コール・オブ・メモリー!(4/4)
私が物心ついた頃は仲が良い夫婦だった記憶がある。
互いを愛しあっていたのが幼い私からでも分かったぐらい仲が良かったんだ。
だが、父は不倫していた。
最初の発端は、父の勤めていた仕事先の人と、その場の雰囲気に飲まれ肉体関係を結んだことらしい。
それを切っ掛けに、父の倫理観がおかしくなったみたいなんだ。
人生は一度しかない。だったら我慢することは損であると思ったみたいなんだ。
元々性欲の強かった父は、その性欲に身を任せ、私と母親に隠しながら多くの人達と行為に及んでいたらしい。
しかし、母親は気づき父親を咎めた。
そこからは、毎日喧嘩の日々だった。
口論なら良い方で、取っ組み合いや物を使って傷つけあうようにもなっていた。
最終的に離婚した。
私は母親側の家に引き取られることとなったんだ。
これで、一つの家族は崩壊した。それでも、また新しい生活が始まるはずだった……
……離婚後の母は、変わってしまったんだ。私に敵意を向けるようになった。
父親に似ている。父親の血を受け継いだ子供。女を不幸にした男の子供。
今となっては、ただの八つ当たりみたいなものだが、幼い頃の私はその悪意を真に受けてしまっていたんだ。
自分は人を不幸におとしいれる存在で、性欲にかられて女性を傷つけるかもしれない、女性を好きになることもおこがましい汚い男……
その考えで、あの頃は頭を満たされてしまっていたんだ。
勿論、祖父や祖母は私を庇ってくれたが、それでも母は私への悪意を曲げなかったんだ。
「すまないキャサリン君……君にこんなことを話す必要なんて全然なかったのにな……」
キャサリン氏は何も言わず、ジッと山田ヒロハル青少年を見つめる。
少しの間、お互い硬直しあった所で、キャサリン氏が話し出す。
「それから、山田君のお母さんは
「いや、死んだよ……自殺したんだ」
山田ヒロハル青少年は軽く溜め息を吐く。
「前からお医者様の話は聞いていたんだけど、やっぱり鬱の症状だったらしくてね。父の件で相当精神的に参ってたらしくて……最後は自分の寝室で、首を釣って死んでたんだ」
ここまで話して、山田ヒロハル青少年は頭の中がスッキリし、話が脱線したことを思い出す。
「そ、そうだった! キャサリン君、とにかく私は今までずっと、自分が女性と付き合うことなんて出来ないとコンプレックスを持っていた訳だ。だから今回、松本先輩に告白するのは人類を救う為にという大義名分に掲げ、自身のコンプレックスを克服し、勢いで風俗に行って私の貞操概念を塗り替えつつ、いつの間にか人類を救っていたということにしたい訳さ! これも人類を救う為! 今後の私の人生も変える為なのだよ! はっはっは! だからキャサリン君!君は心配する必要なんてない!私は寧ろ、この逆境を利用してより高みをめざしているのさ! はっはっはっは!」
ほぼ空元気の所はあるが、今の山田ヒロハル青少年の精神状態は、今までよりか安定していると思われる。
彼の決意は固まったようだ。
「か、空元気ではないぞ! 今まで考えなかったことを考え、自分を見直すことが出来たのは確かだ! もう、私は逃げたりしない!」
「
そうキャサリン氏が言うと、席を立ち上がる。
「そろそろ準備
確かに、そろそろ来てもおかしくない頃合いだ。
準備と言っても、特にやるべきことはないが、心の準備ぐらいはしておいて損はないであろう。
「キャサリン君、ちょっと待ってくれ」
突然、立ち上がったキャサリン氏を制止する山田ヒロハル青少年。
「今度はキャサリン君のことを聞きたいんだ」
山田ヒロハル青少年は脊髄反射的に、珍しく嘘以外で思いついたことを素直に言葉に出した。
「私のことを
「いいや、前々から奇行を行う君のことはどんな人物なのか気になってはいたんだ……」
早速ながら、山田ヒロハル青少年は失礼なことを言い始める。
「いや待て待て! 失礼ではない! ちゃんとこの言葉には続きがあるんだ! ……取りあえずだ。それは一週間ぐらい前の考えで今は違う。今は、キャサリン君のことを勝手ながら友人――いや、それ以上の存在だと思っているんだ」
キャサリン氏はネコミミをピンと立て、小さく驚く様子が伺えた。
その様子に山田ヒロハル青少年は、嬉しさともう少し驚かせようとする気持ちが働き、席を立ち上がり素直な気持ちを伝えた。
「たぶん、これは友情というべきなのだろう! 男女の壁を越えた友情を作りたいと私は思ったんだ。私は自分の思考を読まれることに抵抗を覚えていたが、今では君の前だけだが本音を言えるようになった。君にはまだ二日という短い付き合いにも関わらず、とても返しきれない程の感謝を抱いているんだ! 私達は親友と言っても過言ではない! なあ! キャサリン君もそう思わないか!」
小さく溜め息を漏らすキャサリン氏に、山田ヒロハル青少年は少し戸惑い、自粛する。改めて席に座り直し、話を続けた。
「だから、もっと君のことを知りたくなったんだ。イギリスでの暮らしはどうだったのかとか、どこで教えてもらったら、そんなりゅちょうに日本語を話せるようになったのかとか、人類を救った後に君はどうするのか……知らないことが沢山あると思う。もっとお互いに理解を深め合って良いのではないだろうか?」
「人類を……救った後……」
キャサリン氏は山田ヒロハル青少年の言葉に何か思うところがあるのか考え込む。
「ど、どうしたんだキャサリン君?」
山田ヒロハル青少年が様子を伺うと、キャサリン氏は彼の様子に気づき、首を横に振った。
「別
「ただ?」
ただ、何なのだ? キャサリン氏。
「大した人生も送っていないから、
やんわりと断られたということだろう。
あまり、詮索をするのは良くなかったな山田ヒロハル青少年よ。
「そうだな……すまないキャサリン君。私は少し調子に乗ってしまったのかもしれない」
山田ヒロハル青少年が反省の色を見せると、キャサリン氏は目を伏せる。
「……そうね。
「え?」
そして、彼女は目を開き、
「私も……山田君のことは嫌いじゃないわ。今まで
教室内に風が吹き抜ける。
日差しがキャサリン氏の揺れる髪をチラチラと白く照らし出す。
色白い肌もより白く、青い瞳もガラス玉のように輝いた。
「もし良かったら……
どことなく、また頬の赤いキャサリン氏。今度は余計な邪念を捨て、山田ヒロハル青少年は青い水晶のような瞳を見つめた。
「もちろんだ! これからもよろしく頼む!キャサリン君!」
「
我が輩も、寂しいから君達の友達にしてもらって良いだろうか?
「え? あ……あ、ああ……」
「構わないわ。
キャサリン氏のネコミミも元気良くピクついている。
その様子を見守っていると、キャサリン氏はネコミミを手で制止さ、話し出す。
「実は、人類を救った後の
キャサリン氏のイメージとしては意外だった返答に、山田ヒロハル青少年は驚いてしまう
「そ、そうだったのか?」
「ええ……だから、人類を救って、
山田ヒロハル青少年は、勿論その頼みを受け入れない訳はない。
「ああ! 喜んで!」
こうして、男と女とネコの友情がここに芽生えたのだ。
心を通わせた我々は、いざ、恋の最終決戦の場へと向かうのである。
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