第30話 救出と失ったもの

「奏さん。今すぐ力を貸してください」

「どういう事かしら?」

「剣君の大切な人が誘拐されました。犯人は僕の実姉の我妻釆香と他数名。速攻での救出は僕だけでは不可能と判断。目的は金だと言っていたので、我妻家再建のためだと思われます。なので、力を貸してください」

「分かったわ。30秒後に玄関集合」

「ありがとうございます」

電話が終わると、僕は奏さんに躊躇なく頼った。

「僕は釆香お姉さんに集中します。奏さんの第一目標は誘拐された神橋沙奈江さんの救出をお願いします」

「場所は?」

「我妻家別荘付近の廃院。大学病院系列だったので、相当広いはずです。犯人は上の方に居る模様」

「了解」

「それと、制約として今回は殺しはなしでお願いします」

「私より貴方の方が殺しそうなんだけど?」

「半殺しまでは行くかもです。最悪の場合、僕も止めてください」

「そこまで余裕があればね」

と、侵入経路や敵の殲滅方法を打ち合わせていると、あっという間に目的地に着いた。

「最後に、今回の目標時間は15分。現在11時。1100作戦開始」

「了解」

奏さんは目標時間がある方が本領を発揮できる。なので、今回は15分という良い時間にしてみた。




「こちら奏。こちらの敵は全て制圧。ターゲットも保護完了」

「こちら聡夫。了解。こちらはまだ誰も見ていない。なので、合流を願いたい」

「了解。3階エントランスにて待つ」

「了解」

場所が意外と近くで助かった。浅い階だったから奏さんの制圧がはやく済んだ。奏さんがいて本当に助かった。

「緊張!!こちら奏。集合地点変更。脱出する!!」

マズイ!!多分釆香お姉さんの最後の罠だ。それが発動したんだ。

「了解。こちらも今すぐ脱出する」

マズイマズイマズイ。奏さんが出られなかったら、沙奈江さんが出れる確率も低くなる。だが、アレを使えばどちらかの記憶は完全に戻らなくなる。マズイマズイマズイ。

「聡夫さんですか?沙奈江です。私をこんなに思ってくださり、ありがとうございます。ですが、もう私は決めました。これ以上迷惑はかけれません。なので、記憶は私が自力で戻します。ありがとうございました」

「何言ってるんですか!?」

「実は少し思い出したんです。時間が戻った現象が起こったって事を剣君から聞いたのを。もしかしたら、貴方も出来るんじゃないですか?なら、それを使ってください。それで充分です」

そこまで思い出していたんですか……

「分かりました。手伝えることは全て手伝います。なので、また言ってくださいね?」

「はい」

そうして、僕は時間を少し戻し、奏さんたちも助け、無事帰れた。だけど、沙奈江さんの記憶を戻す方法についてはもう何も無い。

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