朝倉涼子の消失

魔桜

第01話 優等生の女神のような微笑み

 俺は涼宮ハルヒが嫌いだ。

 ハルヒは三年前の七月七日の事件をはじめ、ある意味伝説を打ち立てた。

 そんな彼女と同じ中学出身というだけでも憂鬱だというのに、同じ北高、しかも同じクラスに割り当てられるとは思わなかった。

 彼女は頭のおかしい行動が目立つにもかかわらず、頭がいい。もっと上の高校の推薦だって簡単にとれたはずなのに、何故かこの高校に入学している。

 やはり、彼女の行動パターンを読みきることは常人には到底できないようだ。

「これから一年間よろしくお願いしまーす」

 死んだ魚のような瞳をした男子生徒の声が教室に響く。

 席を立っている彼に、クラス中が注目している。

 そう、今は自己紹介の最中なのだ。

 高校一年。

 新学期の始まりとなれば、とりあえず自己紹介をする流れになる。俺はもう済ませたのだが、まだ自己紹介をしていない危険人物がいる。それは――涼宮ハルヒそのひとだ。


「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上!」


 渾身のギャグ? いやいや、そうではない。

 涼宮ハルヒはいつだって真面目におかしなことを口走る。

 ハルヒの前席に座っている奴は、馬鹿みたいに口を半開きにして振り返っている。クラスの大半は同じような反応。

 俺やハルヒと同じ東中出身の奴らは、やれやれ、またか、と言いたげな表情を一様に浮かべている。

 奴が異常なのは周知の事実。

 いい加減慣れてしまっている。

 しかし、誰もが似たような反応をしている中、一人の女子生徒だけ訝しげな目つきでハルヒを見上げていた。いや、見上げていたというより、睨んでいる。

 まるで俺と同じように涼宮ハルヒを嫌っているかのような目つきだ。

 ハルヒと同等、もしくはそれ以上の美貌の持ち主だから嫌でも目に付く。

 髪はストレートのロングヘアで、制服には皺ひとつない。

 初めて見る顔だ。

 東中の人間ではない。

 彼女の深い色をした瞳に吸い込まれるように見つめていた。



 と――彼女と視線が交錯した。


「――――ッ」

 慌てて目を逸らす。

 どうやらあまりの熱視線に気がついてしまったらしい。戦々恐々と見返してみると、彼女はまるで女神のような笑みを返してくれた。

 頬が熱くなるのを感じる。

 どうやら、見間違いだったらしい。

 あんなに性格のよさそうな女性が、たとえ台風のように周りの人間を巻き込むような超危険人物だろうと睨み付けるはずがない。


 あとから知ったが、彼女の名前は朝倉涼子。

 谷口曰く、容姿はAAランク+の美少女らしい。

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