第4話 妖精の卵

 何か道の向こうの方から声が聞こえる。上り坂を今登ってるとこなんだけど、何か嫌な予感がするな。

 上り坂を登りきって向こうを見ると四人のガラの悪そうな男に取り囲まれた少女が見えた。少女は十四、五歳くらい。蜂蜜色の長い髪を腰の辺りまで下ろしている。少女は困っている様子で今にも泣き出しそうな顔をしている。ブルーの瞳には涙が溜まって今にも溢れ落ちそうだ。ああ、見ちゃったよ。またかかわるのかよ?



「トオル! フ、フェアリーが!」

 ニタが服の袖を引っ張る。見えてるよ、バッチリ見えてる。やっぱり勇者って助けるものだよね。この展開。って? フェアリー? 妖精? 俺からは女の子にしか見えないし、だいたいここ妖精もいるのかよ! 村にはいないしそんな話聞いてないし!

「勇者様!」

 リンももう片方の袖を引っ張る。いや、そうだけど。ああ、もうしゃあない。クソっ! 勇者って魔物倒して最後に魔王を倒してってやつじゃないのかよ。これじゃあ、人助けして、あ、妖精まで助けて、旅してるいい人じゃないかあ! まあ、勇者になりたくてなったんじゃないんだけど。

 と、心の葛藤していたらニタ飛び出してた。おい、お前の武器あの引っ込む小刀だろ?

「あつっう! なんだこのガキ!」

 あっという間にニタは押されて地面に転がっている。しゃあない、俺が行くかと前に出ると横でリンが本広げて呪文を唱えていた。

 何か出る! と、大きなドラゴンが男たちの上空から降ってきた。男たちは完全に驚いて逃げている。最後のボヨーンの着地音聞くまでは。ボヨーン聞いたらもういくら恐ろしそうなドラゴンでも、ただのオモチャになるからね。が、この隙にって俺は男たちに走りよりドラゴンに驚いてるおっさんどもを蹴散らした。

 そして、ドラゴンを見つめている呑気な女の子いや、フェアリーの手を掴む。

「おい、二人ともいくぞ! このおっさんどもヤバイ。逃げるぞ!」

 と、ドラゴンを触ろうと近くに行こうとしているニタと、ドラゴンを出して得意げなリンに言いながらさっきの道を次の村目指して走っていく。

 やってみればわかる。相手が素人かそうじゃないか。あいつら本物の悪者ってやつらだ。ニタに絡んでた奴らとは格が違った。あのくらいのダメージで引き下がるかわからなかった。こんな足手まとい三人連れての戦闘は不利だ。逃げるが勝ちである。



 そろそろ次の村も見えてきた。ここまでくればいいだろう。みんな息荒く肩で息してるし。



 *



 歩きながら目の前にある村目指す。みんなは息を整えてる。

「なあ。フェアリーって妖精だよな? 俺にはこの娘、妖精には見えないんだけど」

 その子をもう一度見ながら言う。背はリンよりも低く胸の成長もほとんどない。顔は色白でブルーの澄み切った瞳、可愛い部類だろう。蜂蜜色の髪が目を引く。どこから見ても可憐な少女にしか見えない。ファンタジーさ加減なら猫耳つけてるリンのが上だし。

 普通の中学生にしか見えないし。

「トオルってフェアリー知らないの?」

 勇者が魔王倒すこと知らなかったニタには言われたくない。

「フェアリーは世界樹に行ってはじめて本来の能力全てと、翼がもらえるんだよ。ほらここ世界樹」

 リンが地図を広げて見せて説明してくれた。これも相変わらず大雑把な地図。とにかく世界樹は……おいおい、魔王の城の向こう側じゃないかよ。魔王の城よりさらに遠いし。この子一人で大丈夫かよ。

「なんで見ただけでフェアリーって……あ! ああ!」

 その子の顔をよくみると額のところに黄色い星のマークがついていた。はっきり、くっきり。俺は思わず指差しちゃったよ。

「そう、これなんです。これでフェアリーの卵だって、生まれた時にわかるんです。さっきは助けてくれてありがとう。この力を狙ったやつらに襲われて、捕まりそうだったの。村を出てすぐに見つかっちゃって」

 はじめて言葉を発したフェアリー。多分、フェアリーはこいつら大丈夫か? とか思ってたのかも。

「なんで狙われんだよ」

「フェアリーはね。治癒力に優れてるの。傷も病気も直しちゃう。フェアリーの卵だって大きくなればすごい治癒能力を持ってる。フェアリーは世界樹に行くと世界樹に住むから、みんなその恩恵に預かれないからフェアリーの卵が狙われちゃうんじゃない?」

 なんでだ! 治癒力ある奴が一箇所に集まって何してんだよ。医者が山ほどそこに集まって誰の治癒もしないってことだろ! なんなんだこの世界は。魔術師やら藥師が怪我や病気を治していたからいいのか。ってかなんの為、誰のためのフェアリーなんだよ? と当のフェアリーの卵の前で毒は吐けない。

「村でも私の治癒力が大きくなってきて、みんなに頼られるようになったら、両親がお金を村の人達から治癒代としてもらうようになって……だからフェアリーは十八に世界樹に行くって決まりなんだけど、早くに家を出たんです」

 ああ、なんか悲しい話だな。両親ってフェアリーじゃないんだよな。当然、突然フェアリーが産まれてってことか。変な世界。

「私たち魔王の城まで行くから、一緒に行こうよ」

 リンが勝手に勧誘しているよ。この最弱パーティの勇者一行に。

「そう、そうですよ。僕もここまで一緒に行きますし」

 ニタも地図を広げて誘ってるし。二人で俺の方を見る。ああ、もうわかったよ。フェアリーの卵は危ないんでしょ。わかりましたよ。

「俺は勇者で魔王を倒しに行くけどそれでもいいならな」

 ちゃんと全部言ったからな。

「うん!」

 少女らしい答えだ。



 *



 さあ、村に到着後一番に布地を買いに行く。フェアリー、あ、名前はジュジュ。ジュジュの額の星を隠すため、応援団のように鉢巻してもらうことにした。ただでさえ無謀な旅なんだ、できるだけトラブルは避けたいからね。

 ジュジュはリンと長々と相談した挙句に決まらず二枚の布をどうのこうのと揉めている。ああ、もううるさい!

「どっちも交代でつけたらいいだろ」

 の一言でやっと買い物終了。女の子って面倒臭い。



 *



 それにしても戦闘能力の低さでは誰にも負けない勇者一行ができあがった。

 俺しか戦えないってどうなのよ。

 フェアリーの卵は治癒らしいが、ずっと治癒しっぱなしだぞ、これは。

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