SFギャグ集「カンガルー先輩」

印度林檎之介

第1話 カンガルー先輩


世界は世紀末を向かえ、世界に核の嵐が降り注いだ。

……しかし、人類は滅びていなかった。


ここ、オーストラリアでは人類の生き残りは二人だけとなった。

しかも、放射能の影響で動物達の知能は高くなり、文明を持ってしまった。


ボカッ、ゴスッ、ボコッ

コアラ  「オラ、弱っちいクセに逆らうんじゃねーンだよ!! トイレ掃除の後は、水くみ、終わったらユーカリの葉を50kg集めてこい!」


俺    「ダ、ダイソンさん、大丈夫っすか!?」

ダイソン 「く、クソッ! も、もう我慢できん」

俺    「だ、ダメですよ。こらえてください! 例えあなたが元チャンピオンでも『ヤツ』には赤ん坊あつかいですよ」

ダイソンはどうにか起き上がり、泥を払う。

ダイソン 「たしかに、コアラなんてものの数ではないが、『ヤツ』には手も足もでない……。俺は、今でもパンチ力は1トンくらいはあるんだが、それでもヤツには全く通用しない」


「おう、お前ら、さっさと働かないとドヤされるぞ」

二足歩行のワニが立っている。


俺   「あ、クロコダイルさん、オハヨウございます!! ドブ掃除の帰りですか」

ダイソン「あ、いつもお世話になっております!! クロコダイルさん」

クロコダイル「コアラめ、有袋類だからっていばりやがって、むかつくよな!」

俺   「しかし、あなたでさえ『ヤツ』に手も足もでない状況では……。やはりコアラごときの侮辱に耐えるしかないのでしょうか?」

クロコダイル「うーん、全く『ヤツ』さえいなきゃ、有袋類なんて、後はコアラやウォンバットなんてゴミみたいなもんなんだが。全員でかかればあるいは……」

俺    「や、やめてくださ~い。かないっこないですよ!!」

ダイソン 「ゴクリ。や、や、やりますか……?」

俺    「ダメですって。いままでヤツに挑んだって瞬殺じゃないですか。我々、三人倒すのに1秒かかんないですよ。次は確実に殺されますよ!!」


『お前ら、何を話しているんだ?』

三人(二人と一匹だが)、直立不動になった。


カンガルー 『……お前ら、おもしろい話をしてたんじゃないのか?』

俺たち   「「「と、とんでもございません!!!」」」

カンガルー 『いいか、お前達は試されているんだ、という事を忘れるな。有袋類以外は抹殺してもいいんだが、俺様の心の広いことよ! ……ときに、クロコダイルッ!』


クロコダイル「わ、わたくしめでございますか!?」

カンガルー 『お前、おもしろい考えをもっているようだな? ちょっとこっちへこい』

クロコダイル「ひ、ひえ~~!! お、おた、おたすけっを!!」

カンガルー 『遠慮するな、ちょっと俺様の2.5トンパンチのスパーの相手をしてもらうだけだ』

クロコダイル「いや、いや~~っ!!! おゆるしを~!!」


カンガルー 『おめーら、食料採取おわったら裏山削って住居拡張の続きだ! キビキビ動けよっ!!』

俺とダイソン「ご命令のままに」

俺とダイソンは直立不動のまま、90度からだをおりまげ、礼をする。


クロコダイル「た、たすけてくれ~」

カンガルー 『な~に、当たらなければどうという事はないさ』

俺とダイソンはにこやかに手を振った。

『あー俺らじゃなくてよかった(はーと)』


その後、おろかな動物達は大陸間で核戦争を始めた。

もともと、不安定だった動物達の知能はふたたび放射能の影響で元にもどった。俺は助け出され、日本に帰ってきた。


俺はオーストラリア唯一の日本人生き残りとして大歓迎を受けた。

首相に連れられ、動物園見学のセレモニーに呼び出された。

要は政治パフォーマンスに利用されているのだが。

首相 「どうかね、人類が再び主導権を握り、動物はふたたびオリの中だ」

俺  「はあ」


動物園を巡るうち、カンガルーの檻の前に来た。

俺は反射的に90度体を折り曲げ、ふかぶかと最敬礼した。

首相 「君、カンガルーごときに何やってんの」

俺  「い、いや、体が勝手に……」


全く、習慣とは恐ろしい。

首相はなぜか、カバのオリの前で、土下座していた。



(了)



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