第4話

「だからね、何度も言ってる様に……」


「あたしは今日が服の受け取り日だって聞いてるの! ここの主人がしょっぴかれようが知ったこっちゃないわ!」


 背の恐ろしく高い、翡翠緑の旗袍(チャイナドレス)を着た、抜ける様に肌の白い女が捲(まく)し立てている。


「あたしはあたしの服が欲しいの!」


「それ以上騒いだらね、小姐(おじょうさん)」


 四十路とおぼしき巡卒は、慇懃だがひやりとした響きを含んだ口調で言った。


「あんたにも署までご同行を願うことになるよ」


 言い終えると巡卒の腰の辺りで何かがカチャリと鳴った。


「ねえ、お巡りさん」


 翡翠緑の旗袍は打って変わって、餌をねだる猫じみた声になった。


「中に入って服を取るくらい、いいでしょ?」


 女が白玉じみた歯並びを見せ、流し目を送ると、耳飾りの真珠もちらりと揺れる。


「あんたの欲しがる様な物は端(はな)から無いさ」


 巡卒は蚊でも追い払う風に手を振った。


「ここは仕立屋じゃなくて、下手人の隠れ家だったんだから」

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