第15話 西暦4200年 デブの惑星

人類初の亜光速ロケットN-774号が500年の時を超えて帰還した。

超高速移動が人体に与える影響、即ちウラシマ効果の研究データの収集の為である。

だが二人の宇宙飛行士、N氏とA氏は我が目を疑う光景を目の当たりにすることになる。


「おいN、あれを見ろよ!」

「なあ、A?俺たちは地球に戻ってきたんだよな?いったい何がどうなったらこんなことになるんだ?」


帰還した二人の宇宙飛行士がまず驚いたのは、人々のその体形である。

とても大きいのだ。横に。正確には腹が。すごく出ているのだ。


二人が出発する前にも彼らのような体形の人が身動き一つとれずに、家のドアを破壊して救急車で搬送されるということがたまにニュースになるくらいではあるが、存在した。しかし見る人見る人その全てが肥満体とはどうしたことだろうか。

オブラートに包みつつ尋ねてみるとこんな答えが返ってきた


「今の時代は医療技術の進歩のおかげで『健康』と診断される範囲が広くなっているのです。体内のナノマシンはウイルスを駆除して病気の感染を防ぎ、血栓や結石を取り除いてくれます。自分であくせく動き回らなくても常に運動しているのと同じだけの刺激を筋肉に与えることでかつて極東にいたという伝説の戦士『YOKODUNA』のように不自由なく動けるのですよ」


ホテルの部屋で腰を落ち着けたN氏はA氏にこういった。


「俺は提出する報告書にこの実験の中止を進言しようと思う。時間の流れは残酷だとよく言うが、この常識の乖離はあまりにも許容範囲を逸脱しているからな」

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