カップヌードル ぶっこみ飯

 秋穂県。

 全国第三位の米の生産量を誇る、私の地元だ。

 地元で暮らしている間はそのありがたみを感じたことなどほとんどなかったが、離れた今となってはよくわかる。

 私はお米が大好きだ。


 うちの父親の実家が田んぼを所有しているので、いつもそのお米を送ってもらっている。

 毎回ごはんを炊くのもめんどうなので、まとめて炊いて、炊きたてのうちにそれを保存容器に詰めて冷凍している。

 これでいつでもおいしい地元のごはんを食べられるという寸法だ。


 さて、今は仕事を終えて帰宅してきた深夜。

 今日は夕方に間食もしていない。

 とにかく、おなかがすいた。

 さあ、今こそ冷凍ごはんの真価を発揮する時! いでよ――


「…………」


 ――あれ?


「……ない」


 nothing!

 not exist!!

 404 not found お探しのごはんは見つかりません!!!


 誰だ! ごはんを冷凍室にアップし忘れたのは!


 私だー……。


「はみさんはみさんっ」

「ん、なんですかえすこちゃん」


 冷蔵庫の前で途方に暮れている私に、隣の戸棚の中から声をかけてくるのは、毎度おなじみ『大盛りいか焼そば』の妖精さん。


「ふふーん、お困りのようですね」

「うん、とっても困っています」

「ほらほら、こんなときはワタクシにおまかせ! 『いか焼そば』の出番――」

「棄却します」

「えーつれないですーはみさんー」


 ぴしゃりと却下され戸棚の中でごろごろと転げ回るえすこ。放っておこう。

 そう、私はが、が食べたいだけなのだ。




 そんなわけで、家から徒歩一分のコンビニへ。

 店内に入り、まっすぐにお弁当コーナーへ。

 チキン南蛮弁当、焼肉弁当、カツカレー、などなど。

 ……んー、今はどれもいまいち食指が向かないな。

 おにぎりも……なんか違うなあ。

 うーん、今私が求めているごはんはなんなんだろう。


 ちょっと店内をふらりと歩いてみる。

 冷凍食品……チャーハン……違う違う。

 アイス? いやいやとんでもない。


 などと迷った挙げ句、足を止めたのはカップ麺コーナー。

 え、えええ?

 これ、こんなのありなの!?

 気になる……気になりすぎる……。

 よし、コレにしよう!!

 目について決断までおよそ三秒。

 要するに、即決である。

 私は興奮気味にレジへソレを持っていくのだった。




「ただいまーっと」

「おかえりなさいはみさん……ってそれ、結局カップ麺なんですかっ!?」

「ちっちっちっ……甘いですよえすこちゃん、チョコ味の焼そばよりも甘い甘い」


 食べたことないけどね。

 ちょっとあまりのカオスさに、どんな妖精さんが出てくるのか想像もつかない。

 閑話休題。

 テーブルの上に置いた、今まさに買ってきたカップを間近に見ながら、えすこが問いかけてくる。


「え、だってコレ『カップヌードル』って書いてますよ、はみさん」

「あなたの目は節穴か吸盤かなにかですかえすこちゃん。ちゃんと下にでかでかと書かれた文字も読んでください」

「節穴はともかく吸盤てまたひどいですよっ!? ……なになに、『カップヌードル ぶっこみ飯』……ぶっこみ、メシ!?」


 ふふん、となぜだか誇らしげに胸をそらす私。

 どうやらこれは、文字通り、カップヌードルのスープにごはんをぶっこんだもののようだ。

 売り文句は、『罪深き、うまさ。』。

 ラーメンを食べた後の残ったスープにごはんを入れた、二度目のあのおいしさを再現しているというのだ。


 私はさっそく、電気ポットに水を入れスイッチオン。

 お湯が沸くのを待っている間にカップのふたを開ける。

 おお、いるいる。

 中には見慣れた謎肉や卵、えび。それと一緒に大量の白い粒、私の愛するお米が。

 しかし、お湯を注ぐだけでお米が食べられるなんて、技術の進歩ってすばらしい。

 いいぞもっとやれ。


 あ、お湯沸いた。

 少量だとすぐ沸くんだよね、このポット。

 技術の進歩ってすばらしい。

 今日のパワーワードかも。

 それはともかく、お湯を注ごう。

 待ち時間五分。

 待ち遠しい……が、そろそろくるころかな、アレ。

 お湯を注いだカップをひょいっと持ち上げてみると、その後ろには、科学者風の白衣を着た、ぐるぐる眼鏡の妖精さんが。


「!? み、見つかってしまっては仕方がない。データをこっそり収集しようとひそんでいたのだが」


 なんか勝手にぺらぺらしゃべっちゃってるけど、いいのかな。ヒミツの研究じゃないの?


「まあいい。日々のこうした研究の成果が実を結んでのぶっこみ飯だ。心して味わうといい」


 あー、なんか確かにこのメーカー、昔からごはん事業の育成にも力を入れていたとかなんとか。

 って、研究していたのは妖精さんじゃないだろうけどね、さすがに。


「なるほどね。ありがたくいただくとしますよ。じゃあ代わりにあの娘を差し出しますね。好きに研究しちゃってください」


 私がごはんの用意をし始めて暇していたのか、テーブルの上でごろごろしていたえすこ。

 彼女を指さして科学者さんに伝える。


「研究……対象……捕獲!」

「えっ? ぎゃわー!!」


 あー連れ去られていった。作戦成功。

 そろそろ五分経つし、まずは食べよう。探すのはあとでいいや。

 おなかすいた。



 いただきます。

 スプーンですくい、ごはんとスープを。

 おー! これは!

 これこれ、こういうの食べたかったんだー!

 いつものカップヌードル味にごはん。

 しかも、自分でごはんを入れたときは味があんまりしみていなかったりするんだけど、これは最初っからごはんに味がしみている。

 これは……おいしい。

 二口、三口とどんどんすすむ。

 おっ、しばらく食べていると、少しごはんの食感が変わってきたような。

 さっきまではちょっと軽い感じの食感だったのが、少しもっちりしてきた気がする。

 ほうほう、こういう変化を楽しめるのか。

 もちろん、いつもの具材も健在だ。

 そうか……ラーメン食べた後だと具材もかなり減っている状態だけど、これならフルに具材が入った状態で味わえるのか!

 な気分だな。

 こんなの、余裕でクリアしちゃうに決まってるじゃない。

 スープもごはんも、オールクリア。

 ごちそうさまでした。




「うわぁん、はみさん助けてくださいようー」


 お、逃げてきたか。

 ぽてぽてと走ってきて私の腕にしがみつくえすこ。


「ワタクシ、いろいろ見られちゃいましたよ、いろいろ! お嫁にいけませんっ!」


 どこに嫁ぐというのか。


「さあ、その娘を返してもらおうか。このまま研究が進めば、きっとおいしい焼そば味のができるだろう……」

「えっ? いかめしですか!?」


 すぐさまえすこをつまみあげ、ひょいっとマッドサイエンティストに放り投げてやる。

 『大盛りいか焼そば』味のいかめし、いいね。


「うわぁん、はみさんの裏切りモノー!!」


 だって、私はお米が大好きだ。

 技術の進歩に期待しよう。



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