足元にライト照らして 2

 残留許可を得た当日、俺たちは『帰りの会が終わったらすぐに』と篤志に1年C組に呼び出された。

「なんだ、篤志もノリノリじゃん」

 俺は小突いたが、ハイハイと流された。篤志はやると決めれば徹底的にやりこむのだ。

「どうせ両手に花が気に入らないだけでしょ」

 牧羽さんにもこう言われて「違う」と断言している。

「とりあえず、まず今日何をするかを決めてあるのか?」

 そういえば入学した時にもらった校舎の間取り図しか持ってきていない。時間が限られていることを忘れていた。

「その前に、どうしてここで?」

 澄香が小さく手を挙げる。

「僕たち4人は研究部として七不思議を調べようとして残留許可まで取った。できれば打ち合わせも講義室1で行うのが筋だ。

 でもまず言っておく。この件は冬樹先輩には一切知らせていない」

「何だって!」

 篤志は「休み時間は探したけれど会えなかった」と答えた。実は俺もさっき冬樹先輩のクラスである2年A組に一回覗いてみたが、姿が見えなかった。

「要するに高瀬先輩に見つからないようにここに集めたってわけね」

 牧羽さんが言う。人聞きは悪いが事実ではある。

「ということで隠密に今回の打ち合わせを始める。間取り図はあるよな?」

 俺は校舎の間取り図を広げてみんなに見えるように見せる。

「まず、今いるのは1棟の1年C組、ここだよな?」

 俺は自信なさげに1年C組を指さす。方向音痴だから仕方ない。1棟というのは各クラスの教室と講義室、生徒会室、保健室がある建物である。そして、1階の昇降口、2・3階のフリースペースや各階の通路とつながった2棟には、職員室、校長室、図書室、多目的室、放送室がある。

「放送室が講義室1のすぐ近くにあるのね」と牧羽さんが言う。

「問題の音楽室は3棟の3階だね」

 澄香が音楽室を指さした。3棟はいわゆる特別教室が集まった建物である。1階には西側から順に木工室、金工室、美術室、2階には理科室1・2、パソコン室、3階には被服室、調理室、音楽室がある。

「七不思議って言っても3つしかないが、今日すべてを回るのなら決して十分な時間があるとは言えない。だから、4人である程度分担して調べよう。

――一応聞くが、ほかに七不思議ってないんだよな? 今さらだがなぜ不思議なのに3つしか知らないんだ?」

「多分、1年生が知っているものはこの3つくらい。もっと他にももしかしたらあるのかもしれないけれど、それはその都度調べればいいんじゃないか?

 それに七不思議は7つ知ったら死ぬって言うのが定説だぜ」

「小学生みたいだな」

 篤志はさげすんだ目で俺を見る。いいだろ、この前まで小学生だったんだし!

「なら、まず放送室について。澄香、今日は異常はなかったのよね?」

 牧羽さんが澄香に聞く。澄香は「特になかったよ」と答えた。

「今日の昼の放送で流すために借りたCDと放送室にあるCDの数も揃っていたし。お昼の放送、みんなが聞いていて特に問題なかったよね?」

 澄香が俺たちに聞くと、3人とも頷いた。給食の時間に流れている放送を昼の放送と呼ぶのだが、ほぼ毎日誰かが持ってきたCDを流しているだけだ。今日も有名なアーティストの曲やや人気らしいアニメソングなどが途切れもせず流れていた。

「CDが隠されていそうな隙間とかは?」

「特別ないかな……」

 澄香に確認するが、やはり何もないらしい。

「じゃあ別の七不思議を考えるか。音楽室の女と光が見えた教室。これはどちらも夜にならなければ分からない」

 篤志がこう言うので俺はルーズリーフを取り出した。

「なら手分けして調べよう! あみだくじでいいよな!」

「ちょっと待った」

「あのね」

 篤志と牧羽さんが同時にしゃべる。篤志から話は始まった。

「暗くなるのに女子だけじゃ危険じゃないか? 生徒たちが帰った後なら不審者がいても助けを求めることが難しいし、夜の学校は危険なはずだ」

「暗がりで男女ペアというのもまずくないかしら? お年頃なんだから」

「お年頃?」

 俺は首をかしげた。澄香は1人で赤くなっている。「ダメだこりゃ」と篤志は頭を抱えていた。

「じゃあどうする?」

 俺がこういうと、篤志はため息をついた。

「下校時刻になったらここに戻って合流する。その代わり明るいうちに調べられるところは調べる」

 放送委員である澄香を放送室に向かわせた方が都合がいいので、放送室のある2棟を女子2人に任せ、俺と篤志は3棟の方に向かった。

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