憂愁の箱庭

@Shuji_Takeuchi

第1話プロローグ

 遙か未来。人類は太陽系より新たな生存圏を求め飛翔の時を迎えた。何次にも渉る宇宙開拓団は、それぞれ設定された目的地へ向け旅立ち、各々がそれぞれの地に立脚したそれぞれの統治体系を構築していった。

 数世紀が経過した頃、アクイナス帝国は膨張政策により他国、地域への侵攻を開始、あるいは降伏させ版図に加え、あるいは領地の一部を割譲させた。帝国のそれ以上の拡大を恐れた各国、地域は連合し、反帝国戦線を形成した。両者は激突するも雌雄を決するに到らず、以後は衝突と休戦を繰り返す状態となる。その間経済的、文化的交流は活発化していった。

 時の流れと共に権力の腐敗や征服した地域の独立運動、反乱等で帝国は衰退し、それを待ち侘びていたかの様に反帝国戦線連合軍は”解放戦争”を仕掛けた。開戦と同時に海外資産を凍結され苦境に陥った皇室の戦意は低く、帝国軍は敗走を続け、遂に帝国本星の恒星系まで追い詰められたのであった。しかし、そこには帝国最後の切り札が存在した。直径二十キロメートル余りの人工惑星、”殲滅要塞”である。巨大なビーム兵器に無数の対空、対艦兵装、主力艦船二百隻余りが停泊可能な港湾施設、機甲師団数個分が常駐可能な基地を内包し、難攻不落の要塞であった。が、しかし。

 結局のところ、”殲滅要塞”は一度も戦火を交える事無く戦争終結を見た。マジノ線宜しく迂回した連合軍は短時日で本星を攻略したのである。何をする暇もなく本星は占領され皇帝フェリポ・マクシムⅢ(三世)は退位、全軍に戦闘停止、武装解除命令が発令された。本来ならば、”殲滅要塞”もその命令に従う筈であったが…驚愕すべき事に独立を宣言したのであった。その経緯を簡潔に述べるならば。

 ”殲滅要塞”には皇帝の次男が司令官として赴任していた。父の退位が発表された時、共和制への移行を予測した彼は、父と長兄(皇太子)の居場所を確保するため無謀を承知で正アクイナス帝国の成立を宣言したのである。この扱いについて、共和国移行準備委員会と連合軍代表団、正アクイナス帝国全権委任団の三者間で協議が行われ、元皇帝及び皇太子の居場所を確保する、という当初の目的は達成されなかったものの、アクイナス共和国の保護国状態として一応の独立が承認され、”解放戦争”は終結したのであった。勝利した連合軍側も、これ以上の戦争継続には耐えられなかったのである。それより百年余りが経過し、正アクイナス帝国は第三代皇帝ハナ・クリスナⅡ(二世)の御世となっていた。

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