【R15】ここは安全地帯

なずみ智子

時間を節約したい方へ

「ここは安全地帯」短縮版

クリックいただきまして、ありがとうございます。


以下は、「ここは安全地帯」短縮版となります。

本作のあらすじ、そしてネタバレを凝縮いたしました。

※【 】内の数字は、内容に該当する話数ではなく、あらすじを説明するためにつけた番号です。



「ここは安全地帯」 作:なずみ智子


【1】

 主人公・我妻佐保(わがつま・さほ)は、そこそこの進学校に通う、結構可愛い高校3年生。

 彼女は自分が私生児であるということを気にしながらも、母親(まだ30代前半で外見は抜群に可愛いが頭はそんなに良くない)と厳格な感じの祖父母の4人で暮らしている。


 5月に入ったばかりのある日、佐保のクラスに一人の男子生徒が転入してくる。

 男子生徒の名は、矢追貴俊(やおい・たかとし)。

 周りの女子生徒は、まるで後光がさしているような彼の超絶美形ぶりに色めき立つが、もともと大人しく奥手な佐保は彼の外見的魅力は認めるものの、それほどの興味は抱かなかった。

 けれども、美形なうえに何事もそつなくこなせる貴俊が、異常なまでに女の子を避けていることは少し気にはかかっていた。


 貴俊の転入とほぼ同時期に、佐保の隣家に都会的な雰囲気と柔らかな物腰の作家・宵川斗紀夫(よいかわ・ときお)が引っ越してくる。



【2】

 7月7日。佐保の18才の誕生日。

 下校途中の佐保は、3人の不良少年たちに突如拉致され、廃工場(通称:沼工場)へと監禁される。

 不良少年たちは「ある依頼者」に頼まれて、佐保を拉致したと言うが、佐保はそんな「依頼者」に心当たりなどはあるはずがない。

 そして、不良少年たちと「依頼者」の約束の時間が来ても、一向に「依頼者」は現れない。


 痺れをきらした不良少年のうちの2人が佐保を輪姦しようとする。

 唯一、輪姦を止めようとした不良少年のうちの1人・櫓木正巳に、佐保は必死で助けを懇願する。

 だが結局、正巳は佐保に背を向けて逃げ出し、佐保は残る2人の不良少年に輪姦されてしまった。


 輪姦を終えた不良少年たちは、さらに仲間の不良少年たちまでも呼ぼうとしていた。

 戻ってきた正巳は「このままでは、もっとまずいことになる」と思い、隙を見て佐保を逃がした。



【3】

 沼工場における事件の翌日より、佐保は学校を休み、警察に行かず、部屋に閉じこもり布団に包まったまま泣き続けていた。


※一度だけ、頑張って学校に行ったが、耐えきれなくてすぐに帰ってしまう。

 実は輪姦された後、必死で逃げていたら、あろうことか、あの転入生・貴俊に道でバッタリ会ってしまい、佐保はその場で気を失っていた。

 隣人であり作家の宵川斗紀夫とその恋人が偶然にも、その場を車で通りかかり、佐保を保護して自宅まで運んだのだ。


 そのうえ、佐保の実名こそ出ていないが、佐保がレイプされたのでは書き込みが、学校の裏サイトにもあがっていた。



【4】

 佐保が苦しみ続けている間、佐保に直接的な危害は加えていないものの、加害者の1人である正巳も、佐保を見捨てて逃げたことに苦しみ、布団に包まって呻いていた。

 それに加えて、彼は自分が裏切り者として仲間の少年たちの制裁を受けるのではという恐怖、その制裁がたった一人の家族である大切な姉にまで向けられるのではという恐怖も、たっぷりと上書きされていた。



【5】

 夏休み。

 作家・宵川斗紀夫の元を貴俊が訪ねる。

※貴俊は、佐保が輪姦されたあの日、斗紀夫たちと同じ車に乗り、輪姦された後の佐保を自宅まで送り届けるのに同行していた。

 斗紀夫が「人が集まって騒ぎになるといけないから」と、貴俊に車に乗るように言ったのだ。

 その後、貴俊も自宅に送り届けた斗紀夫であるが、その際に貴俊が高校生でありながら一人暮らしをしていることを知り、おそらく親切心より「何かあったら連絡して」と自分の名刺を渡してもいた。



【6】

 貴俊は重い口を開く。


 貴俊は、約1年前の4月にX市で起こった「一家殺害事件」の被害者であり、遺族であった。

 超絶美形の貴俊に一方的な恋心を募らせた同級生・A子は、彼の留守を狙って自宅を襲撃し、彼の母親とまだ幼い彼の2人の弟を殺害した。

 ※貴俊とA子が特別な関係にあったことは一度もなく、A子はいわゆる恋愛妄想が激し過ぎる女であった。


 貴俊と彼の父親は、惨殺された直後の家族たちの遺体を発見する。

 そのうえ、まだあたたかい血の滴る包丁を握りしめたA子が家の中に潜んでもいた。


 暴れるA子を押さえつけようとした父親は負傷。

 逃げ出したA子を追い詰めた貴俊であるが、A子は貴俊の目の前で川にその身を投げ、自殺した。


 陰惨な殺人事件の遺族となった貴俊と彼の父親。

 そのうえ、事件に関係ない「安全地帯」にいる者たちからの、様々な憶測や嫌がらせによって、貴俊と彼の父親は住み慣れたX市を離れざるを得なかった。


 粘着質なストーカーのうえ、殺人者であるA子の遺体は、事件の日から1年以上たった今も見つかっていない。


 けれども、貴俊はもうこの世にはいないであろうA子の気配を時々感じる。

「自分がもし女の子に触れてしまうと、女の子の方にA子は危害を加えるのでは」と思った貴俊は、転入先の高校でも徹底して女の子を避け続けていたのだ。

※実際にA子は貴俊の肩を励ますつもりで叩いた女子生徒を殴り、女子生徒の鼻の骨を折っている。



【7】

 8月も半ばを過ぎた。

 家から一歩も出ることができなくなった佐保。

 TVでは、佐保の暮らす街より遠く離れたY市での不気味な連続殺人事件のニュースが流れていた。


※このY市での不気味な連続殺人事件の真相は、本作の続編「続・ここは安全地帯」で明らかとなる。


 1人の派手めな若い女性が、佐保の家のチャイムを鳴らした。

 女性は櫓木正巳の姉と名乗る。


 女性は「弟の正巳が8月8日に沼工場で大怪我をし、意識不明のまま、今も入院していること」を佐保に告げた。

 弟が不審な状況で大怪我をすることとなった原因を突き止めたいと、女性は佐保の腕を掴み、佐保を問い詰める。


 佐保は涙に濡れながら、あの7月7日の誕生日に自分を襲った悪夢を女性に話す。


 佐保から全てを聞いた女性は泣きながら土下座し、佐保に謝罪する。

 その後、女性の話より、佐保は自分を実際に輪姦した不良少年の2人ともが不審な状況で死を遂げ、もうすでにこの世にいないことを知る。

※主犯格の不良少年は、車に連続ではねられ死亡。もう1人の不良少年は自宅の3階から転落死していた。



【8】

 二学期から、何とか学校に復帰することができた佐保。

 けれども、彼女の心の傷は深く、どうしても周りの男子生徒すら怖くて、避けてしまう日々が続く。

 もちろん、貴俊のことも避けてしまうが、もともと彼女たちは仲が良かったわけではないので、まあ今まで通りと言えば今まで通り。


 そんなある日、学校の廊下である諍いが起きる。

 佐保も、貴俊も、その諍いには直接の関係はない。

 けれども、貴俊がその諍いを止めに入ろうとした。

 諍いの火種をまいたジャイアン風情の男子生徒が、貴俊が1年前の一家殺害事件の被害者であると大勢の生徒の前でばらしてしまう。


 実は貴俊の転入時より、学校の裏サイトにて、「貴俊がX市で起こった一家殺害事件の遺族」ではないかと推測している書き込みまであった。

 貴俊はジャイアンを殴りそうになるが、周りの者に止められ、なんとか堪えた。


 その他にも、裏サイトにいろんなこと(佐保の性被害や、他の生徒の容姿や振る舞いに対しての悪口)が書き込まれており、学校側の素早い対応によって「安全地帯」で好き勝手なことが書き込まれている裏サイトは閉鎖された。



【9】

 10月。

 自分の誘拐を依頼した「依頼者」に全く心当たりがないまま、心と体に深い傷を刻まれた佐保の時間は夏から秋へと流れていた。


 担任の女教師・谷辺(たにべ)が、佐保の成績が急にガクンと下がったため、自宅を訪問。

 佐保が母親とともに谷辺を見送った直後、不審な車から怪しい液体をかけられそうになり、佐保をかばおうとした母親が怪我をする。


 母親の怪我自体は大したことなく、そのうえ、不審な液体は単なる洗濯のりであった。

 けれども、ちょうどその襲撃場面を目撃していた隣人の斗紀夫は、夏に別れ話をした自分の元恋人・千郷の仕業でないかと考える。



【10】

 佐保の高校で、作家・宵川斗紀夫の講演会が開かれる日。


 当日、佐保は斗紀夫の講演会には、参加せずに早退することにした。

 母親の怪我も心配であるし、大切な母親にまで怪我をさせた「依頼者」を許せないと――

 あの7月7日に自分の身に起こったことも全て話すつもりで、佐保は帰宅後、警察に行く決意をしていた。


 だが……

 佐保は外部の者(不審者)がそうおいそれと入れることができない「安全地帯」であるはずの校内で、何者かに薬品で気を失わされ、車のトランクに拉致されてしまう。



【11】

 意識を取り戻した佐保は、自分が地獄と同じ意味を持つ場所である沼工場にいることに気づく。

 両手は縛られているものの、両脚は縛られてはいない佐保は、必死にここから逃げようと駆け出した。


 その時、工場の入り口――佐保にとっては出口に、ある人物が姿を現した。

 自分に危害を加えるなんて到底思えないその人物が姿を現したことに、佐保は不思議に思いながらも少しホッともした。

 けれども、その人物は佐保に出刃包丁を突き付け、静かにしろと脅したのだ。



【12】

 ”今回の”佐保の拉致は、佐保の担任である女教師・谷辺と、その妹であり宵川斗紀夫の元恋人でもある千郷(ちさと)の仕業であった。


 佐保は彼女たちが姉妹とは、知らなかった。

 佐保の拉致事件を企て、実行に移した谷辺と千郷であるが、彼女たちの犯行動機は異なっていた。


 姉・谷辺は、多額の借金持ちであり、裕福な佐保の家からぶんどった身代金で自分の借金を清算したかった。

 妹・千郷は、元恋人の斗紀夫(いや、千郷自身は斗紀夫と絶対に別れるつもりはなかった)の心が、高校生である佐保に取られたと思い込み、恋敵をこの世から消したかった。


 だが、この沼工場にになんたる偶然か、貴俊と斗紀夫まで現れてしまう……

※斗紀夫が帰宅途中の貴俊を自宅まで送ることにしたのだが、一度、佐保の悪夢の舞台となった沼工場を調べたいと、貴俊とともにやってきたのだ。


 佐保、貴俊、斗紀夫は、谷辺と千郷に揃って出刃包丁で脅され、ガムテープで拘束されたうえ、床に座らされた。



【13】

 谷辺と千郷は、佐保たち3人の殺害を試みようとする。

 だが、彼女たちは、様々な見解の違いからなのか、この場でビンタ付きのヒステリックな姉妹喧嘩を始め出す。

 そのうえ、何かを勘違いしている千郷が、斗紀夫を妬かせるためなのか分からないが、貴俊の唇を奪ってしまった。


 その時――


 沼工場の中に溜まってた汚水より、あの最凶最悪の貴俊のストーカーA子が現れた。

 A子は、汚れきったボロボロのセーラー服を身にまとい、パンパンに膨張した水死体のような、まるで悪夢から生まれた産物のような、その姿で佐保たちの前に姿を現した。


 現実のこととは思えない、その光景に佐保は絶叫する。


 貴俊の唇を奪った千郷は、怒り狂ったA子によって汚水の中に引きずり込まれ、溺死。貴俊に触れたがために、千郷はA子の罰を受けたのだ。


 目の前で妹を恐ろしい水死体の女に殺された谷辺は、半ば放心状態ともなる。


 この隙に、沼工場から逃げようとする佐保たち。

 けれども、佐保も……ついうっかり貴俊の手に触れてしまった。



【14】

 A子の次なる狙いは、佐保へと変わった。

 佐保は、沼工場内の汚水にではなく、沼工場の裏を流れる川へとA子に引きずり込まれた。


 身勝手すぎる恋(いや、執着)に狂い、自分を殺そうとするA子から佐保は必死で逃げようとするが……


 佐保が死を覚悟した時、A子の手が緩んだ。


 佐保を助けようと自らも川へと飛び込んだ貴俊が、A子の手を振りほどき、佐保を抱きかかえ、川岸まで引き上げた。



【15】

 貴俊によって、死の一歩手前より助けられた佐保。

 だが、これで終わりでない。


 川岸でびしょ濡れのまま、ゼイゼイと息を吐き続ける佐保と貴俊の前に――

 A子が水面からヌウッとその気味の悪い顔面を見せた。


 水面に浮かび上がったA子は貴俊に手を伸ばした。

 そのA子の姿に、観念したかのような貴俊は「自分もA子と一緒に逝く」と……


 A子は貴俊にかけられた言葉により、彼の心が自分の思い通りになった喜びを感じたが、それは貴俊のトラップであった。


 貴俊は、背中に隠し持っていたナイフ(谷辺と千郷の姉妹が工場で落としたもののうちの1本)でA子を刺した。

 腐った肉を裂く音。ナイフをA子より引き抜いた貴俊であったが、彼はなおもA子に向かって、ナイフを持つその手を振り下ろし続け……


 何の罪もない母親と弟たちを無惨に殺された貴俊の声なき慟哭は、月輝く夜空の下に響き渡った。


 刺されまくったA子は、貴俊へと手を伸ばすような動きをわずかに見せたが、仰向けに倒れ、川の流れの中へと吸い込まれていった。


 人(A子は完全な水死体であったが)を殺してしまった貴俊は、自分ももう生きていくことはできないと、喉をナイフで刺して、自殺しようとする。

 だが、佐保は「(貴俊の)お父さんのことを思い出して!」と彼の自殺を止めた。



【16】

 沼工場に取り残された、斗紀夫と谷辺。

 斗紀夫は谷辺に自首をすすめるが、谷辺は意味深な言葉を斗紀夫に吐きつけたうえ、斗紀夫の太腿を出刃包丁で刺した。

 そして、自らの喉元をも出刃包丁で突き、自殺。



【17】

 自死を選んだ谷辺の直前の攻撃により、斗紀夫は右脚に一生残る後遺症を負った。

 彼は、これからの先の人生において、ずっと足を引きずって生きることとなってしまったのだ。


 谷辺と千郷の姉妹を呪いながら、病院の廊下を歩く斗紀夫はある病室の名札に目を止めた。


 「櫓木正巳」とそこには書かれていた。

 斗紀夫は「自分をこんな目にあわせた張本人がドアのすぐ外にいることも知らずに、”あの少年”は、現在も生と死の間を漂っているのか」と……



【18】

 3人の不良少年たちに、佐保の拉致を依頼したのは斗紀夫であった。


「依頼者」である宵川斗紀夫。

 彼は、何らかの事件で被害者になった女に一番欲情するという異常な性癖も持っていた。

 自分好みの女(色白でおとなしめの清純系、経産婦不可)を主人公――つまりは被害者となる事件を作りあげ、彼女が苦しむ姿を「安全地帯」でを見ていたいと佐保を不良少年たちに拉致させたのだ。


 佐保を拉致した思春期の不良少年たちが、佐保をレイプすることまでも彼の想定内であり、あの沼工場にビデオカメラまで仕組んでいた変態でもある。



【19】

 周りにその異常な性癖を悟られることのないよう、用心深く暮らしていた一見好青年の斗紀夫。

 

 だが、彼は佐保に会う数か月前、不気味な夢のなかで何かを受け取り、そして彼と同じく「夢で受け取った者」であるX市の女子高生・A子や、今年の夏にY市の連続殺人を犯した「殺戮者」の存在を知り、彼の狂気は暴走することとなった。

 彼は、色白で可憐な佐保にその悪魔の触手を伸ばしたのだ。


※この不気味な夢の中の者、そして”彼ら”が何を受け取ったかは、続編でも明かされることはない。



【20】

 斗紀夫は、佐保の家族たちが警察に通報しようとしていたことも知り、自分の「同士」であるA子を使って、佐保を輪姦した2人の不良少年に制裁を加え、そして永遠の口封じをもしようとした。


 当初、正巳は斗紀夫の制裁リストからは外れてはいた(実際に佐保を輪姦していないため、見逃されていた)が、8月8日に斗紀夫が主犯格の少年を呼び出した時に正巳も一緒に来てしまったがために、ついでに口封じをされることになった。


 A子によって、主犯格の少年は交通事故にも見える状況で死に、気味の悪いA子に追いかけられ、梯に追い詰められて転落した正巳は意識不明の重体となった。

 あと残る不良少年の1人は、自宅にA子が現れ、驚いて自宅3階から落ち、転落死。



【21】

 3月。

 佐保は正巳の姉からの手紙で、正巳が死亡したことを知る。

 すでに彼の49日は過ぎていた。佐保の拉致に関わった3人の不良少年は、全員死亡した。

 

 佐保を襲った不良少年のなかで唯一、輪姦に加わず、最期の最期まで佐保に対しての悔恨と謝罪の念を持ち続けていた正巳が一番長期間にわたって苦しみ、死んだ。


 佐保は、彼の墓へと足を運び、墓前に花を供える。

 そして、佐保はある公園へと向かう。


 公園で待つ佐保のところに、貴俊がやってきた。



【22】

 佐保と貴俊は、互いに話をするのは今日で最後だと感じていた。

 自分たちがまきこまれた一連の事件は、”表向きは”解決しているもまだ謎が多く、何かひっかかっている。


 A子の死体は、彼女が身を投げたX市の川より、1年以上たって発見されている。

 そして、車から佐保に向かって”洗濯のりをかけようとした”のは、やはり千郷であった。


 斗紀夫は、千郷が佐保の拉致を企てた「依頼者」かもしれないと佐保の母親に話していたらしいが、佐保も貴俊も真犯人は他にいるような気がすると……

 

 事件の裏でつながっている1本の糸があって、それが複雑に絡み合っていて”本当の「依頼者」”はその糸を手にとったまま、安全な場所で今もうれしそうに笑っているのではないかと……


 佐保の奪われた純潔も返ってこないし、誰の命ももう戻ってはこない。

 佐保や貴俊に刻まれた傷だけでなく、彼女たちの周りにいた者にも刻み込まれた傷は、一生呻き声をあげ続けてもいくのだ。


 佐保も貴俊もなんとか高校の卒業式を迎えることができた。

 だが、幾度も事件に巻き込まれた彼女たちが勉強に集中できるはずなどもなく、卒業後の彼女たちの進路は決まっていない。


 もう二度と会うことはないだろう。

 でも、生きている限り、佐保も貴俊も互いのことを忘れることはない。

 どこかで、穏やかに幸せに暮らしてほしいと、それだけを彼女たちは互いの姿を見ながら、願い、別れを告げた。



【23】

 最後まで貴俊の家族を殺したA子の実名は作中に登場しない。

 そのうえ、彼女は法の裁きは受けずに地獄へと直行した。


 佐保も貴俊も、担任教師・谷辺の裏の顔を知ってしまった。

 だが、身近にいたもう一人の大人(宵川斗紀夫)の裏の顔――自分たちが信じている大人の裏の顔を知らないままである。

 それどころか、むしろ佐保も貴俊も、斗紀夫を信頼し彼に助けられたとも思っている。


 斗紀夫は佐保がいる町を去り、Y市へと引っ越す。

 夏にY市で起こったの不気味な連続殺人事件の生き残りである八窪由真(やくぼ・ゆま)を「安全地帯」で眺めるために。

 Y市での殺人事件の犯人――「殺戮者」も、斗紀夫の「同士」の仕業であった。

 そのうえ、八窪由真が目の前で最愛の姉を惨たらしく殺されたということも、斗紀夫はそそったらしい。


 我妻佐保を主人公とした舞台は一応のところ幕を下ろしたが、斗紀夫が「安全地帯」で眺める次なる舞台――八窪由真を主人公とした舞台は、これから始まるのだ……


to be continued……

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