春の襲撃編 9

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 蒼翔が《剣魔士特別自衛隊本部》にいる同時刻。

 岐阜県にある廃村の一本の細道を小柄な男はゆっくりと歩いていた。


 《優劣剣魔士育成機関学校『第1生』》の真新しい制服を着た男で、昔からの伝統のお福さんのお面を被っていて、顔や髪はよく見えない。顔の表情が見えず、お面が笑っているので正直恐ろしさを感じる。手ぶらで何をしているのだろうか。


 この村は誰も住んでいない廃村だ。

 2100年頃から始まった急激な過疎化と数多くの戦争により、小さな集落や高齢化になっていた村は一瞬で消え去った。現在、日本は廃村に人が来るように努力はしているが、一向に実る気配はない。逆に、どんどん廃村が増える一方で事態は悪化を止まらない。


 フラフラ歩いていた男はある家の入口に立ち止まると、ジッと家の中を見つめた。

 瞬間、家が消えた。正真正銘、家がその場から消え去った。

 それと同時に、少し奥の山の上が砂埃が巻き上がり木々が次々と倒されていった。

 よく目を凝らすと、それは先程目の前から消えた家だった。


「チッ……ここは違うかぁ」


 男はそう吐き捨てると向かいの家を消して、「ここも違うかぁ」と吐き捨てながら次々と家を消していった。


 ●●●

 日本には未だに犯罪組織が数多く残っている。何年か前に1度、犯罪組織を排除する活動があったが、もちろん失敗に終わった。そもそも犯罪組織の本拠地すら知らないのにどうやって排除しようとしたのか、当時の政府に質問をしてみたいものだ。


 その中で『アルサ』という犯罪組織は、犯罪組織を排除しようとする日本政府に勇敢に戦った組織の1つだ。

『アルサ』は剣魔士を否定し本来の人間を尊重しよう、といういいモットーなのだが、それが攻撃をしてしまうとまた別になる。『アルサ』はこの意見を日本政府に訴えたのだが、日本は綺麗に右から左に聞き流した。

『アルサ』はそれに腹を立て、行動にでてしまった。


 その『アルサ』は現在、《剣魔士候補生》―《剣魔士育成機関学校生徒》―の殺戮さつりくを計画していた。その為の機密の資料を《剣魔士学校》から盗むのに成功したのだ。


 ――今の《剣魔士候補生》に関わる重要な機密を。


 だから本拠地を厳重な警備で守っているはずなのだが。

『アルサ』のリーダーである磯海絃義

いそがいつるぎ

の元に1人の手下が忙しく走ってきた。


「大変です!地上で次々に家が消えていっています!このままだと我ら本拠地の入口が剥き出しになってしまいます!」

「ほう……モニターに映せ」

「ハッ!」


 絃義の目の前にモニターが現れる。そのモニターには、地上で次々と家を消していく《剣魔士候補生》の男が映っていた。

 間違いなく、《剣魔士育成機関学校》の制服を着た生徒だ。ただ、不気味なのはその男が身に付けているお面だ。

 これは何のお面なのだろうか?と、どうでもいい疑問を持った直後、そのモニターはノイズに包まれた。


 いや、あのお面は見覚えがあるお面だ、と絃義は思った。


「そうか……あのお面は――」


 瞬間、地上の方から轟音が聞こえてきた。

 地面が抉り取られるような耳に響く音。

 その音とともに地面が上下左右に揺れる。


 一方男は、ようやく見つけた入口を丸見えになるように、地面を抉り取っていた。

 見つける方法は簡単。とりあえず家を消していき、地面が他とは違うところが奴らの入口だ。所詮、格下の犯罪組織が作った拠点だ。1度手を加えた地面と加えていない地面を、判別できないようにする工夫等していないだろう。明らかに手を加えたあとがある。ビンゴだ。


 ある程度地面を抉り取ったので、中に入ろうかと思った時、それを阻止するように入口が爆発する。

 だが男は無事だ。爆発が起きた時には既にもう、入口から50mは離れている。

 男はこれから起こる事を察し、『想力分子』で剣を作った。


 漆黒に染まる悪夢のような剣。その剣からは謎の『怒り』が感じられた。

 剣も『想力分子』によって作られたもの。つまり、その剣には人の思いが詰まっている。男の剣は『怒り』が詰まっている。


 案の定湧き出た敵達。どうやらここら辺一帯の地面は、どこからでも登場できるらしい。ヒーロー物にとってはいい地面だろう。だが登場したのはヒーローではなく悪党だ。そして、それを成敗するのもまた悪党。

 敵達も『想力分子』で作ったであろう剣を構えている。

 四方八方囲まれているが、それも想定内。


 敵達は男を見るなり一斉に襲いかかってきた。

 だが男は動じない。

 砂埃に荒らされている辺りは、奇襲にはとってもいい場所だ。しかし、そんなものは男に通用しない。


 敵達10人程の者達が、その砂埃から姿を現した途端。

 男の姿が消えた。


 男は一瞬で敵1人の真後ろに行き、横に剣を振る。赤い血飛沫が舞うのと同時に、丸い頭も宙を舞う。それが1秒置きに10回。10秒とちょっとの間で、男を襲った敵達は首を失った。

 頭が地面に落ちる前に男は既に入口から中へ入ろうとしていた。


「ブリッシング」


 男は地面に落ちる頭達を見ながらそう呟いた。

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