第6話 借金は働いて返しましょう

「――で? 約束してた時間からこんなに遅れちゃったと」


 リーンの泊まっている宿の部屋。金を返しに来た俺は、遅れた理由をちゃんと話したのに何故かジト目で見られていた。


「そうだよ。あの凶暴ぼっち、クエストの集合には遅れてくるわ、喧嘩売ってくるわで時間を無駄に消費させられたんだ。俺は悪くない」


 悪いのは全部ゆんゆんだ。


「まぁ、あんたが金返しに来るってだけでも天変地異なんだし、大幅に遅れてきたくらいはいっか。あんたが悪くないかどうかは置いといて」


 置いとくなよ。実際今回はそんなに俺は悪くないはずだぞ。


「とにかくだ。約束の時間には少しばかり遅れちまったが、借りてた金少しだが返すぜ」


 まぁ、俺が悪くないって言ってもこいつが素直に認めるとも思えないし。一応は金を借りてる身だからと言いたいことは飲み込む。


「ほいほい……ん、確かに10万エリス返してもらったよ」


 金を確認して受取るリーン。


「って言っても10万エリスじゃ全体の20分の1しか返せてないからね? ちゃんと残りも返してよ?」

「ケチケチしやがって。元はといえばお前が勝手に俺のヒュドラの討伐報酬をカズマたちにあげたから金を借りるはめになってんじゃねぇか」


 2000万という高額の報酬が入っていれば俺は今頃毎日昼夜問わずサキュバスサービスにかよい起きたらナンパを繰り返す日々を送っていただろう。


「そのままダストに入っててもすぐ使い込んでなくなってた気がするけどね」


 否定はしない。


「ま、残りもゆんゆんと高難易度クエストこなしてさっさと返してやるから待っとけよ」


 高難易度クエストをこなしていってる内にゆんゆんの俺に対する好感度が上がって友達以上親友未満くらいになれば200万エリスくらいならポンと貸してくれるはずだ。


「へー……あんたがまじめにクエストこなしてお金を返してくれるなんて思ってなかったよ。これもあの子のいい影響かな」

「おい、リーン。ゆんゆんはお前が思ってるようなやつじゃないぞ?」


 都合のいい勘違いはそのままにしといて都合の悪い勘違いは解いておくことにする。


「って言うと?」

「ゆんゆんはまず凶暴だ。こっちが少し下手に出ればすぐに殴りかかってくる」

「……あんたが下手に出ることなんて想像できないんだけど」


 金を借りてる相手には少しは優しくしてんだろ。お前含めて。ゆんゆんもクエスト手伝ってくれてるしかなり優しく接してやってるぞ。


「次にお前らはゆんゆんを孤高のアークウィザードだとでも思ってるのかもい知れないが、あいつはただのぼっちで友達いないだけだ」

「それは知ってる。……というか仮面の人やあんたがぼっちぼっち言ってるから知ってるんだけど」


 ……俺はともかく、旦那は流石に酷いよなぁ……公衆の面前で友達がほしいのかとか大声で言っちまうんだから。


「最後にあいつは夢のなかじゃエロい」


 17歳のゆんゆんは最高でした。


「夢ってなんの話よ。……最後はよく分かんないけど、殴られるのはあんたが悪いだろうし、人付き合いが苦手なのは可哀想だけど別にあの子が悪いってわけじゃないじゃん」

「んだよ、リーンもゆんゆんのこと少しは分かってるじゃないか」

「あの子があんたや仮面の人と付き合い始めてから良くも悪くも今までと違った噂が流れてくるようになったからねぇ…………ま、確かに孤高のアークウィザードって感じじゃないけど悪い子じゃないのは変わらないよ」

「人をいきなり殴ってくるのにか?」

「だからそれはあんたが悪いって」


 いや確かに俺が悪い場面もあったかもしれないが……ゆんゆんが短気だった場面も多い気がするんだが……。


「前にも言ったが……そんだけ分かってんならリーンがゆんゆんの友達になってやれよ。年も近いんだし」

「確かにあの子とはあんたの被害者同盟ってことで仲良くなれそうな気はするけど……」

「おい、どっちかというと俺はお前らの暴力の被害者なんだが」


 街中でぽんぽん魔法ぶつけてきやがって。俺やララティーナお嬢様じゃなけりゃ大惨事だってことこいつらは分かってんだろうか。


「寝言は寝て言って。……一回断ってるから今更友達っていうのも言いづらいのよね」

「ああ、あれか…………さすがの俺もドン引きだったしな」

「あれもあんたが悪いんだからね?」


 いや、あれだけは絶対俺は悪くない。なんでもかんでも俺のせいにしてんじゃねーぞ。


「……でも、ダストのくせになんであの子にはそんなに優しいわけ?…………もしかして好きとか?」


 何でもかんでも遠慮なしに言ってくるリーンにしては珍しく、少しだけ聞きづらそうに聞いてくる。

 ……こいつは一体全体何を考えてるんだろうか。のことなんて欠片も好きじゃないくせに。

そもそも、ゆんゆんを好きだとか見当違いにも程が有る。俺があいつに絡んでやってる理由だってこいつはちゃんと知ってんだろうに。


「別に打算無しで優しくしてるわけでもないし17歳のゆんゆんならともかく14歳のクソガキを好きになるとかありえないんだがな……」

「17歳のゆんゆんって何よ」

「……ま、そんな打算とか抜きで俺が優しくしてるように見えるんならあいつが一時的とはいえ俺のパーティーメンバーだからだな」


 恩がある相手とパーティーメンバーにだけは優しくしようってのが俺のモットー(酷い目にあわせないとは言ってない)だ。

 ちなみにカズマとかバニルの旦那とか、俺が認めた相手には優しくするのはもちろん酷い目にもあわせない。

 ……認めた相手でもパーティーメンバーなら酷い目に合わせてもいいかなぁと思ったり、そのあたりは結構適当ではあるが。


「ふーん……ま、確かにあんたってパーティーメンバーを見捨てることだけはしないよね。カズマたちとのパーティー交換で初心者殺しに襲われても一人も見捨てなかったみたいだし。……そうでもなきゃあたしもテイラーもとっくの昔にパーティーから追放してるけど」


 …………あのことを思い出させんなよ。どんだけ苦労したと思ってんだ。


「後はまぁ……ゆんゆんには今回金を貸してもらったことだしその礼も兼ねて優しくしてんだよ」

「女に借りた金を女に借りて返すとか……クズにもほどがあると思うんだけど」


 生ごみを見るような目を俺に向けるリーン。

 ……あ、ゆんゆんが俺が金返すって聞いた時にした微妙な顔はこれが理由か。

 一つ女心を学んだ俺だった。

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