第35話 決断

翌日の午前中に僕と沙奈江さんは沙奈江さんの父親の所に向かった。もちろん、沙奈江さんの答えを聞くために。




「1晩ゆっくり考えた。だから、その結果を言うね?」

沙奈江さんの父親が反省した目をしながら、判決を言い渡される被告人みたいな顔をしている。

「と、その前に一つ質問させて。お父さん、どこまでなら譲歩出来る?」

「は?」

「え?」

二者二様の驚き方をしてしまった。というか、驚かない方がおかしい。

「だから、どこまでなら譲歩出来る?私とこの剣君が付き合うのを許せる?それでお母さんも一緒に暮らせる?」

「「……」」

今回は2人とも黙ってしまったが、沙奈江さんの父親は驚いている。まるで、また3人で暮らせるかもしれないという風に。

逆に僕は呆れている。と言うより本当に家族の事を考えていると思える。だって、こんな方法を取るのって中学生ぐらいまでの子供が取る選択だからだ。だから、余計驚き呆れ、素直に尊敬出来る。

「もし、私が言う条件を全部呑むなら、お母さんも説得するし、また家族で過ごせる。でも、最低さっき言った2つを呑めないなら、仕方ないから、剣君の家に世話になる」

なるほど。つまり、

「最後はお父さんが決めて」

という事か。本当に家族思いの良い人だ。剣君が羨ましい。

「……」

沙奈江さんの父親も慎重に、自分を殺さない様な選択を考えている。

「お父さん、人が人を好きになるのはいつかはあるんだよ?それに我儘ばっかり言ってても何も始まらないし、スタート地点さえ立てない。だから、立とうよ。一緒に立とうよ。家族3人でスタート地点に」

「……」

沙奈江さんの父親の心がとても揺れている。それはいい傾向に見えるが、下手を打つとこれで沙奈江さんの家族が空中分離される事になる。

「沙奈江さん。少し席を外しません?良いですよね?」

「え、えぇ。分かった」

沙奈江さんがこちらの意図を汲んでくれたのは有難かった。

「お父さん、1時間後に帰ってくるから」

そう言って、1時間外で時間を潰していた。




「お父さん、今度はお父さんの番。どうするの?」

「分かったが、一1つ条件を出させてもらう。いくら若いから、法律で出来るからと言って、成人するまでに結婚はしないと約束してくれ。それが条件だ」

「なんだ、そんな事か。大丈夫大丈夫。元々、剣君の家が厳しいから大学卒業してから収入が安定するまでは結婚させてくれないんだって。一昨日の帰りに剣君のお母さんに聞いたけど」

まさか深夜にそんな話をしていたとは。全く気付かなかったし、今言われても剣君には伝わらない。ある意味鬼畜だ。

「そうだったのか。なら、安心だ。沙奈江の我儘を受け入れよう」

「ありがとう、お父さん」

「じゃあ、僕はそろそろ帰りますね。家族団欒を邪魔するのもアレですし」

「あぁ、今回は本当に世話になった。今回だけ感謝させてもらう」

「もぉ、素直じゃないんだから。じゃあね。また今度。アレ《・・》する時は呼んでね?」

「えぇ。必ず」




その後聞いた話によると、沙奈江さんの家族は無事元の姿に戻りつつあるそうだ。本当に良かったと思う。

それより、アレをするって事を奏さんが話していたとは思わなかった。だけど、その分前向きとも捉えられるので良いだろう。




沙奈江さんの家族が元に戻ると、お盆がもう目の前まで来ていた。

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