第3話 西暦20XX年 誰そ彼時

ごく近い未来、あるいは我々が気づいていないだけで現代。


N市警察署では二人の刑事がモヤモヤした気分で煙草を吸っていた。

「結局、この事件はなんだったんでしょうね」

若い刑事は疲れと困惑の混じった声を漏らす。

「広域指定36号……現場の下っぱにゃなんの事だかさっぱりだよ」

おじさんからお爺さんになろうかという顔つきの刑事が答える。


報告書には犯人逮捕と記されている。確かに犯人逮捕はできた。だけど。

「指定36号……これから先に発生するであろう、新しい技術を利用した犯罪を警告するかのように、使われている技術の先進性に対して被害が少なすぎる事件、ですか……正直関わった今でも胡散臭く聞こえますね」


「警告、か……こんな事件がこれから先頻繁に起こるようになるのかねぇ。もうこりゃ警察の手に余るよ」


ふたりはしばし無言で煙を燻らせ、その奇妙な事件を思い出す。


最初の事件は二週間前の月曜日に起こった。当初は単純な空き巣、そう思われていた事件。指紋、監視カメラ、目撃証言。証拠はこれでもかと豊富で、何よりもその容疑者には前科があり、データベースに指紋が登録されていたのだ。


誰もがすぐに解決すると考えた事件は、誰もが想像すらしない事態へと向かっていく。


逮捕された男は、自分は容疑者の一卵性の兄弟である、と言ったのだ。

出生記録には存在しない兄弟。しかしそれを裏付けるかのように採取された指紋は別人のものであった。

なによりも当の本人が見つかったのだ。意思の疎通のできない状態で。


そしてこのような事件が7件続けざまに起こり、兄弟も事件の度に増え続けた。

物言わぬ容疑者も同じ数だけ増やして。


自称弟を張り込んだ結果判明したアジトに突入した刑事が見たのは、それまでと同じように重度の痴呆患者のように意思の疎通ができない容疑者と、自称弟とおぼしき同じDNAの遺体が一つ。


そして残されていたのは人間の細胞を培養するための、一言で言えばクローン生産設備。


クローンを作り、脳を新しい体に移し換えていた。おそらくだが、この事件の真相はそうなんだろう。

だが、一卵性双生児が別々の指紋を持つように、現在個人を特定する物的証拠は、同じDNAから作られるクローンを別の人間として認定してしまう。


「脳みそのシワでも個人を特定できるのかねぇ……?」

「できたとしてもどうやって確かめるんですか?頭かち割って調べるなんて弁護士が許しませんよ」


二人は大きな溜め息と共に煙を吐いた。

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