第13話 西暦202X年 シュールテロリズム

某動画サイトの投稿より


画面には覆面をし、変声機を使って男だか女だかわからない人物が陽気に捲し立てている。


「よう、これを見ている皆。よく分かるテロ講座へようこそ。最近世間じゃテロが横行してるが、私に言わせればまったくなってない。

話にならないヘタクソばかりだ。ちょっと武器を手に入れただけの素人がロクに訓練もしないでやってるからだ。

今日は私が本当のテロというものを懇切丁寧に一から教えてやる。ありがたく聞くように」


そう言って覆面はホワイトボードを画面外から持ってくる。


「ではまず知っておかなければいけない大前提。

ステップ1。テロリズムとは何か、だ。

最近の連中はアタマ足りない奴ばっかりだからな。目的と手段が入れ替わっちまってやがる。いいか、はっきり言っておくぞ。テロは飽くまでも『手段』だ」


覆面は話ながらホワイトボードに文字を書いていく。


「多数決では決して勝てない少数派の最後の砦、それが実力行使だ。いいかお前ら。テロリズムってのは普通にやってちゃ達成不可能な目的を成就させるために行う手段だ。

他人を巻き込んでダイナミック自殺することではないんだぞ。これがわかったら次のステップだ」


「ステップ2。効果的なテロとは何か?

さっきも言ったようにテロは手段だ。であるからにはやっても意味のない、または効果の薄いテロはヘタクソなテロだ。

自爆テロなんかその最たるものだな。殺してどうするんだ。それじゃ意味がないだろうに。」


またホワイトボードに書き出す。テロで得られるものとは?


「テロにおける最大の成果とは、テロをされたくないから要求を飲む、というものだ。

そこで人が死んでみろ、世論は一気に報復に傾くぞ。その果てにあるのは相手の絶滅を目的にする根絶戦争だ。戦争をやりたい訳じゃないのにこんなオチをつけてどうするんだ?では具体的に何をするのかと言うと…」


覆面はそこで言葉を切ると画面外から一つの缶詰を持ってきた。

そこにはラベルを貼り直したのだろう。禍々しい字体でこう書いてあった。


シュールストレミング、と


「世界で一番臭い缶詰でお馴染み、シュールストレミングだ。もうわかったな?こいつを町中で盛大にぶちまけるのさ」


ホワイトボードにデカデカとシュールテロの文字が踊る。


「臭いだけで人は死なん。そしてこいつの臭いは死んだ方がマシな気分にさせてくれる。おまえら会社にいったら隣の席の奴からシュールの臭いがしたらどうする?私なら仮病で会社を休むね。こいつは地雷と一緒さ。死体なら捨て置けるが怪我人は回収しなきゃならない。

テロで同僚が死んだ、テロでお隣さんが死んだ。テロでいつも買い物にいくマーケットがなくなった。

テロで同僚が臭い、テロでお隣さんが臭い。テロでいつも買い物にいくマーケットが臭い。

気分が滅入るのはどっちだ?復讐したくなるのはどっちだ?こんな気分になるくらいならとっとと要求飲んだ方がいい気持ちになるのはどっちだ?」


ホワイトボードにリスクとリターンと書く。


「そしてシュールストレミングをぶちまけて死刑になる奴はいない。

お前らは出所したらまたシュールを町中でぶちまけることができるんだ。自爆テロじゃあこうはいかない。いいか、命ってのは武器だ、その武器を使い捨てにするバカがあるか。何度でも使い回せ」


ホワイトボードに書かれた文字は継戦能力。


「以上がお前たちテロ初心者に伝える効果的なテロの仕方だ。では最後に実践だ。ニュースを注視していろ」



この動画が投稿されたあと、A国B市中心街で大量のシュールストレミングをぶちまけると言う事件が発生した。当時その場に居合わせた大半の人がシュールストレミングをぶつけられ、最長では3ヶ月も臭いがとれなかったという。


なお犯人は保釈金を払ってすぐに出てきた。





西暦20XX年現在、シュールテロの被害はとどまるところを知らない。

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