第6話 消えた愛読書

 小説の投稿サイトであるというのに、思いつくままに第3話から第5話まで漫画やアニメのサイン色紙の話をしてしまい若干構成を誤った感があるが、火事からしばらく時間が経過し、冷静さを取り戻してきたので今後は少しずつ小説などの方も言及していきたい。言うまでもなく燃えた物の中には小説を中心とした活字の本も多かった。

 

 思い出深いもの――、というか私の読書体験の中で最も鮮烈な二作品も、当然だが火災被害を免れなかった。私の部屋だった場所に堆積した焦げた残骸の中には、あれほど読み込んだ『ゲド戦記』も『指輪物語』の痕跡も見つからなかった。

 

 『ゲド戦記』は小学校の司書の先生に薦められ読み始めて見事その虜になったが、外伝の『アースシーの風』以外をソフトカバー版で購入して手元に置いたのは大学生になってからのことであった。また、『指輪物語』は中学生の時、父に誕生日プレゼントとして買ってもらいその後も定期的に読み返していた。

 どちらも大学時代までは某アニメ監督の如くいつでも読める距離においておいたものだが、就職を契機に実家へと送ってしまっていた。必要最低限のものは持ち歩かない方が良いという母の言葉に賛同した結果であるが、この場合、隣人の性質を知りながらもそんな無警戒な事をしてしまった我が身の迂闊さに最大の問題があるだろう。


 どちらの本もまず自治体の図書館に置いてあるものだし、購入するのも容易だが、今でもその出会いを明確に思い出せる名著が焼けてしまったというのは単に悲しい。

そしてこの二つのシリーズから収集が始まった作家の作品群が揃って燃えてしまったというのも痛い話である。ル=グウィンの『ふたり物語』のように古書として高価なものはなかったが、新しい訳で近年発刊された『どこからも彼方にある国』は持っていた(というか定価で買えるものは買っていた)。

 『ゲド』や『指輪物語』ならともかく『どこからも彼方にある国』や『仔犬のローヴァーの冒険』が揃っている自治体の図書館は中々見かけたことがない。

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