エイリアン・アブダクション!(2/4)

「山田君しっかり!」


「起きて山田君!」


「しっかりして‼ 死なないで‼」起きろ言うとるやろうクソボケ! しばき倒すぞゴラァ!



「ん……」

 ……松本氏の声が聞こえ、山田ヒロハル青少年がゆっくりと目を開く。

「大丈夫、山田君? 痛いところは?」世話掛けさせやがってボケが! 頭もう一度かち割ったろうか!

 松本氏が彼の身体を揺すっていることは理解出来た。場所も、さっきまで居た階段が手前にある廊下である。

 辺りには資料紙が散乱している。

「……え」

 山田ヒロハル青少年は額を押さえて身体を起き上がらせる。

「動いちゃダメよ! 頭を打ったんだから安静にしておかなおい自分、資料散らかしやがって覚悟出来とるんか? ああ?いと危ないわ!」

「……?」

 起き上がると、そこには慌てた様子の松本氏とぼんやりと山田ヒロハル青少年を見つめるキャサリン氏……そして、もう一匹……

「あ……ああ、あ……」

 彼は硬直する。

 そこには、憧れの松本氏が居た。

 だが、一つ異様な光景が山田ヒロハル青少年には見えていたのだ。

「と……虎……」

「え? トラ? 虎がどうしたの山何や、ワイが見えるか自分?田君?」

 彼女の頭の上には、テレビでしか見たことのない見た目からして獰猛そうで、下手したら成人の人間よりより大きいのではないかと思われるトラが、松本氏の頭の上に、器用に座っていた。

 松本氏は自分の頭に、身長以上の大きさのトラが乗っていることに全く気付いている素振りがなく、重さも感じていない様子が伺える。

 そして何より、さっきから松本氏の言葉に続いて、大きなトラが日本語を流暢に使いこなしていることに、彼は動揺を隠せない。

「……」

 さっきから無言で座っていたキャサリン氏は、山田ヒロハル青少年のトラ発言を聞き、松本氏を見つめる。

 いや、松本氏の頭の上に乗った虎を見つめているようだった。

「さ、さっきから解説をしているのは誰だ! いったい何なんだこれは!」

 山田ヒロハル青少年は右に左に顔を向けて声の主を確かめるが、声の主を見つけだすことが出来ない。

 少し面白い。

「ば、馬鹿にしているのか! 隠れていないで出て来るんだ!」

「や、山田君……やっぱり、大丈夫?心配だし、一緒に保健室にワイ等の声まで聞こえると……これは興味深いな。ワイもソイツのこと、もっと調べたるわ行きましょ……」


 松本氏が近づくと同時に、頭のトラも山田ヒロハル青少年の頭に鋭利な白く鈍く輝く牙を見せつけ、噛みつこうとする。

「う、うわああああああああ!」

 命の危機を感じた山田ヒロハル青少年は、本能の示すままにその場から鶏のごとくドタバタと離れていった。

「や、山田君! 待って! どこに行あ、待てや眼鏡モヤシ! 逃げんなゴラァ!くの!」


「……もしかして」



 山田ヒロハル青少年は廊下を走り抜け、こうして冒頭へと続くのである。

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