第35話 ちゃんと伝わるものを書くための修行

 皆さんが執筆の際に一番大事にすることはなんでしょう?

 書きたいことなのか、まずはアクセスを得ることなのか、来訪した読者に最後まで読んでもらうことなのか。


 私の場合は?と考えると、欲張りだからどれも欲しい。

 でも最優先はなにかと聞かれたら、やはり「書きたいことをちゃんと書けているか」だと思いました。


 そして「書きたいこと」はそのまま「読んで受け取って欲しいこと」とイコールなので、「伝えたいことがちゃんと伝わるように書けているか」を大事にしたい。


 だから、現在改稿作業中のエッセイと小説は、「伝えたいことがちゃんと伝わる」ために、まずはご講評などでも指摘された「小説としての体裁をまずは整えること」に力点を置いています。

 具体的には、WEB小説世界の常識とされる方法に則って句読点等の表記修正に始まり、文体を統一して読み易くすること、視点を意識して読者を迷子にさせない表現を心掛けること、などの作業です。


 ところが、これは思っていたよりずっと時間とエネルギーが掛かる修行なのだと知りました。「思い知る」というのはこういうことか、と。

 改稿作業を始めます、と近況ノートで宣言してから早1か月。

 未だにその看板を外せない小説とエッセイだらけ。取りあえずの完成をみたのは本エッセイのみです。自分でも、何してんの?と思います。


 句読点等の体裁は、カクヨム記法も機能追加してくれたので、わりと簡単にできました。

 大変なのは、文体と視点です。

 文体の統一、と簡単に言うけれど、そもそも「統一できていない」という自覚さえなかったのですから、どこに不揃いがあるのかを探すところからのスタートなのです。

 で、その上で、どうすれば統一できるのかも探り探り、というお粗末な状態が続いています。


 いわんや、視点については「あまりに頻繁に視点が変わってついていけない」という指摘に対して、自分はいつもくるくると勝手に視点を変えて物を見るのが好きなのでその違和感を最初は感じることさえできませんでした。

(気付いた今は、その視点の身勝手さに吐き気をもよおすほどになったので、人間て変われば変わるもんだと別の意味で感動でした)


 そして、小説に置ける視点について書かれた本や文章をいくつか読んでみて、理屈は一通り分かったけれど、問題はその先です。

 分かったことがすぐに全部できるほど、甘くない。

 人間はそういう生き物だと知ってはいるけれど、だからって、すぐにできるわけじゃない。

 まずは一文ずつ読みながら、どこにカメラがあるからこの文章になるのか?主語は誰?見てるのは誰?どこ?と毎回自分の脳に尋ねながら書き直す、という作業。


 これが、非常に脳に堪えます。同時通訳ブース内を越えるストレスです。15分に一度チョコレートを口にしないと脳細胞が死滅する、とまことしやかにささやかれていたあの世界より、酷い。 

 慣れない、という言い訳では逃れられないレベルで、不毛かもしれないと思うことしばし。いや、ほぼ毎回そう。もしかすると改稿なんかするより全文書き直した方が早いんじゃないかと思う始末。


 さらに、そうやって直した文章が本当に合っているのか、全くもって自信が持てない。

 未だに自分の書いた文章がきちんとした文体なのか、視点がこれで大丈夫なのか、確信がなく手探り状態なので、「模擬試験の解説と回答を一切持たずに本番受験に臨む受験生」な気分です。

 どなたかに読んでチェックしてもらいながらできたらと思いますが、まだそんなことをお願いできるレベルにさえ達していないのではないかと感じます。


 ここ数日、カクヨムの言葉の魔法使いのお宅や上手なお話を来訪してはその落差に打ちのめされる日々です。

 無いものねだりをするつもりは毛頭ないけれど、それでも、どれだけもがいたらこの泥沼から抜け出せるのかと思う。


 日頃、若い人から「落ち込んでいて抜け出せない」と相談を持ち掛けられると、「それはいつか浮上する前兆だから。伸びている時ほど本人は無自覚で、どん底だと思った時は既に浮上のプロセスに入っているんだよ」なんて、偉そうにアドバイスするんですが、いざ自分がそうなるとこの為体ていたらく。所詮、私なんてこんなもんだよ、と小さく呟くのでありました。


 それでも、僅かに残ったエネルギーを振り絞って、何のために書くかを自問します。

 脳裏に浮かぶのは、クリックして辿り着いてくれる読者の顔であり、気になるのは、その方々が読後に少しでも幸せな気持ちになってくれただろうか、です。


 決して読者におもねるつもりもないし、徹頭徹尾、書きたいことを書くつもりだけれど、読者にとって自分の書いたものがどう映るのかを無視してはそれは成立しない。


 書く楽しさと苦しさの狭間で唸る夏。

 それでも、そうした苦しさを味わえる暇があるだけ、私は幸せなのだろうと思うのでした。

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