第3話 クエストと初めてのレベルアップ

待ち合わせの噴水広場の噴水の陰になっている場所でフードを被って待つこと30分、息を切らしながらロータスが走ってくる。


「お、おま、ハァハァおまたせ…ハァハァ」


「落ち着けよ」


「いやー、ごめんね結構急いで帰って来たんだけど」


「ていうか仮想の体じゃ息切れないだろ?」


「え?このゲームは疲れるよ?」


「訓練中そんなことなかったけど」


「あぁ、ベル君は吸血鬼だから基礎ステータス高いからじゃない?」


「なるほど」


「それより訓練はどうだった?」


「まぁ多少は慣れたけどまだまだ戦ったりはきついかも、そっちは?」


「クエストで野犬退治してきたよ、犬でも大型のやつが野生化してると結構怖いね」


「で、これからどうする?」


「とりあえずご飯食べないとかな、空腹のペナルティー地味だけど時間経過で結構きつくなるし、吸血鬼もそれは変わらなかったと思うからベル君も1日2食は食べたほうがいいよ」


「そうか、じゃあとりあえずどっかで何か食べるか」


「そうだねー、私がサブ職業料理人ならベル君に手料理を振る舞ってあげるとこなんだけどなぁ木工師だからなぁ、ごめんねぇ」


「いや、木工師でよかったよ」

現実の蓮華の手料理の酷さを思い出して言う。


「それはどういう事かな?」


「別に…」


「まぁいいや、それよりちゃんとしたお店はちょっと高いしその辺の屋台でも探そう」


そうして二人で匂いに誘われるまま夕暮れの街を歩く、機嫌よさそうに前を歩くロータスにふと気になったことを聞く。


「そういえばこのゲームってギルドとかチームってあるのか?」


「あるよ、それぞれどこかの大きな組織の下部組織って扱いになるけど、戦闘系なら正規軍や自警団、生産系や商人なら商会や組合、裏家業なら暗殺者ギルドとか盗賊団がある、個人でも加入できるよ、ちなみにベル君の復讐者で一番所属してるのが多いのは暗殺者ギルド系だろうね同じ職業の知り合いが多少はいたほうが情報交換できて便利だろうし入らなくても覚えておいて損はないと思うよ」


「へー、覚えとくよ」


「それよりベル君アレ、おいしそうじゃない?」

ロータスが指をさした先は他に並ぶ屋台とは少し雰囲気の違ったというか明らかに場違いな雰囲気の屋台、漂ってくるソースの香ばしい香りと遠目から見えるあの丸い生地は紛れもなくお好み焼だ


「こんな所でお好み焼きを見るとは思わなかった…」


「たぶんあの店プレイヤーのだね、サービス初日で屋台開けるってことはベータテストで相当やってたんじゃないかな」


「ふーん、アレにするか?」


「うん!!」


ロータスと屋台の前まで行くと犬の様な耳が頭から生えた店主が声をかけてきた。

「いらっしゃい、お嬢ちゃんたち可愛いからサービスするぜ」

明らかに僕の方を見て言ったその言葉を聞いて爆笑するロータス

「ぷふっベル君可愛いって、よかったねあはははっ」


「いや、僕男ですから」


「あぁ、男の娘?」


「違います!」


「まぁ確かに声は男だしな」


「お兄さんちなみにこの子リアルのスキャンデータそのまんまですよ」

ロータスが笑いながら余計なことを言う

「リアル男の娘キタァ!!」

やっぱりマッチョの渋いおっさんキャラにしとくべきだったかな…。





数分後やっと店主の興奮が納まりお好み焼きを購入する。

「いやぁ、わるかったなちょっと興奮しちまった、おわびに豚肉増量しといたから許してくれ」


「いえいえ」


「俺はウェルター見ての通りワーウルフだ、職業は暗殺者アサシン店を開く金が貯まるまではこの辺で屋台やってるから見かけたら寄ってくれ」


「私はロータス、人間で職業は射手ガンナーサービスしてくれるなら寄るよ!!」


「僕はベルです吸血鬼で職業は復讐者アヴェンジャーです」


「おう、肉の増量くらいならいくらでもしてやるよ」



自己紹介を済ませた後あまり屋台の前に居座るのも悪いので近くのベンチに座って紙の皿にのった出来立てのお好み焼きを頬張る。

味がしない…。


「なぁ…これ味がしないんだけど…」


「え、そんなことないと思うけど…ってそっか吸血鬼だからか、そういえば吸血鬼は普通の食料アイテムじゃ殆ど空腹が回復しないんだっけ、ごめんね忘れてたよ」


「これはちょっと悲しいな…」


「でも血液系の素材アイテムはすっごいおいしく感じるらしいよ」


「じゃあこの後薬屋探して買ってみるかな…これ食べるか?」


「うん、もらうよ」





会話が途切れてやけに静かだなと思ってふと隣を見ると黙々とお好み焼きを食べるロータス、現実とほとんど変わらないその顔を見て喋らなかったら可愛いのにななんて思う。


そんな失礼な思考を頭の隅に追いやってからこれからの予定のことを聞く

「この後はどうするんだ?」


「ん?…(ごくん)…えっと1日に5時間以上寝ないとステータスにペナルティが発生するから宿をとって寝るかな、睡眠のペナルティを消すエナジードリンクってアイテムもあるけど高いし副作用あるし、それに人間の私は夜は視界を確保できないから外に出れないし起きてても意味ないから」


「へー、なんかリアルだな…」


「確かにそうだね、あー、でもベル君は吸血鬼だから寝なくてもペナルティはない筈だよ夜でも明かりがなくても活動できるはずだし、まぁ日中は外じゃまともに活動できないしその辺バランスは取れてるんじゃないかな」


「あぁ、暗い筈なのによく見えるもんだと思ってたらそう言う事なのか」


「ベル君はどうする?私に付き合っても宿代がかかるだけだしクエストにでも行く?」


「クエストつってもナイフもまともに使えないしな…」


「吸血鬼の初期ステータスでも野犬くらいならその辺の石ころ投げるだけで殺せるらしいよ?」


「なんか野犬可哀想だなそれ…」


「まぁ害獣扱いだからいいんじゃない?夜は人もあんまりいないから仕事も選び放題だし、クエスト見るだけ見て決めてもいいと思うけど」


「んじゃあそうするかな、クエストってどこで受けるんだ?」


「軍とか自警団とかそこそこ大きい組織の建物に掲示板があるじゃん?そこに貼ってあるから受けたいやつを受付で言うと受けれるよ」


「あぁ、そういえば自警団の訓練所の前にもそんなのあったな」


「じゃあ僕は宿とって寝るね、入る宿は後でメッセージで場所送るから明日の朝そこで会おうか」


「わかった、じゃあまた明日」


「おやすみー」


二人とも食べ終わって予定も決まった所でその場で別れる。


とりあえず薬屋で調合用の血液を買った後今日行った訓練場の掲示板を見てみるとしよう。



昼間に見かけた薬屋に入って調合用の血液を購入する。

人血が銀貨1枚

獣人の物が銅貨5枚

獣の血が銅貨1枚

基本となる貨幣は金貨、銀貨、銅貨、10枚で上の硬貨と同じ価値で先ほどのお好み焼きが銅貨2枚と言うのを考えると人血は結構高い、ついでに遮光ジェルの値段も見てみたのだが値段は金貨1枚ロータスの言うように始めたばかりであまり手が出せるものではない。

初期の所持金が金貨1枚と言うのは少し少ないのかもしれない…。


とりあえず他に買うものも所持金に余裕もないので一番獣の血を3つ買って店を出る。

自警団の訓練所に向かいながら買ったばかりの獣の血が入ったガラス瓶を一つ手に取って栓を開ける、見た目は完全に何かの血液なのだが漂ってくる匂いは甘く血とは程遠い、獣の血がそういうものなのか吸血鬼の補正が入っているのか…別の血も買って比べるべきだったかも?

瓶の中身を見ないように目を閉じて一口飲む…美味い、なんというか林檎か何かの果汁の様な感じだ。

目を開けると血なんだけど…、まぁ味のおかげで血を飲む事にはそこまで抵抗はなさそうだ。

瓶の中身を一気に飲み下してから空の瓶を腰のアイテムポーチにしまってから完全に日の暮れた街の中を歩く。



訓練所に着いたところで声をかけられる。

「ベル君また訓練に来たの?」


「ソフィアさん、いえ依頼を受けに来たんです」


「こんな時間から?」


「えぇ、僕昼間は外であんまり動けませんから」


「あぁ、なるほどね、夜はアンデットとか結構いるから受けるなら見回りくらいにしておいたほうがいいよ?」


「はい、そうします」


「それじゃあ頑張ってねー」

ソフィアさんは今帰るところだったようでぱたぱたと手を振りながら訓練所を出て行った。


ソフィアさんを見送った後入口のすぐ近くにある掲示板に張り付けてある依頼書を見ていく、

野犬退治、街の見回り、街の外れに出没するグールの討伐、etc…。

一通り見終わってから報酬もそこそこよくて大変そうじゃない依頼書を手に取って受付へ行く、数分で手続きを済ませて訓練所を出る。


受けた依頼は街の近くの洞窟の見回り、最近グールやゾンビがよく目撃されるらしく様子を見てきてほしいとのこと、目的はあくまでも見回りで討伐ではないので洞窟を確認してグールがいた場合もそのまま逃げてくればいい、報酬は銀貨7枚とそこそこ良いし街の外へちょっと出て洞窟を見て回るくらい大したことない。








というわけで街の南側から出て教えられたとおりに洞窟に向かって歩いていたのだが…。

「ワン!!ワン!!」

只今野犬に追いかけまわされてます、っていうかなんだよこいつらめっちゃ怖いんだけど!?

心の中で叫びながら必死に逃げるが、待ち伏せしていた別の犬が木の陰から飛び掛かってくる。

「グルァ!!」


「怖ぇよ!!ざっけんな!!」

噛みつこうとしてくる犬の首を掴んで地面に叩き付ける。

現実の腕力では大型犬を引き剥がすことすらできないだろうがこのゲームの吸血鬼の腕力は少し力を入れただけで拍子抜けするような軽さで犬を引き離すことができた。


そのまま地面を転がるようにして距離を取りながら立ち上がりナイフを抜く、それと同時に犬が飛び掛かってくるがタイミングを合わせて首を狙ってナイフを振り抜くとナイフの刃はあっさりと犬の首を切り裂き、音を立てて犬の頭と体が別々の場所に落ちる。


地面に叩き付けた犬の方を慌ててみるが、地面に叩き付けたときに既に死んでいたようだ。

ナイフをしまうとドロップアイテムのウィンドウが出てきたので確認する。


犬の肉、獣の血、どっちも素材アイテム…1体から1つずつドロップしたようでそれぞれ2つ手に入ったようだ。


顔についた野犬の返り血を手で拭いながら甘い香りがしているのに気が付く、吸血鬼だと血はこういうものに感じるようになっているのか、野犬から取れたものも獣の血なので確証は持てないが、ロータスの話の通りならばきっと獣人の血や人血でも同じように感じるのだろう。



ドロップアイテムの確認ウィンドウを閉じると続けて別のウィンドウが出てきた。


・レベルが上がりました。

習得スキルを選んでください


レベルアップのたびに種族、職業、サブ職業それぞれでスキルを得られるようだ。

習得できるスキルはレベルアップ毎に変わるようでそのとき取らなかったスキルは以降取得できないと言うことらしい。

基本ステータスは自分で上げることはできずレベルアップ毎に初期ステータスを倍率にして上昇するようだ。


種族スキルを一つ選んでください


・牙無し


・吸血


・食人



なんだこの物騒な並び…とりあえず詳細を見行こう。


牙無し:

生物からの吸血はできないが食料アイテムの効果ペナルティがなくなる。

人間系、獣人系の交友ボーナスに補正がかかる。


吸血:

生物への吸血が可能になる。

吸血時に体力、空腹度を回復する。



食人:

生物への吸血が可能になる。

生物を食べることが可能になる。

吸血時に体力、空腹度を回復する。

生物を食べた時に、体力上限と耐久値を一時的に上昇させる。



食人はさすがに物騒すぎるけど、せっかく吸血鬼なのに牙無しを選ぶのも何か悲しいので吸血にしよう。



職業スキルを2つ選んでください


・アクロバット


・リフレクトアタック


・リベンジ


・リベンジスタンス



アクロバット:

複数職共通スキル

身のこなしが軽くなる、所謂軽業


リフレクトアタック:

アクティブスキル

発動してから30秒間に受けた攻撃のダメージを次の攻撃時に1.5倍して加算する。

攻撃を外した場合でも効果は消失する。

※リキャストタイム:60秒


リベンジ:

パッシブスキル

自分をキルしたエネミー又はプレイヤーの所在地をマップ上に表示する。

自分をキルしたエネミー又はプレイヤーとの戦闘でステータスにボーナスが入る。

※自分をキルしたエネミーは同一個体でないと効果がない

※自分をキルしたプレイヤーが自分との戦闘以外で死亡した場合でも効果は消失する。


リベンジスタンス

パッシブスキル

攻撃された際のステータス上昇量を増加させる。



リベンジは使いどころがかなり限定される、リフレクトアタックも使いこなせる自信がない、ということでこの2つはパスで残った2つを選んだ。


サブ職業スキルを2つ選んでください


・罠隠蔽


・罠解除


・罠探知



こっちは詳細を見なくてもなんとなく分かるが一応見ておこう



罠隠蔽:

自分の設置した罠を隠蔽できる。

隠蔽した罠は発見されなくなる、罠探知による発見も確率が低くなる。


罠解除:

発見した罠の解除ができるようになる


罠探知:

罠を探知できるようになる。




罠探知と罠解除をセットでとるとよさそうだな…ということでこの2つを選ぶ。



スキルをすべて選び終わったとこで目的の洞窟の前に到着した。

思ったより大きな入口を見て少し不安を感じつつ何もいないことを願った。

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