第22話 ロッカールーム

 カチャッ…

 無人駅のコインロッカーを開ける老婆、真夜中の月明かりに滲むように浮かぶ背の曲がった老婆の影は寂れた無人駅に歪んだ不気味さを添えている。

 開けたロッカーに向かい手を合わせブツブツと呟き、飴玉を一粒コトリと置いて10分もすると、再びロッカーに鍵を掛けて立ち去った。


 利用する人も、ほとんどいなくなった田舎の寂れた駅、誰に知られるわけでもない深夜の奇異。


「ずっと、ここで供養していたんですかね…」

 手袋をはめ、手を合わせる初老の刑事に若い刑事が尋ねる。

「そう…なんだろうな…」

「何十年もですか…」

「……あぁ…」


 道路に倒れている老婆が発見された。

 事件性はなく老衰による自然死。

 老婆の遺留品にロッカーの鍵があり、調べると2駅離れた駅のコインロッカーの鍵だと解った。

 開けると…。

 小さな骨が入った箱が入っていた。

『白骨化した乳幼児の骨』コインロッカー内で白骨化したものと断定された。

 手作りの位牌には『美和』と書かれており、老婆の実子であることが解った。


 コインロッカー内は綺麗に整理されており、お菓子や玩具が数点置かれ、それは赤子を遺棄したというより大切に供養していたといった感じであったそうだ。

 産まれて間もなく亡くなり、そのままコインロッカーの中で供養していたと推測される。

 老婆に親しい知り合いはなく、現在の住まいにも、いつから住んでいたのか知る人もいなかった。


「死体遺棄…なんですよね?」

「そうだな…褒められたもんでもないんだが…解らないでもないな…」

「埋葬する金もない、手元にも置いておけない…埋めるわけにもいかない…人って死んだら何なんでしょうね?」

「生ごみ…なんて扱われたくねぇもんだな…」

 そういうと苦笑いを浮かべ初老の刑事はロッカーを閉めた。

「もういいかい?刑事さん」

「あぁ…悪かったね、やってくれ」


 廃棄業者が錆びたロッカーをトラックに積みこんでいる。

「何十年…なんだろうな…」

 ボソリと初老の刑事は呟き、タバコに火を付けた。

 タバコの煙とトラックの排気ガスが混じり、寂れた無人駅に砂埃が舞った。

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