不具合 #003

五月五日。


 素晴らしい。素晴らしいぞゴールデンウィーク。しかも土日を挟んだからって月曜日がお振替お休日ですってのよ。四連休!? なにそれ都市伝説かと思ってた!

 ハイトーンの独り言響く空間で麦茶に喉を鳴らす。空は生憎の曇り空というのが気分に反してはいるものの、そんな事どうでもいいくらいには浮かれていた。なんせこの連休中に部屋の掃除をし、カーテンを丸ごと洗い、風呂もトイレも磨いただけでなく、お一人様一つまでだったカップ焼きそばカートンを三回往復購入出来たのだ。流石に三回目にはバレたが、そう、聞いてくれ聞いてくれよ、レジを変えなかった自分が馬鹿だったんだけど、そのレジの子が可愛くってさ、大和撫子ーって感じ。

 あの……お客様……この商品はお一人様おひとつまでの……あの、その……

 みーたーいーなー! おくゆかしっ!

 まぁ、分かっててルール破ったのはこっちだから謝って戻しに行こうと思ったんだけど、この世の終わりみたいな顔でもしていたんだろうか、なんかクスっと笑われて、

 ……ナイショですよ?

 だぁーーってぇーーー!! だってだってだってーー! おくゆかしっ! やんごとなっ!

「女などに現を抜かす愚図め! 今すぐ切腹しろ!」

「はい! ぼくグズです! 女の子大好き! 切腹します!」

 ――は?

武士もののふとして最低限の心得はあるようだな。介錯役を以て其に応えよう」

 極薄のカーペットの上に鈍い音がした。目の前に投げ捨てられた木製の柄にどう見ても肉や野菜を切るような研がれ方では無い事が一目で解る刃が怪しく光る。

ぁーーー!?」

 両手を前につき、食い入るように刃物に顔を近づけた。こ、これ脇差!?

「怖気づくな! 観念しろ!」

 ガチャリと鉄の塊が色んな所でぶつかる音が頭上から聴こえる。というか、さっきから誰かと会話をしていませんかワタクシ。まぁ、自分、突然誰かが部屋に居て会話をしちゃうなんて事象にはそんじょそこらの人間に比べたら長けちゃっているわけですけども、流石に目の前に投げつけられたものが時代劇の小道具とはとても思えない刃だったからもう大混乱。いつしか土下座のような格好になっていた体と視線を、こわごわと、ゆっくりと上げた。

 ぶかぶかの甲冑にだぼだぼの兜。刀傷一つ無い新品同様の鎧に包まれた、小学校の入学式前に制服の種類を履き違えて武具一式揃えちゃいましたーってネタで子供に着せて写メとってソーシャルネットに流して沢山反応稼がれちゃうような子供が、さも偉そうにベッドの上に仁王立ちしていた。

「子供!?」

「だったらなんだ! 貴様より武士もののふの心は持ち合わせ居る自負があるぞ!」

「いや、ちょっと待って、ストップ! ストップ!」

「すとっぷ? なんだそれは……よもや命乞いか? どこまでも腐った畜生め!」

 腰に携えた刀の柄に手をかける。刀が長すぎて全然抜けてない。なんかかわいい。

 じゃなくて!

「お、お待ちください! 状況が全く掴めておりません! どうか経緯を、貴方様がここにいる経緯だけでも先に教えてくれは致しませぬか!」

「な、なんじゃにわかに……」

 まぁ、それくらいなら冥土の土産にくれてやろう。そんな時代劇のテンプレみたいな台詞でどっかりとベッドにあぐらをかいた。正確には鎧が邪魔してがっちゃがっちゃと暫く奮闘したものの結局かけなくて、武士は〜行儀が第一で〜とか言い訳しながら正座したんですけどね。物々しい装備はしてらっしゃいますが、所詮子供は子供、咄嗟に命乞いと見せかけた場繋ぎにもまんまと引っかかってくれたわけです。ここは一芝居といきますか。やったことないけど。

「あ、貴方様はどちら様でいらっしゃられまするか」

「名乗るほどのものではない。強いて言うならばふぐぁぃだが、その呼名は好かん」

 尻すぼみながらもバッチリ名乗ってますがな。

「貴方様も不具合バグなのですか」

「ばぐ? そんなすっとんきょうな名と一緒にするな」

 不具合……? 可怪しいぞ、今日は華やかな四連休の三日目。端午の節句に鎧武者の子供が自分を不具合だと言って現れた。少々出来過ぎな感じもするけれど、あのゲームでも季節のイベントが沢山あって友達作ってワイワイ! とかあるしなぁ。自分に至ってはいつ何時も独りでワイワイ! ですけど。やかましいわ。

「し、しかしですね、私めは不具合とは最近向き合ってはおらずしてですね」

「向き合っておらぬだけではないのか?」

向き合って、おらぬ、だけ……? やめろよ、そういう怖いこと言うなよ。

「す、少し確認するお時間をば頂戴いただきませんでございましょうか候にござりますればかしこかしこ……」

「無茶苦茶だな……ふふん、まぁよい、暫し時間をやろうではないか!」

「へへー! ありがたき幸せ!」

 なんか、上機嫌なんですけどあのちんちくりん。

 まぁねぇ、一目見ただけでこいつは戦場にも赴いたことすら無いただの小童って事ぐらい、戦国時代を経験していない自分でも解るってなもんで。さながらどこぞのボンボンが買ってもらったばかりの鎧着て、親の目盗んで脇差と刀ちょろまかして携えもののふごっこに耽っております的なもんだろう。身の丈以上ある刀鞘、ぶかぶかの兜、傷一つ無い鎧、そして子供。どんな間抜けな三流探偵でも腹抱えて笑っちゃうレベルですわ。麻酔銃? いらんいらん。

 立ち上がり、深々と一礼をしてパソコンの前へ。起動中の画面を見ながら不整脈ギリギリの心臓に一息いれてから携帯を手に取る。案の定電源が切れている。仕事以外に携帯を触ることも無い、だってかかって来ないんだもの。メールもほぼ百パーセントパソコンで済ますから携帯に入ってくるのは迷惑メールくらいのもんだ。何の設定も必要なく”見ない”というだけでスパムを完全ブロックできるんだ、あらゆるサービスを超越した最先端のサイバー防御法。どうだ凄いだろう。言ってて悲しくなってきた。くたばれ携帯。うそうそ、大好き。ガラケー、君と一緒の墓に入りたい。ラッヴェ。

 じゃなくて。

 携帯の電源が入るより先にパソコンのメーラーが起動した。ポイント明細、DM、DM、担当さん、いかがわしいやつ、DM……担当さん担当さん担当さん担当さん担当さんんんんっ!?

「一体どうなっておるのだこのカラクリは。奇っ怪な物を握って何をしている」

「ちょ、ちょっと黙って!」

「ぶ、ぶぶ無礼者! 貴様誰に向かって……」

「うるせぇ! ごっこ遊びは終わりだ! これ以上なんか巫山戯ふざけた事言ってみろ窓から投げ捨てんぞ小童!!」

「ひゃ!?」

 携帯の留守録が限度枠一杯まで入っていた。一件目の再生を開始する勇気など何処を探しても見当たらなかった。


「お前さぁ……もうちょっと早く出てこいよ……連絡昨日からあんじゃんよ。当たり前のように今日中じゃんよ。なぁ、なぁって」

「左様に言われても、何の事だか解らぬ、知らぬ、存ぜぬぐむぐ」

 鼻先までずりおちた兜を直しながら小手の隙間から頬をパンパンに膨らませたまま口を尖らせた。逐一達者だな、こしあんでべったべたな口だけは。武士の情けで食い物を貰ってやろう、とかほざきやがられた小僧の両足を掴んで逆さブランコをかましてあげましたらば滅茶苦茶お泣きあそばされましたので流石に申し訳なく思い、半額でゲットしていたかしわ餅に麦茶を添えてくれてやった。三つ全部だぞ、三つ、全部。ふざけやがって。

「それでは、引き続きかしわ餅をご堪能ください」

「うむうむ、殊勝な心がけだな!」

 最後の餅に石とか噛んだら破裂するような何かでも入ってろ。

 ――しっかし、今回のバグは何がなんだかさっぱり検討もつかないぞ。ってか不具合バグじゃないんじゃないのか? そもそもこれは自分が原因なのか? 複数の人間が開発しあったシステムをドッキングさせたら動かなくなった、と。各々だけでテストした時はうごいたのに、と。そんなん、この設計でオーケーを出した人間の責任じゃないか、なんでもかんでもプログラマが悪いみたいに言いやがって。そもそも他の開発者との合同制作だなんて今初めてしったぞ。この地球上で、自分以外のこの案件に関わるプログラマは皆同じ事を思いながらソースコードを見直している事だろう。ゼロじゃないなら百、皺寄せとはそういう物だ。それでも強く言い返せないのは、自分の組んだ箇所に致命的なエラーが絶対に無いとは言い切れないからと、何度もお仕事をいただいている事実、それらによって食いつないで行けているという純粋な感謝。最後に自分を突き動かすガソリンは、そういった目に見えない繋がりの部分なんだろう。自分は悪くない、その決め付けが過去の積み上げを全て崩す事になる。どんな仕事でもそうなんだろう、続けるために必要な事、それは自尊心プライドをたしなめられる矜持プライドを持って仕事に臨むことだ。

 これね、全部受け売り。自分が格好良く見える言葉なので今後も推していきます。推しゲンです、はい。

「合戦じゃー! 狼煙を上げろー!」

 なんとなく、気分だったもんで。

「うおー!」

 合いの手どうも。って、お前狼煙役って完全に下っ端の役目だぞ。


 ――ですよね。

 どうもこうもない。やはりこちらに非など微塵にも無い。そう思えるぐらいには幾度と無く同じ処理を実行させ、半ば暗記の域にまでプログラムを解析した。時計は二十三時を過ぎ、納期リミットをあと一時間としたところ。さぁ、どうやって伝えようか。

「んぬ……大将の首は、とったのか……?」

 何寝ぼけてんだ、ってか寝てたのか。それ以前にまだ居たのか。ん? あれ?

「なんでいんの」

「元からおるだろう」

 ごしごしと目をこすり、大きなあくびを一つ。寝るためにご丁寧に兜はちゃんと取ったんですね。しっかしまぁやたら長い髪だな。小僧つーたら、なんかこう、河童みたいな感じのでっかい円ハゲみたいなの作らされたりするんじゃないんですか。武士だなんだ言ってたけどお前のほうが男だか女だかわかんねー風貌してんぞ。

「いや、だってね。不具合が見つからなかったのよ?」

「ここにおるではないか」

「そうだね、わーい見つかったー」

 じゃなくて。

「過去の経験から言うとだな、抱えている問題点が無くなったり解決が確定したらあんたらは消えちゃう寸法らしいんだわ」

「ほお」

「なんでいんの」

「おい、櫛は無いか。乱れ髪がまとまらん」

「手でやれ、そんなもん」

 と、言いつつ風呂場に向かい百均で買った取っ手が折りたためるブラシを取って戻ってきた。自分の天井知らずな優しさは、なんじゃこれはこんなものの何処が櫛だ無礼者がという言葉で中指を少し尖らせたげんこつに変化した。両手で頭を抑え猛犬が牙をむくような顔で涙目になってこちらを見上げた小僧と初めて真正面から目が合う。大きな栗色の目に男の威厳の欠片も見当たらない長い睫毛、小さな口から覗く八重歯。腰くらいはあろうとするどうやって兜に収まっていたか皆目検討もつかない真っ直ぐな黒髪。

「お前……女か」

「だったらどうした! 無礼者! 切腹しろ!」

 見掛け倒しが極彩色の光を放って目の前を覆った。この開き直り、もう直視できない。

 その辺に転がっていた脇差を掴み、ぐいと体に押し当ててきた。あーもう、やってられん。ひょいと脇差を二本指でつまみ捻り盗るように奪った。

「バグはバグらしく、お帰りになられては如何ですか、お、じょ、う、様」

 柄の部分で額をぺちぺちと。

「ばぐではない! あいだ!」

 ――なんて?

 出来る限り見開いて見せた目と口を見て、こいつ正気の沙汰かと言わんばかりに見開き返された。ように見えたんだけど、何か少し様子が可怪しい。何か言ってはいけない事を口走ってしまったような、悪い事をしてしまった自覚が芽生えた瞬間のような顔だった。

「女などではない! 男だ! 口外するな!」

「あーもーどっちでもいいって。もとより告げ口する相手なんかいねーよ」

 今度はこいつ正気の沙汰かと言わんばかりの顔になった。

「……よもや、まさか、伏具家を知らんのか」

「ふぐけ? 知らん」

「未だ誰も見たことのない世継ぎの噂で持ち切りな伏具家だぞ?」

「はぁ? 何れんぼう将軍だよそれ」


 信じられぬだが助かっただが信じられぬ。座り込んでぶつぶつとそれしか言わなくなってしまった伏具家とやらのチビを尻目に、今までと違った現状に頭を抱えていた。

 ――不具合バグは見つからなかった。代わりに、誰にも言うなと言っておきながらその後ペラペラと喋りたくったこの不具合が"伏具 藍"とかいう赤い着物の人に座布団を丸ごと持っていかれそうな駄洒落名だという事が発覚した。どういう事なんだ。まさか、バグがバグって永遠にここに居続けるだなんて事になったりしてないだろうな!? もう買い換えるかこのパソコン! 廃棄処分だ! うそうそ、うーそー、例え壊れてしまったってウルトラUV加工を施したアクリルケースに入れて飾っちゃう。ラッヴェ。

 けたたましい呼出音が珍妄想を引き裂いた。敵襲か!? と後ろで聞こえた気がしたが、そんな事に突っ込んでいられる程穏やかではなくなった。納期リミット目前だった基調な時間をこの甲冑チビ女にどれだけ費やしてしまったのだろう。血の気が月の引力に根こそぎ奪われてしまったようで指先が急に冷えだす。危ないだなんて思うまもなく脇差を床に放り投げ、相手の番号や名前を確認することもなく申し訳ございませんでしたの大声と共に受話ボタンを押して反射的に頭を下げた。

「も、もしもし? お、おお、落ち着いてください」

「誠に……誠に……ま? はえ? どちら様ですか?」

「合同制作システムの不具合バグの件、と言えばお分かりになりますでしょうか……今朝知ったんですけどね、合同って……ハハハ……」

 激昂叱咤の代わりにか細く聞こえてきたのは、物腰の低い男の声だった。彼もまた、合同制作という事実を知らされていなかったプログラマの一人だった。互いの簡単な紹介が終わった所で突然平謝りの相手に進まなくなった話の軌道をなんとか修正し、本題に入った。今回の不具合バグの件でどうしても直接話し合いたいという事で担当さんから自分の電話番号を聞いてかけてきた、と。

 詰まる所、不具合バグの原因は彼のプログラムの中にあった。修正後、全てのプログラムを走らせて正しく動作する事も確認した、と。だが本題はそこではなかった。彼も彼なりの自尊心プライド矜持プライドを胸に、自分が担当する範囲を飛び越えて関わる全てのプログラムを解析したそうだ。そこで見つかったのが、自分の組んだプログラムにあった、今回指摘されてはいない全く別の不具合バグの存在。設定される値によっては無限ループを引き起こし完全にフリーズしかねない超初歩的であるが致命的なミスだった。

「気づかれず直すには、直接言うしか無いと思いまして……ハハハ……」

 携帯を肩と耳で挟み、ひたすら感謝の言葉を述べながらサクサクっと修正を完了した。例え一期一会であっても同じ案件に関われば仲間であり一蓮托生ですから。聖人も裸足でかけ出して罪を作って彼の前にひれ伏したくなるような言葉に感涙を禁じえず、軽い男泣きをしながら通話を終了した。"14分01秒"。

 すぐさま教えてもらった彼のメールアドレスにデータを添付して送信する。

 ――どのみち謝罪の連絡をせねばならないので、データを一纏めにしてこちらから送っておきますよ。

どこまで良い人なんだ貴方は。一蓮托生とか言いながら自分の責任は周りに着せる事無く進んで矢面にお立ちになるなんて。この案件が終わった貴方が気分転換に外出し帰ってきたら郵便ポストに百万円入っていますように。


 結局、間髪入れず担当さんから電話があり、追加仕様が決定したので明日中によろしくお願いしますというわけで、ワタクシめの連休はこれにて幕引きとあいなったわけですが、"3分50秒"の電話を終えて一息ついた所であります。あのプログラマさんが巧い事説明してくれたのかその後も特にお咎めもなく、今日を乗り切ったという事で。

 さーて。と。

 もういい大人です。そこそこの理解力もあります。この超常現象にも不本意ながら慣れてきた自分がここに居ます。聖人様からのお電話のお陰で、幾重にも警戒の張り巡らせた城に匿われ家の存続の命運などという身勝手な事情を背負わされたか弱き御令嬢のようなバグを取り除けました。誠にありがとうございました。それと同時に、振り返って広がる六畳ワンルームにはもう藍とかいうちびっ子も居ないという事は承知であります。

「なにをぶつくさ言っておるのだ。情けで一つ残しておいたぞ、かしわ餅。美味であった」

 ――え?

 声のした方に自然と体が向いた。無造作に食い散らかされたかしわの葉を模した三枚の包み紙、その一つに一口分の餅が残っていた。ちゃぶ台の足元にはバネの仕込まれた刺すと刀身が凹むジョークアイテムの小刀が転がっていた。かしわ餅をゲットした店先で駄菓子の屋外販売をやっているのを見つけ、どうにも懐かしくて明後日の方向に振りきれたテンションの末路だ。それ以外はいつも見ている部屋だ。期待していた残影すら無い。

 期待していた? 適当な事言うな。してねーし。ばーかばーか。

「残しておいたって……一つじゃねぇどころか、餅の部分だけじゃねぇか」

 本当に一欠片だった餅をつまんで口に放り込んだ。かしわ餅として食べたため不納得の結果しか返ってこない。時間が経ってカッチカチだ。もう少し糖分摂取が欲しいなと、キッチンに置いておいた紙袋から金平糖の小袋を二つ取り出した。意外に高くて泣く泣く二袋に留めた駄菓子の中でも高級品だ。なんでこんな高いんだちくしょう。子供の頃はよく女みたいだと馬鹿にされたけど、好きなんだよ金平糖。なんで女の食べ物っつー相場になっちまったんだ。きっとアイツに渡したら、こんな女が食うような物要らぬわ! とか言いながらばっくばく食ったんだろうな。

「初めから男じゃねぇって知ってたらねぇ〜」

 ちゃぶ台の前にどっかと座って金平糖の封を切り、惜しむことなくざらーっと一気に口に含んだ。高級品を味わうなどどこへやらでぼりぼりと噛み砕いた糖分を疲れた体内に叩き込みながら、小刀を手にとって腹を刺した。

 ――無礼者! 切腹しろ!

「ぎゃー」

 静まり返った部屋の空気に居心地の悪さを感じて一際大きな声を出して伸びをする。そのまま玩具をゴミ箱に放り投げた。空いた手の行き場を失ってもう一袋の金平糖に手をかけたが、なんだか食べる気にはなれなかった。

 一期一会、ね。はいはい。


 元の生活に戻れるのか、それとも消えちまうのか。また同じ姿で現れる事があるのだろうか。わかんねぇよなぁ、わかんねぇけど、この金平糖はとっておくことにしよう。ただし、賞味期限前日までな。


不具合 #003 修正完了

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