第5話 誘い


憂は、一矢のことがわからなかった。優しいお兄さんのお友達。。。


でも優紀は常に憂に言っていた。


あいつだけはダメだぞ。。。。止めとけよ。


憂は何故?と聞いたが、兄は答えなかった。


ダメなもんはダメだ。。。


甘酒が冷めちゃうね。。。と一矢は言った。さっきの干菓子は、自分の右手に握られたままだった。一矢が抱き締めたせいで、壊れた?と思った憂は右手を握り締めたままにしていた。


一矢は、そんな憂にほほえみながら、その手のひらをそっと開いて、薄紙の上の干菓子を白いのは僕、と、あ、と思う暇もなく、自分の口の中にそっと入れた。


憂ちゃん、食べないの?


気がつけば真っ赤な顔をしながら、どうしていいのか分からなくて、憂は首を振った。


和三盆はね、口の中に入れると、すーーッと融けるような甘さがあるんだ。。。


そっと、先に家人が甘酒と一緒に置いていったおしぼりで手を拭ってから、一矢は赤い方もつまみ上げた。ちょうど、二つでひとつの丸い球形の和菓子は、白がなくなったら、赤い方だけがゆらりと手のひらで所在がなかった。


目をつぶって。。。


憂は仕方なく目をつぶった。杖は足下に落ちていて、ここからは遠くで時々さざめくようなお客人の声が聞こえ、お琴の音色が遥か彼方から微かに聞こえてくるものの、どこにも逃げられない。まるで催眠術にかけられているように、仕方なく一矢の言うことを聞くしかない。一矢の声が甘いから?どこか遠くで聞こえる歌声のように、頭の中に染みるようだった。

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