ボエマーの適当商売について



 さて、この街日谷って奴はまず煙草が生きるのに必要さ。なんでかっていったらよ。そんな素面で毎日を過ごせる程甘い街じゃないからさ。どこかの呑気な街の連中と同じ目で物事を見ちゃいけねぇ。この街には川べりで遊んだりとか、体を伸ばしてキャッチボールだとか、のんびりピクニックだとか、そんな事とは無縁の街だ。


 ストレス発散と題して、適当に入り組んだ街の上空を屋根伝いに走り回る遊びやスポーツがここでは人気だな。まぁ外の世界じゃ立派な競技らしいけどな。ここじゃスポーツなんざ健康的な物じゃねぇ、もうちょっと過激な、最早格闘技の一種って言っても過言じゃねぇ。

 

 屋根を飛び交い、敵を地面に落として自分の陣地を、縄張りをどこまでも拡大していく遊びなんだ。ゲームが終わるのはプレイヤーが地面に落ちるか、遊ぶのに飽きて自主的にゲームから降りる時だけ。なんとも簡単なルールだ。だから街の荒くれ共が気晴らしに暴れるには丁度いいのさ。しかもこの街ってのは二重顎のカルデラがあるだろ? その輪っかの上全ての領土、ここの街の奴らは《制空権》って呼んでるが、そこを全て完全制覇する事の楽しみ、ゲーム性っていうのは中々中毒的だし、目的もはっきりしてるからな。やりがいってのがあるのよ。


 ってな訳でこの街じゃ、そんなちぃと危なかったしい屋根遊びを楽しむ為の道具がわんさかおいてある。質のいいスパイクだったり、軽量の飛び道具。夜の見張りに耐える為の耐寒防具なんかな。こういうのはよく売れる。


 なんでもって言いながらなんにも置いてないって? ガハハ、確かにそうだがね。本当に適当な物っていうのは店の奥にしまってある。客が俺に要望を出して、出された要望に添える物があれば売る。それがこの店のあり方だ。一見の客にはオモテの商品しか売ってねぇように見えるって事はよ、まぁそれだけ、適当と言いつつもちゃんと裏で考えてる事はあるってことさ。なんせこの街は信用ならざる街。そんな街で商売やるなら、自分でその信用って奴はある程度選ばないとダメって事さ。


 ってな訳でお客さん。あの半能坊主の紹介でやってきたついでになんか今、欲しい物があったら言ってみろよ。大概なもんは用意出来ると思うぜ。ただしボエマーの店には思ってたのよりかは少しランクの下がる物品が眠ってる事が多いけどな! そこが適当さ加減の塩梅を司ってるってことよ!

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