安かったという事と


NYは日本で言ったら東京のような場所なので ニュースで聞くような標準語を学べるに違いないという憶測をしていたからだった



高校での第一歩はまずは英語力のテストを受ける事だった

このテストの結果によってESLという英語を母国語としないクラスに入るか

レギュラークラスといって現地のアメリカ人と同等のクラスで授業を受けるかが決定する


テストはマークシート式だった


よく見ると 薄く○を消した跡がある事に気が付いた少年は

その通りにマークシートを記入した


テストの結果 少年にはアメリカ人と同等の英語能力があると判断され

初日からレギュラークラスの授業を受ける事となった


思いもよらない幸運に 少年は幸先の良さを運命に感謝していたが

いざ始まってみた授業の中身は 全く理解できず

自分が後戻りできない窮地に陥った事に程なくして気が付くことになる


1年間必死で喰らい付いて 訳の分からない授業に出席し続けたが

美術は疎か 体育の授業の単位さえも落としてしまい

1年で取れた単位は0という現実が立ちはだかる


確かにその学校は ミッションスクールの中ではハーバードと言われる東部でも指折りの大学付属高校であった為に

半径60マイルの中では筆頭の進学校というレベルの高さを誇っていたが


それでも取得出来た単位が0というのは汚名以外の何物でもない


少年は頭を悩ませたがここですごすごと引き下がるわけにはいかない

あれだけのロビー活動を繰り返して結果 両親に借金をさせてまで叶えた留学の夢を


その程度で諦めるわけにはいかなかった


少年は語学学校で出会った他の生徒が進学した先へ 望みを繋げる事が出来ないか

行動を起こしてみた


小学校でいじめっ子相手に喧嘩を仕掛けた時のように

今までも自分の陥った窮地からは自分の行動によってのみ脱出をしてきたからだ


今までの学校を自主退学し


そして今度は北米大陸の反対側

オレゴン州の高校へアプリケーションを自作し提出した

見事にそれが受理をされ

なんと高校1年分の単位も免除になって

晴れて2年生から学業を継続出来る事になった


1年目は留学会社に委託してやっていた作業を 

全て自らの手でやってみたら

訳なく出来てしまったので その年からは留学会社のお世話になる事を止めた



オレゴン州はセーラムにある高校は なんとNYの高校よりも学費が安かった

やはり現場に行かなければ 本当の情報を得る事は出来ないのだと 悟った



意気揚々と新しい高校生活を始めたものの

プライベートスクールという厳しい環境の中で


喫煙が見つかってしまい退学になったのは 転校して間もなくの事だった


学校ではノートーレランスといって情状酌量をしない制度を取っていたので

そのまま帰国以外の選択肢を選べなくなってしまった



帰国して途方にくれていると

その学校の校長が退職し

新しい校長が就任したニュースが飛び込んできた


そして学校と折衝した結果

校長が変わったので新しい生徒という立場で再び受け入れるという特別対応を勝ち取る事に成功した


少年は喜び勇んで再びアメリカの地を踏むが


ホストファミリーが勝手に開封したレターの中に

喫煙をしている姿が映っていて


それが復帰前の物であるという証明が出来なかった為に

再度退学の処分を受けてしまう



もう正攻法で戻れる見込みは無いだろう


そう悟った少年は 両親へ合わせる顔等あるはずもなく


日本へ帰国したその日の夜に家出をする

2度と両親へ迷惑を掛けたくないという思いから

カードを机の上に置き

置手紙にもう迷惑はかけませんという内容の旨を置手紙に残し


アメリカよろしくヒッチハイク等を試しながらとにかく遠くへと向かった































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る