ファンタジー世界のテンプレ化と異世界構築の難しさ

読んでいてなかなか耳が痛く、かつ考えさせられる内容でした。
ファンタジー小説を知らない人に「指輪物語」を勧めると「あれでしょ、勇者や戦士や魔法使いが出てきて竜とか魔王を倒すっていうRPGみたいのでしょ」と決めつけられ読みたくないといわれた悲しい思い出があります。正確にはファンタジーRPGの世界から「指輪物語」が生まれたのとは逆で「指輪物語」からテーブルトークRPGが生まれ、TVゲームのファンタジーものが生まれたわけでして。上橋菜穂子先生の「精霊の守り人」を勧めたらどういう反応になってたか。

まずファンタジー作品とは名前の通り幻想世界を舞台にした物語で、読者に与える幻想感こそ重要です。勇者や魔王の出ないファンタジーなんてファンタジーじゃない、というのはゲームファンタジーに慣れたことの弊害です。
中世ヨーロッパ風の~という漠然とした世界観もまた「そうしたほうがわかりやすいから」という安易な表現です。実際の中世ヨーロッパは戦争と疫病による暗黒時代でした。
ファンタジーのテンプレ化は世界観が把握しやすくすぐに入っていけるという利点がありますがゲームに興味のない人からは「RPGを文章にしただけの退屈なもの」と受け止められてしまう危険性があります。

ファンタジーがわからなければ読まなくていい、と初心者お断りにすると、新規ファン層は減り、ファンタジーファンは減る一方になるでしょう。かつてSF小説が辿った道です。

かといって現実と異なる幻想世界をイチから作るとなると、大陸や島の大きさや形、そこに存在する国家、動物の生態系、各国家の歴史と系譜、文明発展の経緯、各国の文化や習慣、人々が話す言語と、世界観を表現するだけで分厚くなってしまいそれだけで「とある幻想世界についての説明」という一冊の本ができあがってしまう。
その独自の幻想世界で物語を創作するのが本来のファンタジーであれば、現実を舞台にした物語よりもはるかに難易度が高く手間と時間がかかる代物なのです。

故に今のアマチュアファンタジー作家がゲームファンタジーを書くのは効率が良く読者受けもいい作品を生みやすいからです。
それでもファンタジー作家であれば、いつまでもトールキン先生の手のひらで踊るような真似ばかりせず、想像力の限りを尽くして独自世界観を創造し、幻想的で魅力ある物語を想像してほしいものです。

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