宇宙おきらく所沢(中)

■■■3




やっぱり来るんじゃなかった。

周りが飲酒を始めている中で、実篤はしみじみとウーロン茶を飲みながら反省していた。


「宇宙さんて都内出身なんですか?」


「違う、もっと遠いところ」


「日本だよね?」


「日本じゃないところ」


おお帰国子女かと周りから声が漏れる。

宇宙だよ宇宙。

と突っ込みたいが、そんな事を言って周りを唖然とさせてもしょうがないので実篤は黙ってウーロン茶を飲んでいる。

俊彰はみんなお前の事を気にしてるぜと言って実篤を誘った。


「宇宙ちゃんって趣味とかあるの?」


「ない」


「そうかないんだ」


宇宙になにを聞いても、話題の取っ掛かりがないので会話は続かないが、それでも場が盛り上がってるのは宇宙の外見に皆騙されて視線を一点に集中しているからだ。

男子の視線を宇宙は一点に集めているが、実篤は女子の視線を一点に集めている。

それは宇宙の様な羨望の眼差しではなく、どちらかといえば怨念がこもっている。


「杜若君」


実篤の隣に座った今回の飲み会の女子側の幹事の須藤歩美が声を掛ける。


「なにしてくれてんの?」


久しぶりにあうクラスメイトの第一声は抗議だった。

須藤歩美は真面目でキツそうな顔立ちなのに、さらに怒って目が据わっているので本当に怖かった。

「皆で楽しくご飯を食べようって集まりに、なんであんたの新しい〝友達〟の展覧会になってるの?」


「はい……」


「よかったわね凄い美人な〝友達〟が出来て」


「いや……」


「まったく浪人生になってアパート借りて引きこもってるって聞いてたけど、なんだか違うみたいね」


ついこの前までその通りだったのだが、宇宙が現れて状況が一変した事を思い出すと説明したかったが、いつもの様に諦めた。

宇宙の外見は異性からは羨望を、同棲からは尊敬と畏敬の念を抱かせる。


「それにしても奇麗な子ね。あんな子とほんとに同棲してるの?」


「えっ?」


一瞬にして場が静まり返る。


「須藤、それどこで……」


「俊彰から聞いたわ」


実篤は宇宙が座っている所の対面に居る俊彰を睨みつける。


「それってもう〝友達〟じゃなくて〝彼女〟って事じゃないの?」


「違う。宇宙は事情があって俺の部屋に転がり込んで来てるんだ。あんまり詳しく話せないけど、そういう事なんだよ」


考えてないから話せないとは言えない。


「ほう、一つ屋根の下で暮らしてる事は変わりがないんだ」


須藤歩美はやっと表情を綻ばせる。

それは先ほどから煮え切らない回答を繰り返す実篤の弱みを見つけたからだ。


「本当なの宇宙さん?」


女子側から声を合わせた質問が飛ぶ。


「うん、いつも実篤と一緒」


おお、という去声と共に、男子側から舌打ちが多数聞こえる。

離れたら地球壊れるからなと言いたいのを我慢して実篤はウーロン茶を飲む。


「杜若君のどこがそんなに好きなの?」


追い打ちを掛ける女子から宇宙に質問が飛ぶ。


(答えていいの?)


「もう好きにしろ」


面倒を起こさない様に、実篤と宇宙の関係を聞かれたら事前に心に話しかけろと言ってあった。

さっと宇宙は実篤の両肩に長い手を伸ばす。

誰かに紹介する様に手を実篤の肩に置く。


「全部」


「なっ」


おおーっという声と嗚咽のような音が混ざった声が部屋に響く。


「実篤の全部が「好き」」


「お前好きって言う言葉の意味を正確に理解してるのか!?」


(興味があるって事?)


念話での宇宙の答えは間違ってはいないと思うが正しくもないのではないかと実篤は思う。


「なんで実篤と私が繋がっているかが興味があるんです」


「そこは声を出さなくても良いんじゃないか?」


「そうですか?」


実篤と宇宙の会話は全くかみ合ってないが、他人には本当に仲が良い様に見える。


「畜生、杜若の野郎、浪人の癖に」


何人もの男から恨み言が漏れ始める。場の空気は悪くなる一方だった。

畜生、こうなる事は分かって居たのになんで自分はのこのこ地球が壊れてしまうかもしれない爆弾抱えながらこんな地元のクラス会に来なければいけないんだろう?

実篤はまたウーロン茶をチビチビと飲みながら自問自答する。

家でひっそりとしていれば良いのに、俊彰の誘いに乗ったのは単純に宇宙と一緒にアパートに居ても気がめいるからだったのもある。

宇宙はいつもアパートの片隅に浮いていて、何かとちょっかいを出しに来る希美や森本姉妹が庭から覗いて来たり、部屋から上がってくる度に床に降りて来た。

勉強にも集中出来ずに、結局ノコノコとクラス会に出て来てしまった。

外見だけで判断すれば、アイドルの様な煌びやかな衣装を見にまとった宇宙はとても目立つ。

この所沢の少し薄暗い、座敷の飲み屋のなかではそれこと暗闇に輝く一等星のごとく視線を集めてしまう。

その隣で離れられない実篤は、己の存在の儚さを自覚する。

そして二人が離れた時に始まる地球崩壊の姿を思い出して、宇宙の隣に座ったり立ったりする。

たった数日で感覚は狂い、正直実篤にはどうにでもなれと思う事は何度もあった。

それでも宇宙から離れない。


「どうしたの?」


大体そんな事を考えていると宇宙から声を掛けてくるのだ。


「なんでもないよ」


実篤は冷静を装うが、それは虚勢でしかない。

自分でむなしくなるだけだが、それ以外に宇宙と対峙する方法がなかった。

宇宙はキレイで見ているだけだったら不満なんか一つもなかった。

地上に居るときはいつも背筋は伸びて、長い足で真っすぐと立つ。

実篤から見て、今まで見て来た女性のなかでは一番奇麗だと思った。

でも不思議とそんな宇宙を見ていると、すぐに少し猫背の儚げな背中を思い出す。

実篤は隣で大人しく座る宇宙から目を離して、ふと辺りを見渡す。

その後で対面に座る俊彰の方を見て舌打ちをするが、宇宙に見とれている俊彰はなにも気気がつかない。

座敷の前で店員に連れられて一人の女の子が立っていた。

ボブカットの女の子は所在無さげに座敷に上がる事無く立っていた。

背は低いが整った顔と、スラリと伸びた四肢が印象的で、何処か奥ゆかしい雰囲気で、そう簡単には気を許さない気高い感じがする女の子だった。




「雪子、久しぶり」


実篤の隣に座っていた須藤が席を立って実篤と同じクラス委員だった三島雪子を迎えに席を立つ。


「ごめんなさい遅れた」


「いいから、いいから、あそこ空いてるほら座って」


須藤が進めたのはさっきまで自分が座っていた場所だった。

実篤と雪子は目が会う。

そして直ぐに視線を外した。

三島が次に視線を向けたのは、当然ながら目立つ淡いピンクの髪の女の子、宇宙だった。


「誰?」


「あっあれは杜若君の友達……」


「実篤の彼女だってよ」


須藤の説明を遮る様に、男の方から恨みにも似た声が上がった。


「とにかく座って、座って、ね」


須藤が肩を押して、三島雪子を席まで連れて行く。

実篤は雪子が隣に立つと、気まずそうに顔を避けた。

三島雪子も特に挨拶もせず、実篤を見下ろした後、静かに席に座った。

その様子を見て、対面の俊彰が呆れた様な顔をしてたので、一瞥してから実篤は意を決して三島雪子に話しかけた。


「三島、その久しぶりだな」


「久しぶり」


久しぶりに聞く三島雪子の声は相変わらず抑揚のない静かな声だった。

クラスでも他の子と比べても、とにかく静かでいつも澄ました顔が印象的だった。

久しぶりに会っても雪子の挨拶は素っ気ないものだった。

愛想の無い返事を初めて雪子に会う人間が聞いたら怒っているのだろうかと思うが、怒っていたら無視するのを知っている実篤は安堵していた。

ここからだ、ここから久しぶりに会った普通の「クラスメイト」としての会話を続けなければと自分に言い聞かせて、実篤は次の言葉を探るが、言葉が出て来ない。

そんな風に実篤が考えている間に、須藤と雪子が会話を始めてしまった。

とりあえず話かけるのは後でいいかと、実篤が諦めると隣の宇宙が身を乗り出して来て、実篤の前に出て来る。


「あなたが三島さん?」


実篤の前を横切って、宇宙が覗き込む様に雪子に顔を向けた。


「あなたは?」


「宇宙です」


宇宙は手を前について、実篤に寄りかかる様に雪子を覗き込んでいた。

実篤は淡い桜色の宇宙の髪が目の前に広がっていて前が見えない。


「宇宙……名前なの?」


「はい、識別用の名前です」


「変わった名前ね」


「そうみたいですね」


実篤の前で雪子と宇宙の淡々とした会話が始まる。


「俺の前で話し始めるなよ!」


「おい杜若、なに見せつけてんだよ!」


周りから文句の声が上がったが、勿論宇宙は気にしないし、実篤は何も出来なかった。


「私に何か?」


「雪子は実篤の事好きだったんですか?」


宇宙の発言に全員が息を飲んだ。

格好も突飛なら、聞く事もえげつないと誰もが思った。


「どうしてそう思うの?」


「興味があるんです」


「実篤君から何か聞いたの?」


雪子の言葉は賑やかだった筈の座敷が静かになっていたのか、小さい声なのに、この場に居る全員によく聞こえた。


「実篤は貴方の事になると、何も教えてくれません」


雪子は少しだけ実篤の方を見る。

実篤は今にも泡吹いて倒れそうな程、顔を震わせていた。


「私から何か言う事なんて無いわ」


「実篤の事なんとも思ってないんですか?」


「そうよ」


雪子の同意の声は隣にいても聞こえづらい声だった。

でも、なぜか実篤にはよく聞こえた。関係ない。その言葉がなんだか実篤の頭の中に響いていく。


「本当にそうなんですか?」


更に宇宙は雪子に顔を近づけていく。

屈みながら前に歩くと宇宙の大きな胸が揺れる度に周りの男子は釘付けになった。


「雪子と実篤にはまだ何か繋がりを感じます。その繋がりを生んでいるのは弱い力、電磁気力、強い力、重力も超えるもっと小さいけどこの世界を結びつけている何か特別な力」


実篤は文系だから分からなかったが、宇宙が言った「弱い力・電磁気力・強い力・重力」は量子物理学で言うところの、この世界で働く力の事だった。

物が引き合う力の重力、電流と磁界との間に働く力が電磁気力、小さい原子をまとめて原子核を作るのが強い力、ほかに陽子を中性子に変える等の作用をする弱い力の四種類がこの世界を形作る見えない力。

宇宙はそれ以外の力があると言っているのだが、周りに気がつく人間は居なかった。


「私はそれが知りたくてしょうがないんです」


「実篤君」


雪子はスッと立ち上がった。


「随分変った彼女ね」


雪子はさっき席に着いたばかりなのに、直ぐに立ち上がってそのまま帰ろうとした。

呼んでくれた須藤に対しては一礼をして、そのまま振り向かずに預けた靴を急いで取り出して、靴を履き直す。

すぐに実篤は立ち上がって三島雪子を追うのに実篤も靴を履く。


「三島!」


実篤は周りの人間の目線も気にせずに、直ぐに追いかける。


「待て」


「キャァ」


慌てた実篤は狭い居酒屋の通路で店員とぶつかってしまった。

持っていた飲み物を零しそうになった店員に実篤は頭を下げて謝る。

その間に三島雪子は走りこそしなかったが、足早に店を出て行ってしまった。

実篤も続いてお店を出て三島雪子の後を追いかける。


「あれ、地震?」


「なんか揺れてない?」


店の周りが少し揺れたようで、揺れに敏感な人が騒ぎ始めた。


「やばい」


実篤は宇宙と離れると重力崩壊が起こる事を思い出した。

すぐに店内に戻って座敷の前まで戻ってくる。


「宇宙!早く来い」


宇宙の事を忘れていた実篤は慌て声を上げて宇宙を呼んだ。


「はーい」


宇宙は一番奥の席から、かるく座敷のテーブルを飛び越えて、直ぐに実篤に抱きつく。

俊彰はテーブルを軽く飛び越える姿が浮いている様にも見えたが、スカートから延びる脹よかな太腿に気取られてそれ以上の事は考えなかった。


「靴履け、靴!」


「早く追いかけないと捕まらない?」


「分かってるなら早くしろよ!」


そう言って宇宙は自分のブーツを掴む。


(適当に浮いてるから引っ張ってください)


「あーわかったよ!」


実篤は宇宙の手を引っ張って店内を走り始める。宇宙はまるで風船の様に軽く簡単に引っ張る事が出来た。


「宇宙ちゃんまたね~」


俊彰は去り行く宇宙に手を振った。他の男共も釣られて手を振った。

宇宙は何時もの様に満面の笑顔で答えた。


「それにしても予想通りの展開ね」


手を振っている俊彰に須藤が話掛ける。


「まあな」


二人を連れて来た俊彰と須藤はしみじみと話し込む。


「杜若君も酷いよね、こんな席に今の彼女連れてくるなんて」


「やっぱり、あの二人って付き合ってたの?」


「まあ本人達は付き合ってたって言わないけど、仲が良かったもんな」


周りの残されたクラスメイトも二人の噂をし始める。


「あの三島が怒ったの始めて見た」


「ほんと笑わないよな三島って」


「対照的に実篤の新しい彼女は凄くよく笑って可愛かったなあ」


「ほんと趣味が百八十度回転したって感じだな」


「やっぱり実篤みたいにガツガツしない無味無臭みたいな男の方がもてるのかな?」


「まあ、だから周りに女の子寄ってくるけど、肝心な時に動かないんじゃない?」


本人の居ない所では好き勝手言われてもしょうがない。


「とりあえずこれで一区切りつくだろう。あいつも卒業前からグズグズ部屋に引きこもってばっかりだったからな」


「俊彰って酷い事するわね」


「須藤だって三島を呼んでおいてそれはないだろう?」


俊彰と須藤はお互いグラスを持つ。


「ところで須藤、どうやって三島呼んだの?」


「実篤君が会いたがってたよって言ったの」


須藤と俊彰は満面の笑みでグラスをくっつけた。


「待てよ三島!」


お店を出って直ぐの所で三島雪子を実篤は見つけた。

雪子は慌てて帰る事無くゆっくりと歩いていた。

薄暗い商店街の仲で小さい雪子の背中を見つける。


「三島ちょっと待てよ」


「なに?」


相変わらず雪子は表情を変えない。真っすぐに実篤を睨みつける。

普通だったら怒ってる様に見えないが、実篤には何となくだが雪子が怒ってる事が分った。

雪子は怒ってる時に相手の目を見る。

怒ると無視するというよりは真っすぐにぶつかって行く。

大人しそうに見えるが、ものすごく正義感の強かった。

背もそんなに高く無いのに、大きな先輩や教師に喰ってかかっていく姿を実篤は何度も見ている。

そういうところは何一つ変わっていない。

大学入って数ヶ月で性格が変わるわけがないのだが、実篤は焦りながらもなんだかホッとしていた。

雪子は何も変わってない。


「勝手に外出て行くなよ」


「別に関係ない」


「みんなせっかく集まったんだから、あんまり勝手な事するなよ」


実篤の隣に宇宙が立って居る。手に持っていたブーツをその場で履き始めた。


「その子と仲が良いのね、付き合ってるんでしょ?」


「ちがう、コイツは……」


「なによ?」


「いろんな事情が合って俺が預かってるんだ、お前が考えているのとは違う」


「一緒に住んでるんでしょ?」


「そうだけど」


「キレイな子ね」


雪子は宇宙を見る。

淡いピンク色の髪の毛はそれだけでも目立つのだが、全体的にそれだけじゃなくキラキラと光っているような感じがする。

所沢なんて地味な地方都市よりも高層ビルとネオンの中でこそ映えるような人に雪子は思えた。

私とは全然違う。

雪子はそうさっきの言葉に付け加えようかと思ったが、それは自意識過剰過ぎるとおもって止めた。


「もう店には戻らないよな?」


「まあね」


飛び出して来ておいて、流石に戻るわけにはいかなかった。

それは実篤も一緒だった。


「とりあえずさ、家までは送るよ」


「すぐそこよ?」


「知ってるよ」


雪子の家は商店街から少し歩いたところ、昔の商店街沿いに乱立する高層マンションだった。

高校生の頃はよく家の近くまで一緒に帰っていたので実篤も雪子の家の場所は知っていた。


「別に良いわよ」


雪子は気にせずにそのまま歩き始める。


「ちょっと待てよ三島」


実篤は追いかけようとしたが一瞬振り返ると、まだ宇宙がブーツの履き方に難儀していた。


「何やってるんだよ宇宙!」


「靴ってめんどうですね」


宇宙と離れるとそれはそれで問題が起こるので、直ぐ実篤は宇宙に動くように即す。


「いくぞ宇宙」


「はい」


宇宙は素直に実篤から差し出された手を握った。

実篤が宇宙を引っ張るとまた重さは感じない。

まるで中身が空っぽの様な感じがする。

だから商店街を進む雪子には直ぐに追いついた。


「三島、あのさ」


横に並んでも、雪子は無視したまま歩いている。


「その、なんか宇宙が変な事聞いて悪かったよ。謝る」


(私は変な事聞いてませんよ?)


実篤は宇宙からの思念に反論しようと思ったが我慢した。


「だから機嫌直してくれよ」


実篤が言葉を重ねても、頑固に雪子は無視を続けた。

そんなに長く無い駅沿いの商店街が終ろうとする頃、実篤は昔の事を思い出した。

そうだ三島雪子は一度決めた事は頑として譲らない性格だった。

背が低くて体は小さいくせに、誰よりも負けず嫌いで頑固だった。


「三島、何を怒ってるんだよ?」


突然、三島雪子は立ち止まる。


「私にも分からない……」


それは小さな声で、誰にも聞こえない様な声だった。


「なに?」


実篤が聞き直しても、当然の様に雪子は実篤を無視して歩き始める。


「待って」


実篤は咄嗟に手を伸ばしていた。

普段だったらそんな事はしないのに、その時は手を伸ばさなければ行けないと思った。

大事なものが離れてしまうのを繋ぎ止める為に人の手はあるのだろうか?

後からそんな事を考えた程、実篤はそのとき無意識に手が伸びて雪子の手を掴んだ。


「なんだ?」


「えっ?」


雪子の手首はとても細く、力を入れると折れてしまいそうだった。そんな柔らかい感触とは別に、実篤と雪子には小さな電流の様な痺れを感じた。

静電気のような気もしたが、触った後に何かが体を駆け巡った様な気がした。


「宇宙、お前なんかしたのか?」


「何もしてない」


そのとき実篤には宇宙の目が輝いて見えた。

街灯の光が反射しているというよりは、自分の目が赤く光っているようだった。


「本当にそうなのか?」


「うん」


「実篤君」


雪子が手を持ち上げる。


「離して」


「悪い……」


「実篤君、なんか変わった」


「俺が?」


「前はこんな手を掴む事なんかしなかった」


「そうか?」


実篤は最近宇宙の暴走を止めるのに直ぐに手が出る癖がついていた。


「やっぱりあの子の影響?」


雪子は宇宙の方を見る。


「まだ、会って一週間もたってない」


「本当に?」


「そうだけど」


「仲が良さそう」


雪子は実篤と宇宙が握ってる手を見る。

慌てて実篤は握っていた手を離す。


「元気そうね」


「三島俺は……」


「何?」


「俺はあのときの事を……」


雪子は実篤の言葉を聞くと、咄嗟に身を引いて顔を背ける。

実篤と雪子は向き合ったままお互い言葉を発する事に躊躇していた。

そんな二人の間に興味津々に瞳を輝かせた宇宙が立っていた。


「宇宙、お前ちょっと離れてろよ」


「離れていい?」


「よくないわ!」


(地球壊れちゃうから?)


笑いながら宇宙は実篤に抱きつく。

離れない意思表示なのだろうが、それは三島雪子にとっては決定打になった。

雪子は口元を強く閉じて、実篤を睨む。


「じゃあね、実篤君」


「待てよ三島」


「ついてこないで!」


瞳はが髪量の多いボブカットの影に隠れて良く見えなかった。

どんな表情で声を出したのか実篤には分からない。

もちろんいつも表情を変えない雪子だから、何時もの通りになにも感じてないのかも知れない。

けど、久しぶりに会った雪子はやっぱり雪子で、なんだか小さな体の中に爆弾を抱えてるようだった。

ゆっくりと歩いていく雪子の小さい背中を見ながら実篤は自分が周りの視線を集めている事に気がついた。

ああ、着てる服は違うけどいつも目で追っていた背中だ。

感慨深く実篤は雪子を見送るが、周りの視線は実篤に集中していた。

それは幾ら地方都市の商店街とは言え、それなりの人通りがあった。天下の往来で女の子に振られてたら相応に人目につく。

さらには派手な髪の色をした女の子に抱きつかれたままでは、周囲から奇異なものとして見られる。


「追いかけないの?」


「いい加減離れろよ」


「離れるなって言ったのは実篤でしょ?」


実篤の方に手を回して、子供の様に宇宙はまとわり付いた。

顔を近づけて足を上げて抱きつく。

よく見れば宇宙の体は浮いている様にもみえるのだが、そんな非常識な事態より、外見の派手さに皆は心を奪われていた。


「俺はお前のせいでな……」


「私のせいで?」


「三島に誤解されただろ?」


「なにが?」


「こうやってくっついてるのが、お前と俺が付き合ってるって」


「付き合ってないの?」


「ないだろう?」


「こんなにくっついてるのに?」


宇宙の声は甘く、それはそれでどこか別の所に連れて行ってもらえるような囁きだった。


「くっついていても、付き合ってるとかは関係ない」


実篤は我ながら苦しい言い訳だと思ったが、宇宙はなるほどと納得しながら実篤から顔を放した。


「でも俊彰が他人のなかで、他の人と比べて一番一緒にいる時間が長い異性がいたら付き合ってることになるって言ってた。私には一緒にいるのは実篤しか居ないから、付き合ってるんじゃないの?」


「そういう事じゃない」


ふーんと宇宙は実篤の顔を覗き込む。

所沢駅から続く商店街を行き来する人の目線は今度は実篤と宇宙から背き始める。

宇宙の赤い瞳はじっと実篤を見詰める。


「やっぱりそうなんだね、人間はこうやって物理的に体を重ねても何も繋がっていない状態が多いのね」


「なんだよそれ」


「さっき実篤と雪子の間に、私は何か力を感じたの、それが私がここに居る理由と関係あるような気がする」


「なんだよその力って?」


「わかんない、実篤達の辞書にも言葉がないから私も説明出来ないよ」


説明出来ない力と言われては実篤はイメージも出来ない。


「本当にお前はなんなんだよ……」


実篤は頭を抱えながらふと顔を上げた。

自分が今見ている風景は、夜だったがあの最初に宇宙と会う前に夢で見た光景、所沢が崩壊していく現場と同じ所に立っていた。

デパート前の交差点、商店街の入り口で崩壊は始まって、自分は宇宙に放りだされた。

あの時の感覚は今でも鮮明に覚えている。

夢のようなものだと分かっていても、夢だと割り切れない感覚。

今自分の肩にかかる宇宙の手を跳ね退けて、走り出せば同じ様に世界は終るのか?


(終わらせてみる?)


宇宙の囁きに、実篤は何も言わなかった。

実篤は宇宙を抱える様にして、そのまま家に帰る道へと歩き始めた。

一瞬立ち止まって実篤は遠くを見る、それは雪子が住む高層マンションの方だ。

自分は雪子に会って何か言いたかった筈だ。

けど何か言いたかったんだろう?


「今更なぁ」


「今更?」


「何でもねえよ」


「また夜空にお願いごとする?」


「なに言ってんだ?」


「フフフ、私は覚えてるけど実篤はやっぱり覚えてないんだ」


「うん?」


宇宙の笑顔は何処か恥ずかしそうで、自分だけの宝物を出し惜しみする子供のような笑顔だった。




■■■4




「来るんじゃ無かった!」


「バカ若いくせにバテるな、戻れ!」


グダグダのまま終った同窓会、三島雪子と別れた後、実篤は三日間程ふさぎ込んだ。

その間の事は殆ど覚えていない。

何度か希美が醤油を借りに来たり、森本姉妹が夕食のお裾分けを持って来たりもしたが、全て無視した。

実篤は何も考えたく無かった。

当然受験勉強もせずに、髪もボサボサのまま朽ち果てて行く廃墟の様に四畳半の古いアパートの一室に引きこもっていた。

布団に潜り込みながら、たまに天井を見上げれば宇宙が浮いていた。

宇宙は実篤に気がつくと、微笑みながら近づいて来る。

それを見て実篤はまた布団に潜り込む。

そんな風に三日程を過ごした平日の昼過ぎ、実篤は周りをネットで囲んだ人工芝の上、汗だくになりながらサッカーボールを追いかける事になっていた。


「無理ですよ……」


「なまっちょろいな!」


実篤に声を掛けるのは銀髪で顔に皺が多いが、姿勢がよく、ハキハキと喋る男だった。


「海野さん、俺もう無理ですよ……」


「何が無理だよ本当に」


海野重辰は実篤の母親の知り合いで、地元所沢でビル等の清掃会社を経営する四十代の男だった。


「頑張れ実篤」


コートの四隅に張られたネットの中に入って、フットサルコートのタッチライン際で宇宙が実篤に向かって声援を送る。


「あんな可愛い子に応援してもらっておいてお前、そんな程度でギブアップなんてやる気あるの? 彼女に良いとこ見せようって気ないの?」


「彼女じゃないですって」


「そうかい、じゃあ平日の真っ昼間こんな所でお前みたいな浪人生を応援してる理由は彼女じゃなきゃ何なんだよ?」


「色々あるんですよ……」


「頑張れ実篤」


宇宙は実篤に言われていた応援を定期的に行っていた。

それは応援とはどうすればいいのかと聞いたら「頑張れとか言う事だよ」と実篤のおざなりな説明どおりで、頑張れと声を掛けるだけだった。

それでも周りから見れば羨ましいものだった。


「社長、早く続きやりましょうよ」


「おう、ちょっとまってな」


海野重辰はへばってる実篤を放っておいて、直ぐに自分のポジションに移った。


「はいキックオフ」


直ぐにボールが動いて試合が始まる。

実篤ともう一人、小柄の眼鏡の男を覗いてみんな海野の会社の従業員だった。

年齢は二十代が半分以上で、その他はバラバラで、最年長は海野だった。

平日の昼過ぎにこれだけの人数が集まってサッカーコートの狭い五人制のフットサルを楽しんでいるのは全ては海野の呼びかけだった。


「ほら早く戻れ」


「クソ」


フットサルはボールを足で扱う所は当然サッカーだが、コートが狭い分実際はバスケットの様に攻守の切り替えが激しい、体力を使うスポーツだ。

なので、適当に流せば良いのだが、海野の会社の社員はサッカー経験者も多く、さらには負けず嫌いの人間も多いので誰一人サボらないでコートを縦横無尽に走り回っている。

なので実篤も攻められる時ゆっくり敵陣から自陣に戻って来ると、もっと早く戻れと直ぐにどやされる。


「実篤、ほらなまこさんを押さえろ!」


「俺が?」


なまこさん、そう呼ばれたのは頭にタオルを蒔いて、眼鏡を掛けた痩身の男だった。

彼はボールを持つとどんなときでもすぐに前を向き、敵のゴールに向かってドリブルの姿勢に入る。

実篤が目の前に立ってコースを塞ぐと、なまこさんは一瞬前傾姿勢を解いて立ち尽くす。

足下のボールが離れているのを見て、実篤が不用意に足を出す。

その瞬間なまこさんはボールの上に左足を乗せて実篤の足をかわすようにボールを足下へと引く。

そのまま引いたボールを右足首の内側で擦るように叩いて華麗に実篤の脇を抜いていく。

一瞬で抜かれた実篤を尻目に、なまこさんはキーパーと一対一の形まで持っていく。

今度もさっきと同じ様な足技で、飛び出して来たキーパーを避けて、ボールを軽くゴールへと流し込む。


「どりゃー」


ボールは掛け声と共に走って来た海野がゴールラインを割る直前でボールを跳ね返した。


「社長、ナイスディフェンス!」


滑り込んだ後、海野と他のメンバーは手を合わせて得点を防いだ事を喜んでいたが、シュートを止められたなまこさんは悔しがるとか一切表情を変えずに平然とまた元のポジションに戻って行った。

海野の会社の社員は、肉体労働が多いのか、体が大きかったり、太っている者も多かった、そのなかで細身で背が低く、尚かつ肌も白いのにボールの扱いだけはなまこさんが一番上手くて、誰もなまこさんからボールが奪えなかった。

そして、チームメイトもなまこさんが殆ど一人でシュートまで持って行くので、面白く無い顔をしていた。


「よしちょっと休憩するぞ」


海野の掛け声でみんながネットが張られたコートの中から出て行く。

その中で実篤は一人だけ、人工芝のコートの上でへばっていた。


「どうだ実篤、部屋に居るばっかりで退屈だっただろ?」


「いや、最近そうでもないです」


「なんだ部屋の中で彼女と運動か、お前そんなこと十代の頃からしてて良いと思ってるのか?」


もはや実篤には否定する気力も無かった。


「実篤大丈夫?」


「ああ、まあなんとか」


へばっている実篤に宇宙が寄って来た。


「頑張れ実篤」


宇宙の応援の声を聞きながら、実篤はコート外の他の人からのやっかみの視線を感じていた。


(私ちゃんと応援できてますか?)


「ほんとお前はそういうところは素直だよな」


ここに来る前、実篤は宇宙と幾つか約束していた。

一つは自分の近くに必ず居る事。

お互いが見えて、フットサルコートくらいの距離が重力崩壊、地球が壊れ始める現象が起こらないギリギリの距離らしかった。

もう一つはとりあえず応援すると言う事で近くに居るのだから、「がんばれ」とか適当に言っておけという指示だった。

宇宙は素直にその任務を遂行していた。


「ったくお前は一人で部屋でもくもくと勉強してると思ったらこんな可愛い彼女と遊んでて、お母さんが知ったら泣くぞ?」


「だからそういうんじゃないんですよ、母さんには絶対言わないでくださいよ?」


「こんだけきれいな子を連れ回してたら、知られるの時間の問題だろ?」


「そうかも知れないですけど……」


「久しぶりにお前の部屋に行ったらこんなきれいな子と居るんだもんな」


そしてその場でバラされたく無かったら、今からフットサルやるから付いてこいと携帯電話片手に脅されて駅前近くのフットサルコートに連れてこられた。


「ほんとなんでみんな気軽に俺んち来るんですか?」


この前の俊彰といい、みな庭の方から実篤の部屋の様子を見に来る。


「そりゃ定職にも就かないし、学校にも行かないヤツだったら家に必ず居るだろうって気軽に行けるだろ?」


「携帯に連絡くださいよ……」


「携帯だったら嘘つかれるかもしれないだろう。助かるよほんと暇なヤツが居て、おかげで試合が出来る」


嬉しそうに海野は笑う。


実篤もつられて笑いそうになるが、浪人の身なので笑えない。


「こんな平日の真っ昼間からサッカーやってて良いんですか?」


「いい訳ないじゃねーか」


海野は気持ち良さそうに笑う。


「今日はたまの休みの日くらい家の買い物手伝えって母ちゃんに言われたけどな、最近忙しくてボール蹴れなかったから周りに声かけまくってやっと十人集まったぜ」


不安なんて全くない。


海野はそういう顔をしていた。


「スゴイですね」


「何がだよ?」


「いや、不安なくて」


「まあ、不安はあるけどもボールを追っかけてる時くらいはボールの事しか考えてないからな」


実篤は海野が適当な事を言ってるとは思うが、確かにサッカーボールを追いかけているときは、先週の三島の件も、宇宙の事も忘れていた。

宇宙と薄暗いアパートで二人だけで居る時に感じる罪悪感は感じない。

起き上がって、休もうとする実篤の所にボールが転がって来た。

なまこさんが休まずにさっきから一人でボールコントロールして遊んでいた。

何も言わずにジッと実篤の足下に転がったボールを見ている。

とりあえず実篤は素直にボールを蹴ってなまこさんに返す。受け取ったなまこさんは小さく会釈して、またボールを足で捏ねくり回した。


「なんかヤバくないですか、あの『なまこさん』って?」


「まあ堅気の商売の人じゃないからなあ」


実篤は海野に顔を近づけて聞いた。


「なんの商売ですか?」


「漫画家って言ってたな」


「漫画家?」


「ああ、自営業だから時間に融通が聞くって、殆ど毎日の様にこのコートに来てて良く顔合うから練習に誘ったら毎回来てくれてるんだよ」


「所沢に漫画家がなんで居るんですか?」


実篤の中のイメージだとそういう人は都内か、中央線の沿線に居ると思っていた。所沢なんてなんの特徴も無いし、どこにでもある私鉄沿線の街に漫画家がわざわざ住む理由なんて無いと実篤は思った。


「この辺家賃安いからな、漫画家なんて自宅が仕事場だから家賃が安ければ安い程いいだろうしな」


まあ確かに家で作業するんだったらと実篤は納得した。

それにしても漫画家だったら今の自分の置かれた立場を話せば、地球の存亡の危機を日常に感じながら毎日勉強してる事に同情してくれるのだろうかと考えたが、さっきから一人で誰とも会話を交わさずにボールを黙々と蹴ってる姿を見てるとそれも難しそうだった。

やっぱり変った仕事をする人は変った人が多いのだろうか?


「お前もさっき散々やられてたな」


「あの人からボールなんて穫れないですよ」


「どうして?」


話の途中に急に宇宙が珍しく話に割って入って来た。


「いや、だって次になにするか分からないし」


「そうなの?」


「まあ、なまこは本当に足下は上手いからな」


「あんなに上手かったらボールなんか穫れないですね」


「なんか今まで一緒にボール蹴る友達が居なくって、ずっと一人でボール扱い練習してたんだって」


「一人でやっててあんなに上手くなるんですか?」


「ああ、だからほらパス出せないだろ?」


なまこさんがパスを出さないでドリブルばっかりするのは一人でずっとボール扱いの練習をしていたので、パスを出すタイミングとかが全く分からないからだった。


「ずっと一人で練習って出来るんですか?」


「そりゃあ、お前漫画家になるくらいの変人なんだから、そういうのも苦にならないんじゃないか?」


実篤には漫画家全員が変人かどうかは分からないが、確かになろうと思ってなれる職業ではない事くらいは分かる。

それにさっきから殆ど誰とも喋らないで、休憩時間もずっと一人でボールを弄ってるなまこさんを見て、確かに変わってる人なんだとは思った。

実篤と海野が話し込んでいる間も、なまこさんは一人でボールをリフティングしている。

太腿で浮かしたボールをそのまますかさず右の足首でボールをホールドして半回転した後、引っ掛ける様にボールを浮かしてから、左足の踵でボールを蹴り上げてまた太腿でトラップする。

あれだけボール扱いが上手いとドリブルも足に接着剤が付いているみたいにボールが離れないので殆どボールが穫れない。

後から考えれば滑稽なのだが、その時の実篤はなまこさんからボールをどうやって穫るのかだけしか考えていなかった。

地球が崩壊するとかどうとかの話は簡単に忘れていた。


「海野さんもなまこさんからボール穫れるんですか?」


「サッカーだったらタックルできたり身体入れたり、シャツ引っ張ったりして邪魔出来るけどな、フットサルだからな」


もちろんフットサルでもシャツは引っ張ってはダメだ。


「まあボール持ってる人間がイニシアティブを握ってるんだから、迂闊に飛び込んだらかわされちゃうな」


「どうやってなまこさんからボール穫るんですか?」


「読みじゃねぁか?」


「どうやって読むんですか?」


無表情にボールを扱うなまこさんを見ながら実篤は腕を組む。

他の人と会話も交わさないで、黙々とプレーするなまこさんは普通に何考えているのか分からなかった。


「相手がどうするか分かれば穫れるの?」


「まあなんとか……」


宇宙が話に割り込んで来た。


「はは、面白い一対一やってみればいいじゃないか。なまこ、ちょっと実篤君と一対一やってみて」


「無理ですよ!」


「いいからちょっとは勉強してボール取るの上手くなれ、フットサルは六割守備だ」

ポンと実篤は海野に背中を叩かれて、フィールドの中に入る。


「なまこ、ちょっとコイツと一対一やってみ?」


目の前には早速ボールを持ったなまこさんが立って居た。

顔は無表情だが、ボールを足で触りながら今か今かと仕掛けるのを待っている。

実篤がゴールの前に立って、なまこさんが攻める側に立っている。

宇宙はいつの間にかゴール横に立っていた。


「お嬢ちゃんそこに居ると邪魔だから、コートの外に出てな」


「ここが良いです」


宇宙は実篤の後ろからどかなかった。

その宇宙が立っている後ろに海野の社員が集まってくる。

コートの二人を見ているようでもあり、宇宙の後ろ姿に釘付けになっているようでもある。


「頑張れ実篤」


宇宙の声援と共に、海野の会社の社員の恨みの視線が実篤に注がれる。

実篤の前に立つなまこさんは既にやる気十分なのかボールを止めて、真っすぐに実篤を、その先にあるゴールを見つめている。

そして合図もなしにボールを蹴りだす。

なんの段取りも無く始まった勝負に実篤はとりあえずなまこさんの前に立った。

その間合いは横から見ている海野から見て、詰めすぎにみえた。

これではなまこさんが左、右とフェイントを掛けて逆を取ったら簡単に抜かれてしまう。


「あっ!」


声を上げたのはなまこさんの方だった。


「穫った……」


実篤が咄嗟に伸ばした右足が、奇麗になまこさんからボールを奪い取った。


(右に来るよ)


実篤は宇宙から送られた言葉通りに足を出しただけだった。


「次」


ボールを穫った余韻に浸ってる実篤に向かって、今まで無口で一言も発する事の無かったなまこさんが催促する。

もう一度実篤がボールを戻して、なまこさんはドリブルを始める。

今度はスピードをつけてドリブルしてくる。


(今度は左、もうちょっと我慢したら足出して)


慌てず実篤が後ろに引きながらなまこさんと平行する様に走る。

一瞬、実篤から見て右にボールを蹴りだす素振り、フェイクを入れるが、実篤は馬鹿正直に宇宙の言葉に従って左に山を張った。


「また穫った!」


今度も実篤の足にボールが残った。

凄いなあと周りも騒ぎ始めたが、宇宙はなんとも思ってないのか只ゴールの脇に立っていた。


「すげえな穫れるもんだな」


ただ来るコースが分かってるだけで、簡単にボールが穫れた。

もともとなまこさんも年中自宅で作業している漫画家なので身体能力が高いわけでもない。タイミングだけで抜いていたので、どうしても先を読まれるとまだ十代の実篤の方がスピードがあった。

それから五回程この一対一が続くが、なまこさんは結局実篤を一回も抜けなかった。


「すげえ全部止められた」


最後になまこさんは大技、ボールを踵に引っ掛けて相手の頭上を抜くヒールリフトで抜こうとしたが、宇宙の予測により先が読めていた実篤は先に反転してボールの落下点に足を出して、簡単にボールを止めてしまった。


「やった止めた」


妙な充実感に包まれて、実篤は興奮してガッツポーズを取った。

対称的になまこさんは肩肘を付いて、全財産を没収されて路頭に迷うくらいの衝撃を受けたのか、ずっと地面を見詰めていた。


「簡単だったでしょ?」


「ああ、足出した所に嘘みたいにボールが来てビックリした」


実篤に寄って来て宇宙は微笑む。


「相手が次どうするか予想出来れば簡単だった」


この時実篤は無邪気に、勝負に勝った喜びに浸っていて、その近くで両手両膝を付いて落ち込んでいるなまこさんの事を忘れていた。

テクニック重視の彼にとって、友達が居無くて一人でボール遊びをしていて身につけたテクニックが通じない事は己の存在を否定された事に等しかった。


「嬉しいの実篤?」


「そりゃあまあ」


充実感を感じている実篤をなまこさんは恨めしく見上げる。

進まない漫画の作業をサボってまで来て、明日どうやってできて無い言い訳をすれば良いのかこれから考えなければいけないのに、なぜ今日初めてやるような素人に封じ込まれて、尚かつ相手には可愛い奇麗な彼女が居る事になまこさんはこの世の全てを呪う様な顔で実篤を見上げた。


「なんで次の動きが分かったんだ?」


「物理法則に則って計算すれば、動きってのは簡単に分かるじゃない?」


「分かるか!」


なまこさんには実篤と宇宙の会話は何を言ってるのか分からなくても、、楽しそうなカップルののろけにしか見えなかった。


「……捥げろ」


恨み言と同時になまこさんは足下のボールを蹴った。

コントロールせずに感情に任せて蹴ったボールは真っすぐと宇宙の方へと向かった。


「グェ」


宇宙に真っすぐに飛んでったフットサル用のボールは宇宙にあたる直前に物理的な法則を全て無視して、急激に曲がって実篤に当たった。

一瞬なまこさんは何が起こったか理解出来なかったが、ボールをぶつけた事は分かって我にかえった。


「こら、仲良くやれ」


外で見ていた海野がなまこさんに声を掛けるが、そのままなまこさんはピッチの外に置いてあった荷物を持って、フットサルコートから逃げ出して行った。


「お前なにやったの?」


お腹を押さえながら、実篤は宇宙を見上げる。


「重力を曲げたの」


宇宙は彼女自身が重力を屈折させて周りに望み通りに重力を変更する事が出来る。


「なんでボールが飛んでくるって言わなかったんだよ?」


「言ってほしかった?」


実篤はお腹を押さえながら宇宙を恨めしそうに見る。


「そりゃこんな痛い目に遭わなくて済むならそうするだろう?」


「ふーん、けどそんな事はどうでもよくない?」


「そんな事ってどういう事だよ?」


「私には今実篤の中で強く動いている反応が分からないの」


「反応?」


「ああ、えーと言葉にすると何だろう……感情でいいのかな?」


「感情が分からないってどういう事だよ?」


「なんでそんなにみんなで目に入った事とか触れた感触で、そこまで強く重なり合う事が出来るのか、私には新鮮で面白い」


「はぁ?」


「うーんまあ実篤には分からないよね、残念」


お腹と心に納得がいかないまま実篤はコートを出て行った。

結局なまこさんが途中退場してしまった為、人数が足りなくなって、フットサルはそのまま有耶無耶のまま解散する事になった。

晩ご飯を海野さんに誘われたが、流石にこれ以上宇宙がらみでなにかあったらと思うと気が休まらないのですぐに帰る事にした。

フットサルコートは所沢駅の近くにあり、実篤のアパートも近くにあるので歩いてすぐだった。

昔は所沢の駅の近くに鉄道会社の車両整備工場が稼働しててその敷地の一部がフットサルコートになっている。

緑のネットの横には大きくて長い電車の車両をスッポリと囲う程の大きな屋根が見えるが、今は車両工場は使ってないので静かにその巨体が駅前の一等地に横たわっている。

昔から変わらない風景、だけど小さい頃はこんなところの近くでサッカーすることになるとは思わなかった。


「さっきの面白かったね」


珍しく歩きながら宇宙が声を掛けてくる。


「何がだよ?」


「色んな人が色んな事を考えながらさ、一つのボールを蹴り合う所が」


「それのどこが楽しいんだ?」


「ちょっとだけ予想しづらくて楽しいよ」


「あのなまこさんのドリブル止めた時みたいに予想なんて簡単にできるんじゃないのか?」


「やっぱり対象物が増えると相互作用で予想は難しくなるから、一つのボールに沢山の人が群がるとやっぱりどうなるのか分からないから楽しくなる」


「分からないのが楽しいのか?」


「楽しい」

宇宙は嬉しそうに目を見開く。


「私は実篤に呼ばれてここに来てから楽しい事ばかり」


軽そうに宇宙は体をゆっくりと捻る。


「俺はお前なんか呼んだ覚えはないぞ?」


「本当に?」


「どうやって呼ぶんだよお前みたいな非常識を」


「実篤に呼ばれたからこの場所に居るのに」


宇宙は実篤の手を取る。


「あっお前また浮いてないか?」


宇宙が実篤の手を引っ張っても、実篤は殆ど重さを感じなかった。


「浮いてないよ」


どうだという感じで宇宙はバレリーナの様につま先で、微動だにしないで真っすぐに立つ。


「ったくお前は本当になんなんだよ?」


実篤は呆れながら宇宙の手を引っ張る。

一緒に外に出るときは、何かの調子で二人の距離が離れて、夢で見た光景、所沢が地球が壊れて行く事になったらと考えてしまうのに、何故か気がつくと宇宙は普通の友達や家族と同じ様に緊張感なく付き合う事が出来てしまう。

狂っているのは承知しているが、余りにも自然に宇宙とは接してしまう。相手は宇宙が人になったデタラメな存在と知っていてもだ。

人の形をしてれば人間は相手に同情をしてしまうものだが、この世界の外にある外宇宙が人の形をしているなんてスケールが大き過ぎて実感がわかない。


「実篤?」


「うん?」


「雪子だよ」


宇宙が指をさした方向には雪子が居た。実篤達の方を見ていた。

実篤は宇宙と握っていた手を離して、直ぐに駆け足で雪子に近づく。

雪子は踵を返して歩き始める。

待てと声を掛けたいが、人が沢山いるところで声を上げるのは躊躇した。

雪子とは同窓会との後、もちろん連絡は取ってない。

実篤はその時宇宙との距離なんか気にしなかった、すぐに雪子の方へと駆けて行った。


「三島」


実篤は少し息を荒げてやっと声が掛けられるくらいの近さに近づいた。

雪子は振り返りもしない。


「三島?」


雪子は大学帰りなのだろうか、肩に掛けた鞄を持ちながら実篤から顔を背けてただ歩いている。


「三島」


実篤はこの前の様にすぐに手を出したりはしなかった。

ただ横に並んで名前を呼ぶ。

根負けした雪子は遂に足を止める。


「なんのよう?」


実篤はホッとした様な顔で雪子の顔を覗く。冷たい反応されるのは織り込み済みだったので、声を掛けてもらえるだけ良かったのだ。


「いや、こっち見てたから……」


その時実篤は初めて気がついた。

「宇宙!」

宇宙を置いて来た事に実篤は気がついて慌てて来た道を振り返る。


「あいつどこに行ったんだ?」


歩いて来た道には宇宙はどこにも居なかった。


「そこに居るわよ」


息も荒げずに実篤の後ろに宇宙は立って居た。


「紛らわしい事すんな!」


「いきなり走り始めたのは実篤じゃない?」


「悪かったよ」


実篤が謝ったのは宇宙本人にというよりは、勝手に地球を壊す所だったので全人類にたいしてだった。

雪子はそんな二人のやり取りを見てまた歩き始める。


「じゃあね」


「待って三島」


「何よ?」


相変わらず雪子は警戒心を解かない。


「この前の事……」


「この前?」


「いや、あの俺三島に……」


実篤は雪子に言いたい事がある。

でも言いたい事というヤツは具体的な言葉になって出てこなかった。


「彼女待ってるわよ?」


「だからアイツはそういうんじゃなくて」


「そういうのって?」


「別に付き合ってるとかそういうんじゃなくてさ」


「そうでもそうじゃなくても、私には関係ないわよ……」


雪子は無表情のまま顔を背ける。


「三島はあの日からそうだ、俺の話を聞いてくれないよな」


珍しく実篤が声を荒げる。


「あの日?」


「あの日俺が……」


その時実篤の携帯が絶妙のタイミングで鳴った。

電話の発信者の所は俊彰の名前だったので、直ぐに実篤は着信を消した。

アイツ何処かで見てるのか? と辺りを見渡した。


「居ないよな?」


そしてまた直ぐに電話が掛かって来た。

「あー畜生、俊彰からだからちょっと三島、待ってて、なっ頼む」


実篤は両手を合わせて三島に頼み込んだ。

そして少し離れた所から電話を隠す様にして会話を続ける。


「なんだよ俊彰!」


「なんだよってお前、この前の同窓会からいくら電話しても電話もメールも繋がんないじゃないかよ、あの後三島となにかあったのか気になるじゃねえか」


「お前には関係ないだろう?」


「うん、今も都内某所で大学生活を満喫中の俺には確かに関係ないが、親友の過去の恋愛の清算にはとても興味があるよ」


「お前絶対今度会ったらどうなるか覚えてろよ?」


「うん、また宇宙ちゃんに会いに行くよ!」


俊彰の話題の軽さは時々本当にウザいのだが、特に女の子が絡むとそのウザさは最高潮に達する。


「なあ実篤、お前ほんと三島との事はちゃんとしておいた方が良いぞ?」


「なんだよそれは?」


「だってねえお前、周りから見て三島がお前の事を好きだったのはまるわかりじゃないか?」


「そうなのか?」


「お前ほんと自分の事に鈍くね?」


実篤は電話をしながらチラリと三島雪子の方を見る。

雪子の前には宇宙が立っていた。

何か話してるようだった。


「だから、ほら正月以降、受験前か? 急になんか二人とも余所余所しくなったからなんかあったのかってみんなで話してたんだよ」


「そうかよ」


「なんだよ人が心配してやってたのに」


「お前の場合はただの興味本位だけだろ?」


「そうだけど」


俊彰は否定どころか何を聞き返しているのかと実篤を馬鹿にした様な返答をした。


「なぁなにがあったんだよ実篤、いい加減教えろよ」


「何がってなんだよ?」


「何かなければあそこまで懐いてた三島が、お前に対して彼処ま

で無視を決め込むとは思えねえんだけど?」


「なぁ俊彰」


「なんだよ」


「俺は本当に三島から好かれてたのかな?」


実篤は小さな声で呟く様に携帯に囁く。


「お前だけだぜ、あのクラスで三島とまともな会話できたの?」


「俺もそう思ってたんだけど、違ったんだよそれ」


「どういう事だよ」


「俺も三島の事好きだったんだ」


実篤はもう一度雪子を見る。

宇宙と対面する三島雪子は何もかも対照的だった。

三島雪子の方が背が低くて、宇宙の空中に浮かんでいるような淡いピンク色の髪とは対称的な真っ黒な髪。


「じゃあなんで仲が悪くなったんだよ?」


「それは俺が……」


実篤は言葉を繋げなかった。


「おい、実篤、もしもし?」


実篤は携帯電話を切りもせずにそのまま目の前の光景に釘付けになった。


「宇宙?」


ゆっくりと実篤は歩いた。

足下を踏みしめて、ゆっくりとゆっくりと歩いた。


「おい宇宙!」


「実篤?」


実篤に強く肩を掴まれて、宇宙は無理矢理に振り向かされた。


「どうしたの?」


「どうしたのって、今までここに居たろ三島が?」


「うん」



「何処に行った?」


「何処に?」


「さっきまでここに居た三島が消えた」


宇宙は横を振り向く。

さっきまで立って居た三島雪子は消えていた。


「お前が消したのか?」


「多分」


「出せよ」


「実篤」


大きな声を出す実篤の周りに沢山の人が視線を投げ掛けていた。


「お前、何したんだ?」


「繋がったの私と雪子が」


宇宙は相変わらず笑顔で答える。

それは何か空っぽな印象を与える。

煌びやかな笑顔が、何かを遠ざけているように実篤は感じる。

笑顔の奥に、本心は猛スピードで離れて隠されているような気がした。


「繋がったってどういう事だよ」


「実篤、私の中を見て」


そういって何時もの笑顔、宇宙は誰もが逆らえない温かな笑顔で実篤を見つめる。

同じ背の高さ、若干ブーツを履いている宇宙の方が背が高かった。


「どこだよ」


「ここだよ」


そうやって宇宙はそっと実篤の顔に手を添えた。

その手は少し震えてる様にも見えた。

宇宙は自分の瞳を真っすぐに実篤の瞳に重ねる。

実篤の目の前には宇宙の顔が迫る。

そして宇宙の大きな目には自分が映ってる様な気がした。

沢山の光を吸い込む大きな目、まるで自ら光を発してる様に光っていた。


「宇宙?」


それは宇宙という目の前に立つ女の子の事なのか、それとも女の子の瞳の中に見えた沢山の光と淡い色使いの斑模様、帯状に纏まる光の集まり。それは理科の授業で見た写真、林間学校で山奥の夜に見上げた空よりもはっきりとした大銀河団の姿。

数多の星々で構成されている本物の宇宙の姿が瞳の中に映っていた。




「あなた実篤君の彼女なんでしょ?」


「違うよ」


実篤が俊彰の電話している間、宇宙はずっと三島雪子を見ていた。

もとから雪子は自分から話かけるタイプではないが、こうもずっと見つめられると間が持たなかったので話をした。

そして出て来た言葉が「彼女なんでしょ?」だったのには雪子自身も少し驚いた。

会う度に仲良く手を繋いでいた二人を見てれば付き合ってるのはあたりまえに見えた。

そう雪子は細かい所なんて聞いていない。宇宙の派手な外見に目が行って、実篤との噛み会わない会話の事なんて聞いてはいないし覚えてもいなかった。

だから即答で違うよと言われた事には正直馬鹿にされたようで怒りすら覚えた。

それは雪子が宇宙を最初に見た時に覚えている感覚と同じだった。

漫画みたいな淡い桜色の髪、背の高いモデルさんの様な細い手足と出る所はちゃんと出てる理不尽な身体。

派手な服が自分の欠点隠しじゃなくて違和感無く、逆に身体的特徴を先鋭化していて歪じゃない。

最初に宇宙を見たときはまるで自分と違う真逆の人間の様に思えた。

だから実篤君はこの宇宙っていう不思議な名前の女の子を彼女に選んだと思った。

自分とは違う、まるで反対の子を選んだと思った。

その時雪子は初めて気がついた。

なぜ自分は怒っているのだろうかと?

実篤から付き合おうと言われて断ったのは自分なのに。


「ねえ雪子」


「なに?」


雪子は警戒しながら宇宙の問いに応える。


「雪子はこの世界どうしたいの?」


「何の事?」


「雪子が居たからやっぱり私はここに居るんだって分かった」


「どういう事?」


「実篤は雪子が好きだった。雪子の事しか考えられないくらい雪子の事が好きだったの」


「そんな事無いわよ」


「だから私がこの世界に繋がったの」


雪子には宇宙の言っている事が怖かった。

世界だとか大きなスケールを使って使う言葉が理解出来ないからという怖さよりも、もっと本能的な、大きなものを目の前にして、自分では何かあったら太刀打ち出来ないという本能的な怖さだ。


「あなた何なの?」


「この世界がある『宇宙』とは違う別の『宇宙』、まだ私しか居ない小さな生まれたての外宇宙が実篤の想いに引っ掛かってここに存在してるの」


「意味が分からないわよ」


「実篤が願ったから私はここに居る」


「そんなに実篤君の事が好きなの?」


宇宙の言葉の意味が全然分からなくても、雪子にはそれが実篤に対する自信に聞こえた。


「雪子は?」


「私は……」


雪子は下を向きながら、持っていた鞄の柄を強く握りしめた。まるで命綱にしがみつくように強く握りしめた。


「好き?」


宇宙は大きな瞳で雪子を見る。まるで飲み込む様に、その目で雪子を見つめた。


「好きよ」


雪子が驚いた顔をしたのは自分から素直な言葉が出たからだ。いつもは感情にブレーキが掛かる筈なのに。

雪子は口元を押さえながら宇宙をみて絶句する。

その時、雪子はこの世界から消滅した。

実篤の目の前で文字通り跡形も無く消えてなくなった。



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