レビューへの返信

レビューへの返信、あるいはハリ・セルダンに捧げるバラッド

 googleで「日本語 フォルマントマップ」で検索すると、愚かしいことにこの記事がトップページの一番下のほうに出てくることが分かった。google――ッ! 馬鹿かお前は。


 俺としてもこういう適当に書き散らかした知識が世界(少なくとも日本)に拡散することは本意では全くない、ので、消してもいいかなと思ったが、まあ、googleの過ちはgoogleに正してもらおう。


 ということで、google scholarからpdf見れて、それなりにきれいな日本語フォルマントマップが載っている論文を探した。


Hirata, Yukari and Kimiko Tsukada. 2004. The Effects of Speaking Rates and Vowel Length on Formant Movements in Japanese. In Proceedings of the 2003 Texas Linguistics Society Conference, ed. Augustine Agwuele et al., 73-85. Somerville, MA: Cascadilla Proceedings Project.


http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.534.2850&rep=rep1&type=pdf

 

 ご参考まで。以下が本文で、フォルマントマップの話は話のマクラというか、別に専門的な解説でもなんでもないのですが、アイザックアシモフの小説に興味があり、お時間がある方がいらっしゃいましたらどうぞお立ち寄りください。


(以下本文)

 唐突にレビューに対して作品内で返信をするというエッセイでなければ不可能な荒行をするが、残月六郎太氏から興味深いレビューを頂きました。


 ただロボット物は未読ということなので、もし俺の文章で勘違いされて、ロボット物を読んで思ったのとちゃうやんけ、金返せと思われたら申し訳なさすぎると思い、ここにちょっと蛇足的に(すべてが蛇足では?)記載しておこうと思う。


 ディープ・ラーニングは機械学習の一種であり、まあ画像認識とかに使うやつですね。スマイルを検出して写真を撮る、というすげえ腹立つ機能がこの世にはあるが(なぜ腹が立つのか、と言われると話が長くなるので、俺が偏屈だから、ということでまとめておきたい)まあそういうヤツ。iPhotoがこいつはこいつですか、って教えてくれるみたいなヤツ。


 もっと言うと、我々の音声認識方法とかは原理的にはディープ・ラーニングに近いやりかたで、だからヒューリスティックな解決策をディープ・ラーニングがもたらしうる、ということはまああり得る。


 ただ、えっと、俺が理解している範囲で書くと(だからこれ自体にも相当な誤りを含むかもしれないけど)、そうですね。

 今は諸君はご在宅であろうか。一人? だったら、次の文章を大きな声で読み上げて欲しい(そうでない場合は訳わかんないヤツ、怖い、と思われるだろうからやめてください)。

「青函トンネルは、青森と函館を繋ぐトンネルである」

 お気づきでありましょうか? 青函「トンネル」の「トンネル」と、繋ぐ「トンネル」の「トンネル」の発音が違うことに。

 (方言によっては同一の場合もあるでしょう。俺も実は同一派です)

 既にトンネルがゲシュタルト崩壊しかけているが、それはさておいて、我々はこのように、同じ文字列であっても自然に発音を変えて読む。逆に言うと、我々が同じ音と見做すなにかの物理的パラメータは実は全く同一ではない。

 

 もっと簡単に言うと、男性の声と女性の声は違うし、大人の声と子供の声は違うし、俺が怒って「ああ?」と言う時と、「嗚呼……」と詠嘆するときの声はまるで違うのである。

 なぜ我々はそれらの音をすべて「同じ音」と見做すことが可能であるのか?


 フォルマント、とかでググってくれれば分かるが、要するに、「大体ここからここまでの音が入ってきたら(「こういう特徴を持った音」が聞こえたら)、この音、ということにしますね」という仕組みが我々の頭の中には出来上がっているのである。大体生まれて6か月くらいで。すげえな人類。

 だから実は新生児は、rとlの区別とかもできる。できるのだが、生後半年くらいの間にそういう区別がない言語(たとえば日本語)を聞きつけると、このあたりは「同じ音ですよね」という学習を成立させ、以て英語が話せない日本人が誕生する。


 ちなみにじゃあ、バイリンガルに育てたいから胎教ないし誕生直後から英語のCD聞かせときましょうか、というのは、必ずしもお勧めではない。話逸れまくって恐縮であるが、これは結構大事なことだと思うので書いておくと、こういう学習が成立するのはその方が言語学習を進める上で効率的であるからで、つまり複数言語の音素対を学習させることは、音声の処理能力という観点からみると非効率的・非経済的でありうるからである。

 宅の息子は超絶天才で処理能力余りまくり確実なのよ、おほほ、ということが確定で分かっているのであればまあ問題ないが、そんなことはありえないし、仮に処理能力不足気味(これは何も、君の遺伝情報に問題があると言いたい訳ではなく、人にはそれぞれ得意不得意があるということだ)の子息が謎の言語対(あまり使わない)に用いるフォルマントマップを形成させてしまうと、日本語の処理で困るということが、全くないとは言えない。

 だからこの辺は、ある程度子息の能力の測定ができるようになってから、まあ好むのであれば聞かせてみよっかな? という方向で検討した方が安全側のデザインなのでは(少なくとも2016年現在においては)、というのが俺の考えである。


 でまあようするに、ディープ・ラーニングというのは、入力された情報群から特徴を抽出する中間層を置いて、それで学習をするというやり方で、人間の学習方法に近く、だから強い学習方法なのであるが、アシモフが描いたロボットたちというのは、そういうレベルを超越した、三原則がある以外はほぼ人間、みたいな思考回路を持つのである。

 で、まあ、そう……こういうロボットが実現する日がもしも来るとすれば、それは最早人間の神経機構がほぼ解明された日、ということになり、10年20年の単位ではたぶん、実現しないだろうなと思う。

 ということで、実は読んでもらうと分かるが、アシモフのロボット物のロボットたちは非常に人間臭いのである。「ほっとした様子を見せた」とか「落ち込んだ様子を見せた」とか普通に描写されている。概念的なロボットというかね。ロボットという設定、で話を考えていますよというかね。ちょっと説明が難しいのであるけれど。

 そういう訳で、もし万が一俺の文章を読んで、ほう、じゃあちょっと人工知能の勉強でアシモフのロボット物でも読みますか、という路線に走った方がいるとすると、いやいやいやいやちょっとそれは、面白いのは保障するけどその線だったらちょっと、ごめん、俺嘘ついているよ、という感じになり、申し訳ないなあという話であった。

 いや単に話のマクラで持ってきたというなら全然いいし、ほんとレビュー自体はありがたいと思ったんですけれども、ちょっと言い訳というかね。買って読むとも書いていないのに焦る辺り、小心ものなのである。責任を取りたくない人間なのである。


 以前近況ノートで、「俺が書いたレビューで誰かが本を読んで、お前のレビュー読んだら面白そうだったのにそうでもないやんけ」と批判が来たら俺の勝ちゲームをいつかやりたいみたいなことを書いたが、実際にやるととにかく怖いなということしか思わないことが分かった。

 (いや、あの、面白い、は面白いですよ。これは自信を持って言える。ただ、人工知能的なことを学ぼうと思うと、それは……となる、という話で、誤解を招いて申し訳ないという陳謝なのである)



 ところでアシモフのミステリ(ミステリ? と思うかもしれないけど、いや、俺が持っている版は創元推理文庫から出てるやつなんで……)「銀河帝国の興亡」シリーズ(これがいわゆる『ファウンデーション』ものである)はお読みになられたということで、これもいいですよね。

 未読の君にお伝えしておくと、めちゃくちゃシリーズあってなっげえと思うかもしれないが、実は1巻とかは連作短編なので、一つ一つのオチまでは短く、あまり体力を要求されないので、結構それも含めてお勧めである。3巻は14歳のおてんばな女の子が主役だぞ! フゥー! かわいい! 

 

 ちなみにファウンデーションの彼方へまで行くと、ロボットも出てきますよね。あとファウンデーションと地球(序曲だったかも)を読むと、……(一瞬、ファウンデーション読んでいる同好の士を発見した喜びのあまり、ファウンデーションシリーズ、あるいは別作品に関する壮絶なネタバレをしてしまったので、読んでしまった君には謝りたい。テンション上がりすぎた)いや、それをここで語るのはあまりにも問題があるので、俺はただハリ・セルダンの為にバラッドを歌うだけにしておこう。


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