( iii-4 )ひとり反省会:∠Cを片想いとする直角三角形におけるθの悲劇
■基本情報
短編以上の長さのある新作小説を書いたのは、十数年ぶりだった。数年前に、過去に出版していた作品を電子書籍として復刻させるために、全面リライト作業をしてはいたのだが、ゼロからの完全新作はほぼ書いてこなかったので。
筆力なまっているだろうなー、と危惧していたのだが、想定していたほどには悪くなかったので胸を撫で下ろしたものだった。リライト作業が良い“筋トレ”になってくれたようである。日々のTwitterだのブログだのが役に立っていたかどうかは知らん。
書くきっかけになった着想は「ザッピング」というアイデアだった。ある場面を、複数の視点から描くことで違う物語を描き出すという映像手法だが、そんな雰囲気の小説を書いてみたかったのだ。
そこで採ったのが、第一の物語で「事件」を描き、同じ時制の第二の(別視点の)物語で、どうしてそんなことになったのかの理由を描くという形式だ。本作では明確に第一章、第二章に当たる。第一章のラストで「えっ」という場面を描き、「何故そうなったか」の理由をその後に書き連ねていく。
着想の時点でミステリ小説だと考えていたため、「事件」という形になった。またミステリという前提を踏まえて、そこを強める構造を意識して全体を組んだ。つまり第一章ラストと第二章の関係は、ミステリにおける「謎と解明」なのである。
ただ、ザッピングという形を生かすためには、漫然とした日常風景の中にただ事件を置いただけでは、単に「前置きの長い退屈なミステリ」になってしまう。そうしないために、また、唐突な「事件」の
第一章だけでも、筋や登場人物が愛されるからこそ、第二章も読んでもらえるし、「どうしてあんなことに?」という疑問が、作品を離れることよりも先を読み進めてもらえる動機付けになるだろう、と考えたのだ。
実際、絵面として見れば第一章のラストで、「誰が」「Who done it」はほぼ明白である。だからその後を読み進める動機としては、本作では「なぜ」「Why done it」にせねばならない。それを強めるためにこそ、第一章は愛される物語を描き出さねばならなかった。愛される話でなければ、あそこで発生する「なぜ」の疑問が力を持たない。力とは、先を読ませる力だ。第一章は、「なぜ」を強め「どうして」への興味を誘うためにこそ、ああいった内容になっているのである。
現在は「イヤミス」という文言をタグに入れ込んでいるが、実のところ徹頭徹尾、本作を「イヤミス」と思ったことはなかった。というか、ミステリって大なり小なり後味の悪さが残るもの(日常系は除く)なので、「イヤな気分」はミステリには付きものだと思っている。
余談だが、2016年時点で登場人物達を十六歳であると考え、ネーミングは2000年における赤ちゃんの名付けランキングを参照し、上位から拝借している。つまり、本作を書いた時点において、登場人物達は同世代における、ごくポピュラーな名前だということだ。その意味では、全国の美月さん咲良さん翔也くんに謝っておかねばならないと思う。ごめんなさい。
■自己反省
ミステリとして書いたわけなので、当然、ミステリジャンルとして投稿したのだが……
「5PVだけ増えて終了」
ということが多かったので、「これはジャンル設定をしくじったか」と考えた。「5PV」は、序章と第一章を読み終えた時点での数字である。
ラブコメとも取れるような、ふんわりした話がそこまでの五話で進められたところ、第一章の幕切れがアレである。そこで「えっ」となってくれることを狙って作ってはいるが、やはりどうしても「は?」となって(あるいはショックを受けて)、あそこで読む手を止めてしまう人が多いのかなぁと分析している。
ミステリとしては、入りが普通のお話だし、第一章のラストシーンにしても、前述のように「誰が」は明白なので、そこにこそ興味を持つようなミステリ好きにはフックが弱かったのかもしれない。
ということでその後、[現代ドラマ]→[恋愛・ラブコメ]と登録ジャンルを変遷し、ぐるりと回って現在は結局ミステリに落ち着いている。ただし当初なかったタグとして「イヤミス」を付加した。ミステリファン向けの、第一章だけで終わりじゃないですよアピールと言えよう。
この辺りの変遷そのものが、ある種の反省点と言えるが、作品のコンセプトというか、こちらが「やりたかったこと」そのものの宿命ではあるので、反省だからもうやめようとかそういうつもりにはならずにいる。
さて、その他の大きな問題点として、第一章の主人公、一人称話者である美月の「巻き添え感」がある。
ネタバレを避けるために詳細に書けないのがもどかしいが、「三角形」というタイトルネーミングに反して彼女に「角」を支えるだけの物語的必然を備えてやれなかったのが心残りなのだ。主体的な恋心の端緒を見せるなど、彼女の意志を示す形で補おうとはしているものの、構成上の弱点であることまでカバーし切れなかった感がある。
後半になって明らかになる、「ミステリとしての本作」を考えると、ストーリー構成上の美月が「人形」でしかなかったことが本作最大の弱点であると言えよう。
もっともミステリの「被害者」という存在は、得てしてそうしたものではあるのだが……
また、もうひとりの主人公、咲良についても、「おまえのひとり芝居でこんなことに」的なツッコミは可能な状態になっているので、そこらを助ける方向でもう一押ししてやれなかったかという感覚はある。
「コイツが悪い」と糾弾すべき、な印象を持たれてしまうと、作品が成立しなくなるので、特に彼女の章での、問題のシーン前は相当に苦心しながら心理の動きを書いているのだが……。もうちょっと。なにかあってもよかった。
ただ、そこまでやるとさらに長くなるんだよなぁ……というところが悩ましい。長編を支えられるようなネタではないので、今くらいがトレードオフの結果としてやむを得ない程度の塩梅ではあると思う。
終章のラスト一行はダブルミーニングを企図していて、わりと鋭い幕切れになったかなと思っている。その鋭さとは、読者の心に“名状しがたいもの”を刻みつける刃物として、なのだが……効果はあったろう、たぶん。
なお、筆者は教養がないため三角関数とかの数学的な知識はなにひとつ記憶に残っていないことをここにお詫び申し上げます<(_ _)> ペコ ←東京の底辺公立高卒
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