第6話 いいなあ。それ。

 朝から陽気な三人引き連れ旅をする俺。

 なんでこの組み合わせなんだよ! ジュジュは蜂蜜色の髪を揺らしてやたらと俺になつき、リンはすぐに茶色い大きな瞳で俺に絡んでくる。ニタそれを笑顔で見つめる。いったいこれが勇者一行に見えるんだろうか?

 昨日泊まった村を出てさらに次の村を目指してるが、なんだかふにゃふにゃな旅だな。



 *



「おい! お前ら金を置いていけ!」

 どうやら相当ふにゃふにゃに見えたんだろう山賊に狙われたらしい。山賊は三人か。

 俺が行こうとすると、ああ! またニタが行く。どっからそんな勇気が湧いてくるんだ?

「アチッ! てめえ!」

 ったく! と後ろから呪文。リンだよ。ああ、何か降って来るよ。

「うわー!」

 今日は……ああ、もうなんだよ、これ! ボヨーンがバレる前に俺が行く。まずはニタを捕まえてるヤツから。


 あっという間に俺が三人を倒した。なんかわからない奴の横で。

「リン、何だよこれ?」

 デカイので脅かし効果はあるが今日は造形も大失敗だろう。何だかわからないのが降ってきてボヨーンってなって今横にある。

「ああ、失敗したニャン」

 ニャンが戻ってるし。造形したのが何か言わないし。

 多分……熊? ……わからん。

 というわけで倒した山賊が起きる前に出発する。



 *



「あ! ああ!」

 何だよニタ。

「今、呪文が思い浮かんだんです! やって見ますね」

 なんで今やるんだよ。ってか何の魔法だよ。

 ニタが唱え終わるとボーっとガスバーナーぐらいの火力でニタが指差す指先から火が出てきた。

 ニタ先に言えって危ないって。

「すごいです! ニタさん修行の成果ですね!」

 ニタはいつ修行してた? 戦闘の成果? ジュジュ褒め上手だね。フェアリーっぽいよ。

 リンはと見ると少し拗ねてる。まあ、失敗してたしね。

「リン。気にするな。というかあの短時間でアレだけ描写するんだ、凄いと思うよ」

 拗ねているリンを慰めない訳にいかない。

「そう? そう!? 昔から絵が得意だったの! だからね、造形魔法の魔法使いになろうと思ったの!」

 ああ、歯止めがきかなくなった。リンはそれからの道のり、造形魔法がいかに大変かを語っている。

 確かにあの早さで書き出現させるのは大変だろう。何度も練習を重ねて出来るんだろう。まあ、さっきの熊みたいなのはアレだけど、この前のドラゴンは生きているようだった。あ、ボヨーンってなるまではな。

「ね! 聞いてるの勇者様!」

「あのさ。勇者って呼ばないでよ。透でいいからさ」

「そ、そう?」

「ああ」

 俺は勇者だと認めてない。半分ぐらい。この髪や異世界に来た時に小学生ぐらいに戻ってたこと、伝説で語られていた岩の前にいた事実が俺が勇者だと認めない訳にはいかないんだけど。まあ、だから半分だ。

「じゃあ、トオルで」

 なぜかリンは頬染めそういう。勇者様って様付けから呼び捨てはすごい落差だからか?

「ああ」

 なぜか沈黙が訪れる。リンどうしたんだ? 急に黙り込んで。

「あのさ、ずっと聞きにくかったんだけど、リンの出す造形魔法の固さは修行とかで変わるのか?」

 完璧な見た目なんだから、せめてボヨーンは変化して欲しい。せめて跳ねない程度には。

「それが何年修行しても変わらなくて。造形魔法の魔法使いに、もううちでは限界だって追い出されて」

 どこかで聞いた話だ。ニタと一緒じゃないか! リン、そこは次の魔法使いに修行に行く流れだよ。なぜ勇者一行に加わるんだ。

「他の魔法使いのところに修行しに行くって思わなかったの?」

「それが勇者様が旅をはじめる時期と重なってたの! 運命を感じて! で、勇者様探しをしてたの」

 わからない。が、どうやら造形魔法を極めるよりも猫耳娘を極める方が勝ったという話だろう。

 ああ、結局リンもレベルアップするのかわからないまま話が終わった。



 *



 ガサガサ。

 うん? 周りを見回す。何かの気配がする。動物か?



 ガサガサ。

 やっぱりする。そういえばこの一つ前の村でそろそろ魔物も昼にも出るって言ってたな。

 魔物か?




 剣がすぐに出せるように準備しておく。

 魔物ってどんなだろう。想像はゲームの魔物へ。俺の思い描く魔物はどちらかというと一つ目だったりなんかの動物だったり、イメージ的には迫力がない。なんでこんなん怖いんだよ的な魔物だ。

 だけど、魔王を倒してくれと十年も勇者を育ててるんだ、魔物も怖い存在なんだろう。どうしようこのメンツ。というかここの魔物で不安なんて魔王を倒すなんて、夢のまた夢じゃないか!




 ガサガサ。

 つけられてるのか?

 気配は一向に離れもせず近づきもしない。





 ガサガサ。

 なんか面倒になってきた。いい加減緊張が続かない。えーい。こっちから行ってやる!





 ガサガサ。

 そこだ!

 俺の突然の動きにみんな驚いてる。ああ、もうそのまま驚いてて欲しい。また突っ込まれたら面倒だ。




「おりゃー!」

 思い切り剣を振り落とす。

「あー、危ないじゃない!!」

 へ? 勢いで道の脇にある林の中の影に向かっていったので、相手を確認していなかった。てっきり魔物だと思ったのに。

 そこにいたのは……忍者?

 魔法使いに妖精までは許容範囲内なんですが、忍者ってなんでしょう? しかも女の子だし。くノ一と呼び直しても同じだね。ここは異世界だ。だけど、洋風なんだよな。全体的に。なので受け入れ難い。いや、認めにくい。でも、目の前にどう見たって忍者の格好した少女がいるんだよな。年は俺と同じくらいだろうか、漆黒という言葉が当てはまるくらい真っ黒で艶やかな黒髪を後ろに一括りにしている。長い髪は括っていても腰の辺りまである。瞳も同じく真っ黒で肌の浅黒さと忍びの服の黒さで全身真っ黒。いかにも忍びの者って感じだ。




「あ、あの。ずっとつけてた?」

 とりあえずあのガサガサの主か確認。

「えー! バレてたの? また失敗かあ」

 あー。練習してたのね。これこそ修行だね。ああ、ややこしいので関わるのやめておこう。

 と、後ろからぞろぞろと足音が。

「うわ! 忍者だよ! 本物?」

「すごいです! はじめてみました」

「私もー」

 ああ、忍者の認知度が見えてきたよ。どうやら存在は知ってるが見る機会はないのか、田舎にはほぼいないっというところだね。

「ねえ、変な団体だけど何かの集まり?」

 忍者に逆に質問されてるよ。そんな風に見えてたのか。多分リンの猫耳とジュジュのハチマキが異様さを引き立ててるんだろう。

「私たちは勇者一行だよ。魔王退治に行くの」

 リンにかかれば魔王もねずみのような扱いになってる。退治って。

「へー! 魔王! 君が勇者?」

「ああ」

 まあ、この中で勇者に間違われそうな奴は他にいないだろうからな。俺、つるぎ背負ってるしな。

「そう。魔王」

 忍者の少女が赤い唇を指で撫でて何か考え込んでる。今の隙に元の道に戻ろう。こんな林の中だと本当の魔物が出てくるかもしれない。

「じゃあ。俺らは先を急ぐから」

 忍者を見ては何かボソボソと感想を言い合ってる三人を無理矢理、元の道に引き戻す。

 こいつら観光気分かよ。まだ、後ろを振り返ってなんだか言い合ってる。もう忍者は希少なのはわかったから!

 ふう、やっと道に出た。

「もう少し見たかった!」

 はい。ジュジュごねない。

「書いてみたかった!!」

 ボヨーンってなるのでやめようね、リン。

「可愛い」

 ニタ、ボソッと忍者に関する感想以外言わない。確かに可愛いかったが。って!!



 振り返ったら目の前にいる。さっきの忍者の少女が。

「あれ? なんか用かな?」

 まだなんかあるのか? バレバレな尾行しかできない忍者のくせに後ろを取られたのには気づかなかった。

「私も行く!」

「はあ?」

「魔王よ! 魔王退治に行く」

 また魔王ねずみ扱いだけど。ええ!

「なんで? え!」

「強くなりたいの!」

「いや、修行してたほうがいいんじゃない?」

「それじゃあ、強くなれない! 魔王退治! それよ!」

 どうやらこの忍者かなり思い込みが激しいようだ。リンもだけど。

「あのー。家の人とかねえ。大丈夫かなー? なんて」

 軽く断ってみた。

「里には強くなるまで帰ってくるなと追い出されたから大丈夫!」

 この忍者、ポジティブだね。まあ、俺と変わらないけど。俺も村から出されたからな。目的は違うけど。

「なあ、トオルこう言ってるんだ。忍者だぞ! いいじゃないか」

 ニタ、浮かれ気分で説得するな。顔がニヤついてるぞ!

 ああ、ジュジュはウルウルの目で俺を見つめているし、リンは空に忍者を描いてる。

 もうわかったって。どうせすでに異様な集団らしい。この際忍者がいても、もういいか。

「ああ、わかった。ただし、自分の身は守れよ。この集団、戦闘能力低いから他をあてにするな」

「もちろん!」

 自信満々な答えが帰ってきたけど、里を追い出される強さって……未知数だ。



 *



 忍者は名前をツバキと名乗った。里って日本風なんだね、やっぱり。

 ツバキはすぐに少し待ってと何処かに消えた。移動速度はすごい速さだ。今わかるのはそれだけ。どこかに荷物でも置いてるのかな?

 本当に少し待ったらツバキが来た。普通の格好で。

「あー! だから忍者見たことある人少ないんだー」

「その格好でも可愛い」

 ニタのつぶやき。

「忍者って普段そうなんですね」

 それぞれの感想が出たところで出発。

 なんか強くなった気が全くしない。



 *



 あれ? そういやツバキ、刀を背中に装備してたよな? 今の姿で刀はどこにもないし、隠せる隙間ももちろんない。荷物すらない。

「ツバキ刀はどこいったの?」

 これは大事な質問である。戦闘能力に関わるんだから。

「ああ、ここに」

 と、ツバキが手のひらを合わせると青白い丸い光が出てきた。ツバキは手を離し光の中に手を入れる。刀がスルスルと光から出てくる。

「ああ、異次元魔法ですね」

「それで荷物ないのねー」

「はじめてみました!!」

 ニタ、食いつき過ぎだ。いや、俺の認識が甘かった。忍者に対する認識が。ここは魔法の世界なんだ。忍者だって魔法ぐらい使えるさ! あはは。って! なんで勇者だけ魔法が使えないんだよ!?

 まあ、元の世界の忍者にそんなに詳しくないよ。でも、魔法かよ。いいなあ。それ。俺は背中が重いよ。

「もういいか?」

「ああ、ごめん。いいよ。直して」

 いいなあ。それ。

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