ゴースト~ダークハーフエルフの彼女の、幾つかの冒険と恋について~

圭琴子

プロローグ

プロローグ

 エピテの村が暗黒妖精ダークエルフたちに襲われたのは、ちょうど十ヶ月前の事だった。

 村は質素な暮らしだがまれに鉱山で採れるミスリル銀を、錬金の匠の小妖精ドワーフたちに高く売って、村人が不自由なく暮していくだけの幾ばくかの蓄えがあったからだ。

 村を高く囲む深い森に住む森の妖精エルフたちは、みな一様にとても美しく長命な一族で、ミスリル銀の武器防具を必要としていたが、ずんぐりむっくりで頑固な所のあるドワーフを嫌っており、ドワーフの作った見事なミスリル銀製品を村を介して売る事により、手数料も得ていた。

 エルフとダークエルフは、美しい所は揃いだったが肌の色と生き方が違っていた。真偽のほどは定かではなかったが、遥かなる昔に邪神に魂を売り渡した一部のエルフの肌が、その印に琥珀色に染まったという。それ以来同じ種族でありながら、エルフとダークエルフは相容れぬ存在になった。

 ダークエルフは小鬼オーク巨人鬼トロールなどの亜人種を兵として略奪を繰り返し、人間にとっても脅威の存在になっていた。

 ミスリル銀はダークエルフにとっても垂涎ものの武器防具で、エピテの村はたびたび襲撃を受けていたが、森に住むエルフたちが、今まで一度も敗北せずに村を守ってくれたのだった。

 しかし。その日はここら一体の森のエルフたちが一同に会し、族長を決める儀式を行っていた。どこからその情報が漏れたものか、あるいは偶然か、そこへダークエルフたちが襲ってきたのだ。略奪、焼き打ち、陵辱がそこここで行われ、彼らが去った後の村には、何も残らなかった。


 それから十ヶ月。それでもエピテの村は、復興をとげていた。焼かれた家を建て直し、殺された家畜を生み増やし、男たちは剣の腕を磨いていた。

 そんな中、彼女は生まれた。まだ幼いと言えるほど若い母親は、難産でその命の花弁かべんを真っ赤に散らした。赤ん坊は、生まれたばかりにも関わらず美しい事が見て取れたが、その肌は琥珀に染まり、耳は僅かに尖っていた。

「長老、母親が亡くなりました」

「そうか……。この子は、生きていても良い事があるまい。いっそ……」

「いいえ。この子は俺たちが育てます。一人娘の生んだ子です!」

「私たちが……立派に……」

 まだ年若い夫婦が、言葉とは裏腹に泣き崩れながら決意を語った。

 赤ん坊は、女の子だった。光の道を歩いて行けるよう、『シャイン』と名付けられた。けれどその名が呼ばれたのは、育ての親が生きている間だけだったという。

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