LOLITA《ロリータ》――戦闘服に身を包んだ少女達

序章

序章 


「ポイント一〇。異常なし」

『了解。引き続き捜索に当たってくれ』

 吹き荒れる猛吹雪の中。朱雀半蔵すざくはんぞう――俺はポイント一〇の警備に回っている。

 猛吹雪で視界が安定しなく、俺まで警備に回されたというわけだ。

 俺は部隊長を任されており、本来であれば警備などは受け持たない。

 だが、今回は違う。この吹雪に乗じて敵国が攻めてくる恐れもある。

 ――それに今回は〝伝説の軍隊〟が接近しているという情報もある。

 俺は気を引き締め、ネズミ一匹逃がさない程に目を見張る。

『警告。半径十メートル以内に熱源反応あり』

「熱源反応?」

 銃や爆発物の恐れはない。いくら猛吹雪の中といえど、銃声など聞き逃すはずがない。

 人や動物。動物であれば構わない。だが、人であった場合。敵である可能性が高い。

 うっすらと人影が見えた。ゆらりとおぼつかない様子で歩いている。

 身長は百四十センチ程。かなり小柄だ。手に荷物を抱えている。

「子供か……?」

 近くに集落がある。外出は禁じてあったはずだが、それ以前に外に出た者だろうか?

 俺も子供に銃を向けるとしのびないが、仕方ない。例の件もある。身元が確認できない場合は拘束するしかない。

「止まれ!」

「は、はい……」

 怯えた様子でおどおどとしている。この反応は白だろう。

 それでも、念のためだ。身元は確認する必要がある。

「軍の者以外、外出は禁じている。何故、外出をしている?」

「お、お母さんが熱を出してしまって……薬と食べ物を……」

 俺は中身を確認する。確かに中には薬と食べ物があった。確認はこれで十分だろう。

 警戒を解いた。

「こちら、朱雀。一般人を保護した」

『了解』

 連絡を終えると通信機をしまった。

 少女は向けていた銃を下ろすとほっと胸をなで下ろした。

「悪いな。もう行っていいぞ」

「はい。でも、その前に……」

「ん?」

 カチャッと銃を取り出す鈍い音が聞こえた。俺の物ではない。少女が取り出した物だ。

 見たこともない銃だ。拳銃のように見えるが覚えのある銃ではない。

 軍服の下には防弾チョッキを着ている。本来であれば死ぬことはないだろう。

 でも、少女の正体には思い当たる節があった。

 〝伝説の軍隊〟と呼ばれている部隊だ。全員が少女で構成されており、高い技術力と戦闘能力があると。

 ――その名は、

穢れなき兵隊メイデン・リトル……!」

「私達のこと知ってるのですね」

「そりゃあな」

 この戦争のジョーカーのような存在だ。どちらの味方でもなく、気まぐれに手を貸す。

 穢れなき兵隊メイデン・リトルの動きには謎が多く。本拠地も不明だという。

 穢れなき兵隊メイデン・リトルである以上、この武器が危険である可能性は高くなった。小型のレールガンぐらい持ち出しても不思議ではない。

 それでも、俺は軍人だ。死を恐れて逃げるなどできない。ましてや、部隊長だ。部下に示しもつかない。

「動いたら撃ちます」

「……」

「そのまま手を挙げて……」

 少し右を見た。軽い視線誘導だ。一秒にも満たない僅かな隙。それは、朱雀に銃を持たせるには十分な時間だった。

 銃に手をかけた時には少女もこちらに気づいた。引き金に手をかけたのはほぼ同時。あとは引きトリガーを引くのみ……。

 バチンッ!

 その音が耳に届く頃には冷たい雪が目の前にあった。

 どちらも引き金は引いていない。この銃声は違うところからだ。

 背後。もう一人別の少女がいた。少女の持っている銃と同じタイプの物を持っている。こいつに撃たれたのだろう。

 熱源反応が二つとは言われていない。恐らく何かしらの対策をしていたのだろう。

 胸を貫かれたようだ。焼けるように熱い。

「ポイント一〇。制圧完了」

「今のは必要だったでしょ?」

「はい。助かりました」

 二人の話し声が聞こえた。消えいく意識の中、脳裏に焼き付けるようにその声に集中した。

「今のもし私が撃たなかったら……どうなってた?」

「……共倒れでしょうか」

「だったら、こいつは合格ね」

 ――合格。その言葉が何を意味するのかは分からない。

 もう死ぬのだから考える必要ない。そう思い、目を閉じた。

 俺の意識は完全に途切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る