お化け屋敷

 渚と莉奈の二人は休日に遊園地に遊びに来ていた。そこの目玉でもあるジェットコースターに乗ったあと、渚はパンフレットのとあるアトラクションを指差しながら莉奈に話しかけた。

「ねぇ、次はこれ、行ってみない?」

「うん。いいけど、渚ってこういうの好きだった?」

「ん~、好きじゃ、ないけど、その、たまにはいいかな、って」

「そっか、じゃぁ、行こ」

 莉奈は渚の手を取って歩き始めた。渚の頬は少し赤く染まっていた。


「きゃぁ~!」

 突然飛び出してきたお化け(の仮装をした従業員)に驚いて、渚は莉奈に抱きついた。

「そんなに驚く?絶対来るって分かってたじゃん」

「わ、分かんないよ。あ、あんなのが、来るだなんて……。莉奈ちゃんは、その、平気なの?」

「全然平気。と言うより、渚の可愛いところが見れて楽しいよ」

「か、可愛い……?」

「うん」

 莉奈に笑顔を向けられて、渚は思わず視線を反らしてしまう。そして、その先にはあからさまに人形が置いてあり、目があった瞬間に独りでに動き始めた。

「いやぁ~!」

 渚はしがみつくように腕に力を込めた。莉奈はあやすように渚の頭を優しく撫でていた。

「大丈夫だよ。わたしがいるからね。お化けなんて怖くないよ」

「こ、怖いんじゃない……。その、驚いた、だけ……。子供扱い、しないで……?」

「うん、そうだね。驚いちゃうよね」

「そう、それだけ」

 そう言いながらも、渚は腕に込める力を弱めようとはしなかった。それどころか、何らかの動きがある度にしがみついて、それは子供のようだった。


 そうして、終始密着しながらお化け屋敷を二人は出てきた。

「ねぇ、そんなに怖かった?わたしは楽しかったけど」

「……う、うん。やっぱりわたし、こういうの、ダメ。ほら、こんなに心臓、ドキドキしてる……」

 渚は自分の胸に莉奈の手を当てた。自分でも分かるほどその鼓動は速くなっていた。

「本当だ。でも、苦手なら何で入ろう、って言ったの?」

「莉奈ちゃんと、二人なら、その、大丈夫かな、って思って……」

(本当は、ここだったら莉奈ちゃんに自然にくっつけるかな、って思ったんだけど、怖くて、それどころじゃなかったよ……)

 そんな心の内を悟られないように渚は答えた。実際、彼女の思惑は成功してはいたのだが。

「そっか。じゃぁ、次はゆっくりできるのに乗ろうか?」

 莉奈は自然に渚の手を取り、歩き始めた。


 渚は周りの喧騒に紛れさせるように自らの心の内を小さく呟いた。

「莉奈ちゃん、大好き」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る