第48話

 表に出ると、眩しい光と、行き交う人や車の足音と、そして、この街特有の香ばしい匂いが一度に押し寄せる。


 吸い込む空気は相変わらず埃(ほこり)っぽくて少し噎(む)せそうになるが、頬を微かに撫でる風は梅雨の湿り気を含んでいる。


 ――雨が降りだす前に食べ終えて戻らなきゃ。


 莎莎の薄青い旗袍と薇薇の石榴色の旗袍の背中を追いつつ、私は案じた。


 日に当てられて余計に暑くなったせいか、薇薇の背中はさっきより丸く濡れた分が大きくなったようだ。


 これからますます暑くなるから、この子は衣装の洗濯が大変になるに違いない。

 旗袍を何枚持っているのか知らないけれど、こんなに汗っかきだと、多分、毎日とっかえひっかえ着ては洗って干さなきゃいけないんだろう。


 私はと言えば、この一張羅(いっちょうら)をどうやって長持ちさせるかが問題だ。

 何しろこれは絹だし、薄い橙(だいだい)色だから、やさしく水洗いして、色が褪(さ)めないように日陰干ししないと……。


 不慣れなハイヒールに痛み出した足は、梅雨の晴れ間に照りつける陽の光を避けるように、知らず知らず舗装された道の端に寄っていった。

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