番外編

EX バニルカジノ

「……話には聞いちゃいたが、マジで出来てやがる」


 目の前に広がる巨大な施設を前に、俺は半分呆れながらそう言葉を漏らす。


「あんたは一週間アクセルに帰ってないからびっくりするのも仕方ないかもねー。……って、一日一日完成していくのを見ていたあたしでも正直この光景信じられないんだけどさ」


 俺と同じような表情をしてそう言うのはリーンだ。

 俺はあの国を警戒してこの一週間は冒険先に泊まっていたが、そんなのが関係ない俺のパーティーメンバー達は、ゆんゆんやリーンのテレポートを使ってアクセルに毎日のように帰っていた。そんなリーンにしてもこの光景はやはり馬鹿げているものらしい。


「ま、なんだっていいじゃねえかよ、ダスト。出来ちまったもん出来ちまったんだ。だとしたらやることは一つだろ?」

「……正直、ダストやキースをここで遊ばせるのに不安がないと言ったらウソになるが……まぁ、今日の営業開始に合わせて最近はまじめに働いていたことだ。今日くらいは羽を伸ばしてもいいだろう」


 興奮が隠し切れない様子のキースに、珍しく緩いことを言っているテイラー。


「……それもそうだな。今日の為にきっちり軍資金を稼いできたことだ。全部使い切る……いや、10倍にする勢いで遊びまくってやるぜ!」


 そう意気込んで俺はその施設ーバニルの旦那が一週間で作った巨大なカジノーの中へと入っていった。






「外も外で凄かったが中はマジで凄いな。エルロードのカジノにも負けてねえんじゃねえか」


 入って広がる光景に俺はそんな感想をもつ。姫さんの暴走に付き合わされてエルロードのカジノに行ったことがあるが、そのカジノと比べてもこのカジノは遜色のない豪華さだ。金と魔法の力のゴリ押しで作ったんだろうが、それにしても一週間で作ったとは信じられない。

 恐らくはウィズさんの魔法の力が大きいんだろうが……なるほど、旦那が夢を叶えるためにウィズさんが必要だと思うわけだ。


「確かに凄いが内装なんてどうでもいいだろ。なあテイラー、こっから先は自由行動でいいよな?」

「ダメと言ってこの状況でお前やダストが止まるのか?……さっきも言ったが今日くらいは羽を伸ばせばいい」


 リーダーの許可を得て、キースは喜びながら走っていく。向こうにあるのは…………ルーレットか。あいつってわりと要領いいから結構稼いできそうだな。


「テイラーはどうするの?」

「俺はポーカーでもして時間を潰しているさ。リーンとダストはどうする?」

「あたしはよく分かんないしスロット? でもやってる」


 テイラーにポーカーはハマり過ぎだな。大勝はしないだろうけど大負けもしないだろ絶対。

 リーンはこういう所じゃまだまだお子ちゃまだしガチャガチャやって楽しんどきゃいい。


「……で、黙ってるけどダストは何するの?」

「あん? カードカウンティングとかできそうならブラックジャックでもやるんだが、旦那が作ったカジノがそんな甘いわけもねえしなあ……適当に見て回るわ」


 一発狙うならルーレットかスロットだがどっちも運要素でかいからなあ。ことルーレットに関しちゃ投げた後に掛けられるなら『竜言語魔法』で確実に当てられるんだが、それやったら多分旦那にバレて追い出されそうだし。

 魔法やスキルでのズルはバレなきゃ合法だが、それを見逃すほど胴元も甘くない。……カードカウンティングみたいに魔法やスキルを使わないズルっぽい方法は結構使えるカジノもあったりするが。


「じゃあ、ここで解散か。帰りは各自で自由に。…………ただ、明日もクエストを受ける予定だから、遅くはなりすぎないように気をつけてくれ」

「うん、分かった。……ね、ダスト。あんた行く所決めてないなら最初はあたしに付き合いなさいよ。コインの買い方とかよく分かんないしさ」

「めんどくせーなー……そんなもん受付とかそこらへんを歩いてるバニーの姉ちゃんに聞けばいい…………って、分かったよ。分かったからそんな不機嫌そうな顔すんじゃねえ」


 そうして、俺はキースやテイラーとは別れ、今にも魔法を唱え始めそうなリーンに手を引かれ歩き出した。





「……で? お前俺の手を引いて歩いてんのはいいが、どこ行けばいいか分かってんのか?」

「………………そういうことは早く言ってよ」


 前を歩いていたリーンが不満そうな、あるいは恥ずかしそうなそんな微妙な顔して振り向いて止まる。


「つっても、俺もどこでコイン買えばいいか知らねえんだけどな」


 多分入り口にあった受付で買えたんだろうが、リーンに連れられて結構歩いたし戻るのもめんどくせえなあ。景品の交換所ならともかくコインを買うだけなら近くにもあるはずだが、初めて来る……というか今日できたばかりのカジノでそれがどこにあるか知ってるわけもない。


「じゃあ、どうするの? 入口にあった受付に戻る? あそこならコイン買えそうな気もするし」

「分かってんのなら最初からそうしろよ…………ってかお前実は結構興奮してるだろ」

「ぅぐ…………だって、カジノとかきたことないし、思った以上に楽しそうなんだから仕方ないじゃない」


 ま、俺の手を引いて歩くなんていつものこいつなら絶対しないだろうし、そんなこったろうとは思ったが。……つうか、いつまでこいつはつないでるつもりなんだろう。


「お前って変な所で子供っぽいよな。まあ、小うるさいリーンよりかはそういうリーンのほうが可愛かった頃のお前みたいで好きだけどよ」

「っ……。ど、どうせ今のあたしは可愛くないですよー。ベーっ」

「顔真っ赤にしてそんな憎まれ口叩いても全然痛くねえぞ」


 たまには素直になればいいのに。本当こいつはめんどくせえな。


「まあリーンが素直じゃねえのは今更だしどうでもいいや。それよかさっさとコイン買わねえと」

「素直じゃないって意味じゃあんたも割といい勝負だと思うんだけど…………で、結局どこで買うの?」

「分かんねえよ。だからそこらへん歩いてるバニーに…………って、あのバニーいい体してんな。あのバニーの姉ちゃんに聞こうぜ」


 顔は一瞬で見てなかったが今すれ違ったバニーの姉ちゃんは胸が大きかった。後ろ姿もそそるし。


「…………やっぱダストはないね、うん。ライン兄じゃないと」


 なんかリーンが呟いてるがスルー。今度はこっちが手を引いてバニーの姉ちゃんの後ろを追いかける。


「おい、そこのバニーの姉ちゃん。ちょっと聞きたいことがある…………んだが……?」

「あ、はい、なにか御用で…………しょう……か…………?」


 呼び止めた俺と振り返ったバニーが二人して固まる。そんな二人をよそにリーンが呑気そうに口を開いた。


「あれ? ゆんゆんじゃん。なんか用事があるって言ってたけどカジノでバイトだったんだ。へぇー……うん、ゆんゆんのバニーガール姿も似合ってるね」

「似合ってると言うか似合い過ぎと言うか…………はぁ、これでゆんゆんでさえなければ全力で口説くというのに。マジでお前なんなの? 俺の胸のときめきを何回奪えば気が済むんだよ。いい加減責任とって俺にエロいバニーの姉ちゃん紹介しろよ」

「ふ、二人してそんなジロジロ見ないでくださいよ! 本当この服恥ずかしいんですから!」


 そう言って腕で胸を隠すようなポーズを取るゆんゆんだが、相変わらず全然隠せてないと言うか、むしろ強調するような形になってる。守備範囲外のくせになんでこいつはこんなにエロいんだ。つうかもうこれ痴女だろ痴女。


「で? 何でお前は恥ずかしがってるくせにそんな痴女みたいな格好してんの? いや、聞かなくてもだいたい想像つくが」

「ち、痴女じゃありませんよ! というかバニースーツは立派な仕事着ですから! 全国のバニーさんに謝って下さい!」

「ごめんなさい。……で、やっぱりバニルの旦那に頼まれたのか?」

「全然心がこもってない気がするんですが…………まぁ、いいです。はい、バニルさんに開店の日は混むだろうからどうしてもと言われて……」


 確かに大盛況だもんな。この街じゃ見ないような顔も結構いるしベルゼルグ中……もしかしたら国外からも人がきてるかもしれない。


「けど、本当にゆんゆんのバニーさん姿可愛いなあ。それだったらあたしも着てみたいかも」

「はっ、リーンがバニースーツなんか着ても胸がなさすぎてずり落ち…………ってて! お前こら手をゴリゴリすんのはやめろ!」


 レベルもそれなりに上がってて無駄に痛いんだよ!


「えっと…………お二人はデートですか?」

「え? 何言ってるのゆんゆん。あたしが何でダストとデートをしないといけないのよ」

「おう、こらマジでありえないみたいな反応やめろ。地味に傷つくだろうが。…………ゆんゆんが、デートかって聞いたのはお前がいつまでも俺の手を握ってるからだろ」

「あ、なるほど。…………あんたがいつまでもあたしの手を離さないから勘違いされたじゃない」


 ぽいっと投げ捨てるように俺の手を離すリーン。…………勘違いも何も繋いできたのお前からだった気がするんだが俺の気のせいじゃねえよな?


「まあ、リーンはガキだからな。手を繋いでてやらねえとすぐ迷子になっちまうし仕方ねえよ」

「はあ? それ言うならあんたのほうが子どもだし。迷子になるのはあんたの方でしょ?」

「ふーん…………じゃあ、やっぱりお前のほうが俺の手を離さなかったことになる気がするがいいのか?」

「ち、違うし、今のは言葉の綾と言うか…………もう! ダストなんて知らない!」


 口喧嘩に負けたのが悔しかったのか、単純に恥ずかしかったのか。リーンは逃げ出すようにしてその場を離れる。

 …………まあ、ああは言ったがあいつもガキじゃねえし一人でもなんとかなるか。流石にこの人混みの中を追いかけるのは面倒だ。


「ダストさんって本当デリカシーないですよね。そんなだから女の人にモテないんですよ?」

「うるせえぞぼっち娘。お前の毒舌だって似たようなもんだろうが。たとえ本当のことでも言っていいことと悪いことあるんだぞ」

「…………本当のことだって認めちゃうんですね」


 今更そこ否定しても俺がモテない事実は変わらねえからな……。それに旦那曰くそのうち彼女出来るみたいだし、モテなくても希望はある。


「しかしまあ、お前結構大変じゃねえか? その格好だとかなりの男に口説かれてんだろ?」

「ど、どうしてそれを……」

「そりゃ、そんだけエロくて可愛けりゃ男が黙ってるわけもねえだろ。この街にいる連中なら旦那や爆裂娘の存在知ってるからそう手を出そうとは思わねえだろうが、他の街からも結構人が来てるからな」


 俺だってゆんゆんじゃなけりゃ一も二もなく口説いてるところだ。


「はい…………さっきもしつこいナンパさんに口説かれて大変でした…………めぐみんとダクネスさんがちょうど通りかかって追い払ってくれましたけど」

「あの二人も来てんのか。じゃあカズマやアクアのねーちゃんもきてんのかね?」

「アクアさんはルーレットの方で見ましたね。なんか大負けして借金作ったみたいでバニルさんに連れて行かれてましたけど」


 …………なにしてんだよアクシズ教徒の御神体。悪魔に連れて行かれる女神とか情けなさすぎるだろ。


「カズマさんはまだ見ていませんね」

「ふーん……カズマなら幸運だしカジノで楽しんでそうなイメージだが」

「カズマさんはもう一攫千金手に入れてるようなものですし、興味が無いんじゃないですか?」

「そんとこかねえ」


 お金があるなしにカジノで勝つのは楽しいと思うんだけどな。まぁ、負ける可能性も考えればやらないって選択肢も普通にあるか。

 …………でも、なんだろう。今カズマがカジノに来てないことになんか嫌な予感がするんだが。



「うし……じゃあ、俺はそろそろ行くか。コイン買いたいんだが近くで買える所はどこだ?」

「ええっと……あっちの方ですねちょっと歩けばすぐ見えるので分かるかと」

「あんがとよぼっちバニー。……お前も、あんま無理はすんじゃねえぞ。面倒な客に絡まれたらすぐに回りに助けを求めろ。騒ぎが起きればすぐ旦那がどうにかしてくれるだろうからよ」


 こいつは多少成長したとは言え初対面の相手には押しが弱いからな。俺や爆裂娘みたいな相手なら強気で出れるんだが。

 …………まぁ、本気で嫌なことにはちゃんとノーと言える強さはあるし、力づくでこいつをなんとか出来るようなやつもいないからもしもの心配はしてないんだが。

 多少の嫌なことは我慢しちまうからこいつは目が離せないんだよな。あと、相変わらず友達という言葉には弱いし。


「今この瞬間も私のことぼっちとかいう面倒なチンピラさんに絡まれてるんですが助けを求めたほうがいいですかね?」

「おう、今だったら強くてかっこいいダスト様が助けてやるから旦那の手を煩わせる必要もないしオススメだぞ」

「ぷっ……じゃあ、本当に困ったことがあったらダストさんに助け求めますからちゃんと来てくださいね。バニルさんは助けてはくれますけど、代償求められたりするから面倒ですし」

「代償言うなら俺だってただで助けたりはしねえぞ?」


 俺はそんな安い男じゃねえからな。


「ハーちゃんを1時間撫でる権利で」

「なにか困ったことあればすぐに俺を呼べよ。どんな些細なことでもいい」

「たまに思うんですけどダストさんのそういうドラゴンバカな所結構好きですよ」

「そんなに褒めても何も出ねえぞ」

「うん……そういう所は本当めぐみんにそっくりですよね」

「ぶっ飛ばすぞこら」


 俺があんな頭のおかしいのとそっくりとか悪口にも程が有るぞ。


「その反応はめぐみんに失礼だと思いますけど…………私にしてみたらめぐみんにそっくりというのは褒め言葉なんですよ?」

「それはそれでおかしいだろ……」


 こいつ爆裂娘のこと好きすぎんだろ。


「はぁ…………まあいい。じゃな、ゆんゆん。テイラーも言ってたが明日はクエストだからな。程々の所であがらせてもらえよ」

「はい。それじゃあダストさんも、何かあったら呼んでくださいね。一応仕事ですから、相手しますので」

「そんなこと言って知らない奴らばかりで心細いんじゃねえか?……ま、俺は適当に歩いているからまた見かけたら声かけてやるよ」


 そうして俺は無駄にエロいゆんゆんと一旦別れを告げて。教えてもらったコイン販売所へと向かって歩き出した。







「………………で? お前はこんな所で何してんだよルナ」

「………………聞かないで下さい」


 ゆんゆんに教えてもらったコインの販売所。そこで待っていたバニー姿の受付嬢に俺の言葉に遠い目をしてそう答える。

 いつもの服も大概エロいが、こいつのバニー姿もゆんゆん同様反則だな。胸がこぼれないのが不思議でたまらない。


「そう言えばお前、ギルドからバニルの旦那に売られたんだっけか。大変だなー」

「欠片も同情の色がない声で大変言われてもイラッと来るんでちょっと黙っててもらえませんか?」


 だって、俺にしてみればルナのバニー姿見れて感謝しかねえし。本当バニルの旦那は最高だぜ。


「そういやルナ。俺が来る前にリーンの奴はこなかったか?」

「それならついさっき。…………なにか怒ってるような感じでしたけど、ダストさんがまたなにかしたんですか?」

「べっつにー。ま、ちゃんとあいつが来たならそれでいいぜ。それよか俺にもコインくれよ」


 ルナに会えたならある程度説明も受けただろうし、リーンは心配しなくても良さそうだな。ルナは初心者をそのままにしてるようなやつじゃねえから。


「コインを売るのは構いませんが、ちゃんとお金はあるんですか? 100エリスで1バニルのレートですが」

「バニル……ってのがカジノ通貨か。まあこの日のためにグリフォンとかマンティコアとかクエストで乱獲したし金なら割と余裕あるぞ」


 ミネアの力も借りて大人気ないくらい稼いだ。


「バニル通貨からエリス通貨への交換はできるのか?」

「それは不可ですね。バニル通貨は景品とのみ交換できます。景品リストを見ますか?」


 頷いてルナから景品のリストを受け取る。見た感じエリス換算で見るなら1割増しの値段って所か。旦那にしては温い設定だな。

 王都でも簡単に手に入らないレベルの武器とかあるし目玉はそっちかね。一番高い景品は…………


「…………サキュバス?」


 目を擦ってもう一度景品リストを見るがその文字は見間違いないらしい。2番めに高い景品と比べても2つくらい桁が違う値段と一緒にその文字があった。


「おい、ルナ。この景品ってどこにあるんだ?」

「ああ、それですか? 普通の景品は入口の景品交換所にあるんですが、それだけは地下の特別保管庫にいるみたいですね。…………ダストさんも気になります?」

「そりゃ、気になるだろ男としては」


 特にこの街にいる男性冒険者連中は散々世話になってることだし。


「ですよねぇ。でも、私が聞いた話ですとそのサキュバスさんは子どもみたいな体型という話ですよ? ダストさんの好みからは大分外れるんじゃ……」

「ぶっちゃけサキュバスなら体型はどうでもいいが…………って、幼児体型だと?」


 そんなサキュバス俺は一人しか知らないんだが…………まさかあいつじゃねえよな?

 なんかこの間会えなかったことといい、凄いそんな気がしてるんだが。


「会いたいならバニルさんに相談すればどうですか? 今は確か支配人室に入るはずですし、ダストさんなら会えると思いますよ」

「そうすっか。じゃ、ルナまた後でコイン買いに来るぜ」


 そう言って俺はコイン販売所を離れる。



 さて、支配人室はどこかね。またゆんゆんでも探して案内でもさせるか。


「あれ? ダストさんじゃないですか? ご来店ありがとうございます」

「ん? ああウィズさんお疲れ様です…………ってうぉ!?」


 ほわほわとした声に呼び止められて。振り向いた俺はそこにあった姿に心底驚く。


「? どうかしましたかダストさん」

「いえ……なんでもないです……」


 ただただ眼福です。ウィズさんバニー最高すぎる…………ここは天国か?


「そ、それよりウィズさんもカジノの方で働いてるんすね。魔導具店の方にいるのかなと思ってたんですけど」

「はい。だってバニルさんだけこんな楽しいことしてるなんてずるいじゃないですか。それに魔導具店の出張所もここに作ってもらって…………景品の買取とかたくさんあって結構繁盛してるんですよ?」


 …………それマッチポンプじゃね?


「それに高純度のマナタイトとかもちゃんと売れてて私の見る目はやっぱり間違ってなかったって証明されてるんですよ」

「あー……まぁ、確かにウィズさんが選ぶ品は品質自体は最高品質ですしねえ」


 王都でなら売れそうな商品はたしかに前から結構あった。…………カエル殺しとかの高品質なゴミは誰が買うの皆目見当がつかないが。

 何はともあれウィズさんが幸せそうで何よりだ。嬉しそうに動いてるからか胸がポヨンポヨンしてて俺も幸せだし。


「それでダストさん、さっきからなにか探してるようでしたけどなにかお困りですか? もしかしてゆんゆんさんを探してるとか?」

「あいつにならさっき会いましたよ。今は旦那のところに行こうと思って誰か案内してくれる人いないかなって」

「そういうことなら私が案内しましょうか?」

「それは是非」


 ウィズさんの申し出を受けて俺はその隣を歩く。…………横から見る胸も最高じゃないですか。どっかのまな板ウィザードも少しは見習ってくれねえかな。


「? どうかしましたか? 何か私についてます?」

「はい、それはもう大きなものが…………って、いやなんでもないです」


 危ない危ない。ゆんゆんやルナはともかくウィズさんにセクハラはまずいからな。ウィズさんは癒やしで聖域。


「? そうですか? …………あ、ここが支配人室ですよ。中にバニルさんがいるはずです」

「ありがとうございます。ウィズさんも一緒に入っていきますか?」

「私は仕事があるので……魔導具店の方も見てきたいですし」

「そうですか。それじゃまた」

「はい、ゆっくりしていってくださいね」


 そう言って手を振っていなくなるウィズさんを見送る。…………最後まで眼福だったわ。あれで行き遅れだってんだから世の中分かんねえよなあ。



「旦那ー? 入っていいか?」


 こんこんと支配人室の扉を叩く。


「なんだ、チンピラ冒険者ではないか。来るだろうとは思っていたが早かったな」


 ドアが開き、入れと旦那が招き入れてくれる。そのまま来客用のソファーに案内された。


「来るだろうって思ってたってことは要件はお見通しなのか」

「うむ。本来の職に戻った汝の未来を見通すことは出来ぬが、それくらいなら力を使えずとも分かる」


 まぁ、多分俺が旦那の立場でも分かるしな……。


「じゃあ聞くけど、景品にあるサキュバスってもしかしなくてもあいつか?」

「うむ、汝がロリサキュバスと呼んでいるあのひよっこサキュバスで間違いはない」

「やっぱりかー……」


 そんな気はしてたけど…………何してんだよあいつ。


「なんであいつが景品になってんだ? まさか旦那が無理やり…………なんてことするわけねえか」


 旦那はあの店を庇護する契約をしている。悪魔である旦那がそれを破ることはありえない。店員を無理やり景品にするなんてことはないはずだ。


「そのあたりはあれに直接聞くほうがよいだろう。汝も会う許可を貰いに来たのだろう?」

「ああ、後は一応あいつを助ける方法とな」


 あいつには世話になった。完全にあいつの自業自得ならスルーするが、望まぬ形でそうなったなら助けてやりたいとは思う。…………別にあいつを景品としてもらえたら旅先でサキュバスの夢見れるとかは全く思ってない。ちゃんとあの店に帰…………1ヶ月位は借りててもいいよな、恩人なわけだし。


「助ける方法は唯一つ。あれを買い取れるだけのバニルを稼ぐことだ。そういう契約のためそれ以外の方法で助けることは出来ぬ」

「あの額をか……? あんなのカズマ並の幸運ねえと無理だろ」

「そうでもあるまい。汝であれば確実にカジノで稼ぐ方法を持っているはずだ」


 そりゃあるけど……それはほとんどイカサマみたいなもんで…………


だ。これ以上は我輩の口から言えることは何もない」


 それはつまり、今夜だけはイカサマしても見逃してくれるってことか? ロリサキュバスを助けるためだけなら。


「…………いいのか? あの値段ってことはそれなりに元手がしたってことだろ?」

「確かに安くはなかったが、あの値段が妥当というほど高かったわけでもない。……誰でも買えるような値段にするわけにはいかなかっただけだ」

「…………旦那って本当庇護下にある奴らだけには優しいよな。そういう契約なんだろうけどよ」


 ウィズさんとかルナにもその優しさを分けてやればいいのに。


「分かっているならわざわざ言う必要もないだろう。……さっさと行くがよい。文字通り桁違いの値段にしたとは言え、買える可能性が0というわけではないのだからな」

「別に助けるって決めたわけでもないけどなー。ま、助けるならたしかに急いだほうがいいか。旦那、特別保管室ってのはどこに?」

「そこの扉の先の階段を降りていけばある」

「了解。じゃ、旦那とりあえず行ってくるわ」


 奥の方の扉を開け、そこにあった下り階段の降りていく。その先には無駄に硬そうな扉があった。


「ん? 鍵は掛かってねえのか。不用心だな…………って、俺が来るの分かってるって言ってたか」


 それに入口が支配人室のあそこしかないのも考えれば別にわざわざ鍵を掛ける必要もないか。


「だ、誰ですか? ……って、ダストさん!?」

「おう、暇そうだなロリサキュバス。久しぶり」


 高そうな景品に囲まれて小さくなっているロリサキュバスを見つけて。俺は何故か安堵しながらそう声を掛ける。


「暇とかそんなんじゃないですよぅ…………うぅ…………ついに売られていくのかとビクビクしてるのに」

「それなんだけどよ、お前なんで景品になんてなってんだよ。多分どっかの商人に商品にされてそこを旦那に買い取られたとかそんな流れは読めてんだが」


 旦那はそういうとこシビアだし、悪魔として単純に助けるという訳にはいかないから景品にしてるってのは分かる。でも、そもそもなんで商人に商品にされてかが分からない。あの店にいる限りそんな風にはならないはずなんだが……。


「…………それ、ダストさんが聞いちゃいます?」

「あん? 俺がなにか関係あんのかよ?」


 …………そういや、一週間前、旅に出る時に店に行ったら、他のサキュバスたちの態度がおかしかったか?


「ありますよー。……だって、私、ダストさんに恩返しするために店を辞めたんですから」

「…………は? 店辞めた? 俺に恩返しするために?」


 何いってんだこいつは。


「何で『なにいってんだこいつは』みたいな顔してるんですかー。ダストさんがサキュバスサービスの貸し出しサービスがないって聞いて絶望してたからどうにかしようと思ったのに」

「い、いや……確かに貸出ないって聞いた時は軽く絶望したけどよ…………何でお前が店辞めるって話になるんだよ」


 それとこれとは全然話が別だろ。


「店を辞めないとダストさんの旅についていけないじゃないですか。ちょっとした冒険なら休みをもらってでも大丈夫ですけど、本格的な冒険についていくとなると、辞めないとついていけませんし……」


 つまり、こいつは俺の冒険に付いていくつもりで店を辞めたのか。


「……で、その恩返しってのは?」

「前にたくさん精気とお金を貰ったじゃないですか。契約なのでお金は返せないですからその代りにって」


 確かにお金どうにかして返して欲しいとは言ったが…………。


「それでロリサキュバス。とりあえず建前はわかったが本音は?」

「ダストさんの精気美味しいですし、たくさん吸えるからに決まってるじゃないですか。ダストさんは私達サキュバスの美味しいご飯です。ダストさんが旅に出て、貸出サービスがないか探してるって話を知られた時は大変だったんですよ。先輩たちも店を辞めてダストさんの旅についていきたいって人がたくさん出て」


 美味しいご飯扱いってこら…………いや、サキュバスにしてみれば全然間違ってないんだろうけどよ。


「お店さえ辞めればお金とか関係なくたくさん精気吸えますし、ダストさんって強いらしいですしちゃんと守ってもらえる。…………本当この座を勝ち取るために苦労したんですよ? いえ、くじ引きで決めただけですけどね」


 全然苦労してねえなこいつ。


「で? 俺の旅についてくるために店を辞めたのは分かった。なんで商品にされたんだ?」

「店をやめるために一旦地獄に帰ったんですよ。そこでクイーン様に会って契約を終了して野良悪魔になったんですけど…………そこで商人さんに召喚されて……」

「商品にされたと。……お前悪魔だったら人間手玉に取るくらいしろよ」

「女の商人さんだったから無理ですよー。男の人だったらまだ出来ることあるかもしれないですけど」


 サキュバスは男相手ならそれなりに強いが女相手だとやれること少なすぎるからな。


「はぁ…………そういうことなら仕方ねえか。半分は俺が理由みたいだし助けてやるよ」

「え? でも、私って凄い値段つけられてるんですよね? こうなったらカズマさんが私を買ってくれるしかないかなーって思ってたんですけど」

「俺が放っておいてもあいつがなんとかしそうではあるがな。ま、今回は俺に任せとけ」


 あいつが買い取っても流石に連れて帰るのは無理だろうしな。


「任せるって……本当に大丈夫なんですか?」


 首をかしげるロリサキュバスに


「大丈夫に決まってるだろ? 最年少ドラゴンナイト様に不可能なことはあんまりないんだぜ」


 俺は自信満々でそう答えた。






「──というわけでルーレットでサクッと稼いできたぞ」

「えー……あれから一時間しか経ってないんですけど……本当に稼いじゃったんですか?」


 ロリサキュバス引換券をルーレットで稼いだ大量のバニルと交換してきて。また特別保管庫にやってきた俺はそう言ってロリサキュバスを立ち上がらせる。


「旦那にイカサマ許されてたからな。『竜言語魔法』ありならルーレットで外すほうが難しい」


 ジハードとかミネアが近くにいないしいつもほどの精度があるわけじゃないが、それでも『反応速度増加』を使えばルーレットでどこに落ちるかくらい予測できる。


「…………ダストさんってもしかして本当に凄いんですか?」

「俺は別に凄くねえがドラゴンの力は凄いな」


 最強の生物の名は伊達じゃない。


「とりあえずここから出るか。……って、流石にその服のまま出るわけにも行かねえな」


 ロリサキュバスの服はまんまサキュバスの服だ。流石にこのまま出るわけにも行かないだろう。……端数のバニルコインが残ってるしそれで適当な服でも買ってくるか。


「なあ、ロリサキュバス俺はちょっと景品交換所に……って、どうかしたか? なんか言いたそうな顔してるが……」

「えっとですね……ダストさん。私はこの場所で景品としていました。そしてダストさんはその私を正規の方法で手に入れた……そうですよね?」

「イカサマで稼いだコインだが……まぁ、そうだな」


 少なくともコインも稼がずこいつを連れて行こうとしてるわけじゃないしな。


「つまり、私は今、ダストさんのなんです。私を自由にする権利があります」

「……それで?」

「え? いえ……だから…………その…………私に夢を見させたりとか何でもさせられるんですよ? ダストさんが望むなら真名契約だって拒めないんです」


 真名契約……確か悪魔の真名を聞いてそれを話さない限り悪魔を使役できる契約だっけか。


「そのお前を自由にする権利ってのは絶対に使わねえといけないのか?」

「そういう契約で商品になりましたから……」


 つまりは、その権利を使わないといつまで経ってもこいつは景品のままってことか。


「なぁ、建前とは言えお前は一応俺のために捕まってこうして景品になったんだよな?」

「はい、一応そうなります」


 なら、話は簡単だ。


「前にどっかの誰かにも言った気がするんだがな…………俺は自分のために動いてくれるやつを扱いすんのが一番嫌いなんだよ」


 それはドラゴン使いとしての誇りだ。


「だから、今お前を好きにしろってんなら、それはダチでいい。旦那とゆんゆんみたいな関係を俺と結んでくれ」


 それはきっと契約と言うにはあまりにも不出来なものだろうが。でも、こいつを物扱いしないためには仕方ない。


「ダストさんって…………よく分からない人ですね」

「そうか? だったらちょうどいいな。俺とダチになってちゃんと勉強しろ」


 この程度の人間の機微が分からないようじゃサキュバスの道を極めるのは無理だからな。


「ふふっ……はい、それじゃこれからは仲間として、友達としてお願いします、ダストさん」


 こうして馴染みの店の店員が俺の友達になった。


「って、仲間って、もしかしなくてもお前も旅についてくるのか?」

「はい、最初からそのつもりでしたし…………さっきの話もそういう話でしたよね?」

「…………そういやそうだったな」


 ついでに旅にもついてくるらしい。いや、毎日アクセルに帰れない俺には凄いありがたいんだけどな。…………ゆんゆんは喜びそうだがリーンが何ていうか不安だ。













――――


「このカジノだね、悪魔を景品にしてるカジノは」

「そうらしいですね。…………マジで行くんですかお頭」

「今更何を言ってるの助手くん。悪魔を景品にするなんて恐ろしい事するのは悪魔しかいないよ。滅ぼさないと」

「でも、せっかく俺の街にカジノができたんですよ? エロいバニーさんもいるらしいし……」

「だから何?」

「いえ、なんでもないです……はぁ……こうなったらお頭に何言っても一緒ですもんね」

「まぁ、助手くんあたしも鬼じゃないからね。今回は名一杯楽しんでいいよ。楽しんで楽しんで荒稼ぎしちゃおう。きっとエリス様も応援してくれるよ」

「…………マッチポンプ」

「何か言った?」

「何も言ってないです。はぁ、エリス様もこういう所は本当アクアに似てると言うか……」

「流石に先p……じゃなくてエリス様とアクアさんを同列扱いは酷いんじゃないかな!?」

「正直対悪魔やアンデッドならアクアのほうがマシと言うか…………アクシズ教徒と同レベルな気が…………」

「アクシズ教徒の人っておかしな人達ばかりだけど、悪魔やアンデッドに対する態度だけは素晴らしいよね」

「…………そうですねー」




 その日。謎の盗賊団に真正面から襲われたバニルカジノは一夜にして破産した。

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