VIDEO GAME PIECES

つくま

はじめに



   WELCOME TO THE FANTASY ZONE.

   GET READY!



 そんな、電子音声による歓迎の言葉から始まった、ぼくのゲームセンター通いの日々。

 世間一般では不良の溜まり場と目されているゲームセンターは、それまでのぼくには想像もできなかった、刺激的な面白さに満ちあふれていた。


【マーブルマッドネス】、【戦場の狼】、【フェアリーランドストーリー】、【ツインビー】。

 そして……【スペースハリアー】。


 数え上げれば切りがない。

 次々と生み出される、画像も、ルールも、音楽も、筐体のデザインまで斬新な幾多のビデオゲームに、ぼくは――ぼくたちは、目まぐるしく魅了され続けた。



 一応、自己紹介をしておいた方が良いだろうか。



 ぼくは、<HAL>。

 駅の近くにある小さなゲームセンター「ゲーム・パラダイス」で、ぼくはアルファベット三文字の、このハイスコアネームを使っていた。

 当時、高校一年生。

 県下有数の進学校、通称『南』高校に、片道二時間かけてバス通学していた。


 ……うん、歩きも含めて、片道二時間。往復四時間。

 起床時刻は毎朝五時。帰宅は早くて十八時過ぎ。

 この話をすると、ほとんどすべての人が呆れたような顔をする。


 そもそも『南』には、遠距離通学者のための寮がある。

 これだけ家が遠いのに、入寮ではなくバス通学を選択する生徒は、『南』の歴史においても相当なレアケースだったらしい。


 毎日が旅行気分で楽しかったんだけどな、遠距離バス通学。

 朝、目覚ましが鳴った後の数分間は、自分の選択に疑問を抱くこともしばしばあったけど。



 説明しておくべき背景は、これぐらいだろうか。


 つまるところ、これから始めるのは、ゲームマニアでもなんでもない高校生が普通にビデオゲームを楽しんでいたという、ただそれだけの思い出話だ。

 それも、一九八六年の後半のみ。

 ぼくの生活圏内に限られた、ごくごく狭い範囲での話となる。


 一体どれだけの人が、こんな地域も期間も話題も限定された思い出話を聞きたいと思うのか、ぼくにはわからないけれど……。

 かつてビデオゲームが好きだった人、今もビデオゲームが好きだという人に、少しでもこの話を楽しんでもらえれば、うれしい。



   READY?


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